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おまけ ジリエ・リサシュの独り言

 ミュラの弟サシュの独り言です。

 


 姉さんと僕がこの山を棲みかにしたのはただの偶然。

 雪を被った山の様子が上から見たら真ん丸で、白くてとっても美味しそうだって姉さんが言ったから。


 姉さんは昔から不器用でマイペースな竜だった。

 内包する魔力はジリエの一族随一なのに、暴走ばかりで大雑把。巣立つときも父さんに泣き付かれて、僕は姉さんと一緒に縄張りを持つことになった。

 ある意味父さんの予想は当たってた。

 姉さんはあのまま放って置いたら、雪山を亜熱帯に変えていたかもしれない。ただゴロゴロ雪遊びをしていただけなのに!

 おかげで僕は姉さんの起こす騒動の後片付けに追われる毎日になった。

 たまたま姿隠しもせずに飛んでる姉さんを見つけて、一目惚れだと山まで追いかけてきたトカゲ獣人の記憶を、こっそり消して町に置いてきてあげたり。

 逆に姉さんが助けてくれる事だってあった。

 僕は魔力を操るのは上手くても、竜の個体としてはそんなに強くない。身体の大きさも姉さんの方が一回り大きいくらいだ。だから生け捕りにしようと山にやって来た魔術国家の奴らに捕まりそうになった時、姉さんがホワイトブレス(高出力の魔力の塊。直撃すると色々マズイ)を繰り出し、魔術師達の魔力を根こそぎ打ち消してくれた。魔力の消える山と恐れて、奴らはあれ以来ここには一切近づかない。今は国自体無くなってしまったらしい。

 そんな過去の話が今では謎めいた伝説になって『忘れの森』なんて言われているけれど、何のことはない。あの森は姉さんのお気に入りの昼寝場所なんだ。だから近寄る人は追い出すだけ。


 のんびりだけど退屈しない毎日。

 たくさんの生き物の生き死にを目にしながらも、何処かふわふわ浮世から離れた生活。




 ある日姉さんが(つがい)を見つけた。

 僕が番探しの旅に出てる間に、新しく着任した見廻りの雪狼を見初めたらしい。

 姉さんは僕が戻るのを待てずに、雪狼に話しかけようと自分で魔術を組み上げて失敗した。


 山に戻って、雪狼の側で涙目になりながらウサギを捌く姉さんを見つけて眩暈がした。

 いつもは丸飲みしてたのに!!


 大雑把でマイペースな姉さんが頑張る姿を見て、少しだけ放っておく事にした。

 雪狼の側にいる姉さんは幸せそうだった。

 たとえ記憶を失くしても、獣の本能は番を見失わないようだ。



 姉さんと毎年恒例の雪遊びが出来ないのはつまらないから声を掛けたのに、思い出した姉さんは雪狼と番になってますます遊んでくれなくなってしまった。

 僕の所に訪ねてくる時は、鬱憤が溜まって竜の姿に戻ってひとっ飛びした後、人化の術をかけて欲しい時だ。しょうがないから僕の方が人に化けて会いに行く事が増えた。


 四匹のやんちゃな子狼(パピー)に髪やマントを引っ張られて、遊びに行くといつもボロボロになる。

 でも数千年の緩やかな時よりも、今の目まぐるしい数年の方がずっとずっと楽しい。


 それに知ってる。


 今姉さんのお腹にいる五匹目は竜の女の子だ。

 空の上のさらに上、月に住む両親にも教えてあげなきゃ。


 育ってきたら雪狼の手には負えないだろうな。

 四匹も子狼にぶら下がられた姉さんは忙しいから、飛び方も人化のコツも、僕が付きっきりで教えてあげよう。

 雪狼はギリギリと歯軋りしながら見てればいいと思う。

 小さな姪に会うのが今から楽しみだ。



 ――僕もまた、番を見つける旅に出ようと思う。



 最後までお付き合い頂き、本当にありがとうございました。


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