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マッスル・ストロンガー・ザン・マジック ~回復魔法と筋トレの相乗効果で究極の筋肉を手に入れよう~  作者: tomato.nit
第二章 成長編

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第142話 ギルドという場所


 翌朝。


 窓の隙間から差し込む柔らかな朝の光が、部屋の中をゆっくりと照らしていた。昨夜遅くまで賑わっていたサリアンの街も、今はまだ静かだ。通りから聞こえてくるのは、遠くで店を開く準備をする音と、どこかの宿屋から漂ってくる焼きたてのパンの匂いくらいだった。


 ベッドの上で大きく伸びをしながら、マットは目を覚ました。


「……朝か」


 体を起こすと、窓の外に広がる空はすでに明るい。祭りの余韻で疲れていたはずだが、不思議と身体は軽かった。筋肉祭りで散々動き回ったせいか、むしろ調子はいい。


 そんなことを考えていると、隣のベッドから小さな声が聞こえた。


「お兄ちゃん、起きた?」


 振り向くと、ミリアが布団から顔だけ出してこちらを見ていた。まだ少し眠そうではあるが、目はきらきらと輝いている。


「おはよう」


「おはよ!」


 ミリアは布団を跳ねのけるようにして起き上がった。


「お兄ちゃん、今日はもう帰るの?」


 その問いに、マットは少しだけ考える。


 サリアンに来た目的は、もう十分果たした。


 筋肉祭り。


 魔法都市の魔術師たちに筋肉という概念を叩き込み、ついでに街の文化をほんの少しだけ変えてしまった。昨日の広場の様子を見る限り、その影響は当分消えそうにない。


「そうだな。帰るのもいいんだが……」


 マットはミリアを見る。


「お前、ギルドには行ったことあるか?」


「ギルド?」


 ミリアは首をかしげた。


「村の出張所ならいつも行ってるよ?」


「いや、出張所じゃなくてな。街にある、ちゃんとした冒険者ギルドだ」


 ミリアは少し考え、それから首を振った。


「ううん。行ったことない」


「そうか」


 マットは軽く頷く。


「なら、寄ってみるか」


 その言葉を聞いた瞬間、ミリアの顔がぱっと明るくなった。


「いいの?!」


「まあな。別に冒険者になるわけじゃない。ただ見に行くだけだ」


 だがミリアはすぐに少しだけ不安そうな顔をした。


「でも、お姉ちゃんはミリアにはまだ早いって止めるよ?」


 リーリヤの顔が頭に浮かんだのだろう。


 マットは苦笑する。


「今日は姉さんもいないしな。それに、知識として知っておくのは悪いことじゃない」


「やった!」


 ミリアはぴょんとベッドから飛び降りた。


 しばらくして二人は宿を出た。


 朝のサリアンは、昨日とはまったく違う顔を見せていた。


 通りには朝市の屋台が並び、魔術素材を売る店や魔導書を扱う店が次々と開き始めている。ローブ姿の魔術師が忙しそうに行き交い、時折、昨日の祭りの話題が聞こえてくる。


「昨日の筋肉祭り見たか?」


「見た見た。あの男、柱を殴って砕いたんだろ?」


「信じられん。魔術も使ってなかったって話だぞ」


 そんな会話を横目に、マットとミリアは通りを歩く。


 やがて街の一角に、大きな建物が見えてきた。


 石造りの重厚な建物。


 入口の上には、大きな紋章が掲げられている。


 冒険者ギルド。


 村の出張所とは比べものにならないほど立派な建物だった。


「ここが……ギルド?」


 ミリアは思わず声を上げる。


 目をきらきらさせながら建物を見上げていた。


「おっきい……」


「まあ、街のギルドだからな」


 マットは扉を押し開ける。


 中に入ると、空気が変わった。


 広いホール。


 壁には大きな掲示板があり、無数の依頼書が貼られている。


 奥には受付カウンター。


 その周囲には、武器や防具を身につけた冒険者たちが集まり、酒を飲みながら話をしていたり、依頼について議論していたりする。


 金属の擦れる音。


 笑い声。


 低く響く会話。


 命がけの仕事をする者たちが集まる場所特有の、少し荒々しい空気がそこにはあった。


 だが。


 マットとミリアが入ってきた瞬間、いくつもの視線がこちらを向いた。


 そして次の瞬間。


「おい、あれ昨日の……!」


「筋肉祭りのやつだろ?」


「優勝した嬢ちゃんじゃねえか!」


 空気が一気に和らいだ。


 何人かの冒険者が笑いながら手を振ってくる。


 昨日の祭りを見ていた者が多いらしい。


 マットにとっては、少し不思議な感覚だった。


 以前なら、カーボの姿を見た瞬間にひそひそと声が上がり、警戒した視線が向けられるのが常だった。だが今日は違う。


 歓迎されている。


 そんな空気だった。


 一方ミリアはというと。


 完全に周囲に夢中だった。


 掲示板を見上げたり、武器を背負った冒険者をじっと観察したり、きょろきょろと視線を動かしている。


「あれが掲示板?」


 ミリアが指さす。


「ギルドのやつって、おっきいんだね」


「村には小さいのしかないからな」


 マットは笑う。


「そんなにしょっちゅうモンスターに襲われても困るしな」


 そんな二人に、近くにいた冒険者が声をかけてきた。


「嬢ちゃん、昨日の筋肉祭りの優勝者だろ?」


 大柄な男だった。


「嬢ちゃんも冒険者なのか?」


 ミリアは首を振る。


「ううん。冒険者じゃないよ。まだ五歳だもん」


 その言葉を聞いた瞬間、周囲がざわついた。


「五歳?」


「五歳であんな魔法使ったのか?」


「嘘だろ……」


 ざわざわと声が広がる。


 マットはその様子を見て、どこか懐かしい気分になった。


 ああ。


 この空気だ。


 ギルドに来ると、だいたいこうなる。


「な、なぁ」


 先ほどの冒険者が、少し遠慮がちに言った。


「嬢ちゃんのステータス、見せてくれねぇか?」


「ステータス?」


「そこの水晶で鑑定してもらうんだ。自分の能力が数字で出る」


 ミリアは興味津々といった顔でマットを見上げた。


 まあ、気になるだろう。


「いいんじゃないか」


 マットは肩をすくめる。


「測るだけなら怒られないだろ」


 そうして二人は受付へ向かった。


「というわけで、ステータス見てもいいか?」


 受付の女性は少し驚いた顔をしたが、すぐに表情を整えた。


「別に構いませんが……いいんですか?」


 ちらりとミリアを見る。


「多少魔法が使える早熟の子はこの街にも多いですが、あまり期待しすぎると、水晶は嘘をつきませんから」


 どうやら昨日の祭りにはいなかったらしい。


 その言葉を聞いて、後ろの冒険者たちはにやにやと笑っている。


 マットは軽く笑った。


「大丈夫だ。どんな結果でも俺は驚かん」


「……わかりました」


 受付は少し渋い顔で水晶を差し出した。


「では、どうぞ」


 ミリアは興味深そうに水晶を見つめる。


 そして、そっと手を触れた。


 次の瞬間。


 水晶の中に、淡い光が広がった。


――――――――――


ミリア


種族:人間 レベル:15


生命力:58 魔力量:152

筋力:60 耐久:53 敏捷:61

器用:152 精神:106


適性

・風魔法:A-

・魔法制御:B-

・重力魔法:B+


固有技能

・重力操作

・操風

・風刃


称号

・筋肉祭り優勝者


――――――――――


 受付は、水晶を見たまま固まった。


「……は?」


 その反応を見て、マットは少しだけ笑う。


 この光景は、もう何度も見てきた。


 だいたい、皆同じ反応をするのだ。


 改めて表示されたステータスを眺めながら、マットは頷いた。


「姉さんが旅を始めた頃より数値が高いな」


 そして少し感心したように言う。


「魔力量もアルエより多い。二人に色々教えてもらっているだけあるな」


 だが、周囲が注目したのは別の数字だった。


「ね、ねえ!」


 後ろにいた女性冒険者が思わず声を上げる。


「この子……私より筋力高いんだけど?!」


 ギルドの空気が一瞬止まり、次の瞬間、大きなどよめきが広がった。


 マットはにやりと笑う。


「筋トレの成果も出てるじゃないか」


 そしてミリアの頭を軽く撫でた。


「それに、良い称号も貰ったな」


「えへへ」


 ミリアは少し照れながら笑った。


 だが、ざわめきはそれで終わらなかった。


 表示された数値を見比べながら、冒険者たちは次々と顔を見合わせる。


「……ちょっと待て」


 最初に声を上げたのは、先ほどの大柄な冒険者だった。


「嬢ちゃんがこれなら……」


 ゆっくりと視線が動く。


 そして一斉に、マットへ向いた。


「兄ちゃんはどうなんだ?」


「昨日の祭り、あれ全部この兄ちゃんの指導なんだろ?」


「むしろこっちが本命じゃねえのか?」


 口々にそんな声が上がる。


 受付の女性も、まだ水晶から目を離せない様子だったが、やがてゆっくりとマットを見る。


「……あなたも、測りますか?」


 その言葉に、マットは少しだけ肩をすくめた。


「別に構わんが」


 周囲の期待の視線が、一斉に集まる。


 どうやら逃げる空気ではないらしい。


 マットは軽く息を吐き、水晶の前に立った。


「まあ、見たければ見ればいい」


 そう言って、迷いなく手を水晶に触れる。


 次の瞬間。


 先ほどよりも強い光が、水晶の中に広がった。


 水晶の内部で光が脈打つ。


 先ほどミリアの時に見えた柔らかな輝きとは明らかに違う。まるで内側から押し広げるように、白い光が強く膨らんでいく。


「……おい」


 誰かが小さく声を漏らした。


 受付の女性が思わず身を乗り出す。


 やがて、水晶の表面に文字が浮かび上がった。


――――――――――


マット


種族:人間 レベル:38


生命力:214 魔力量:231


筋力:318 耐久:296


敏捷:129 器用:63 精神:219


適性


・回復魔法:EX


・身体強化:A


技能


・回復魔法


・自己回復促進


・筋肉制御


・電撃適応


・栽培


・従魔契約


称号


・異常成長体


・回復する拳


・モンスタートレーナー


・目覚めし筋肉


加護


・女神ゼニス(微弱)


状態


・長期昏睡による身体機能低下


備考


・電気刺激訓練による神経伝達強化


――――――――――


 ギルドの空気が、静まり返った。


 誰も声を出さない。


 いや、出せない。


 受付の女性は水晶を見つめたまま、ゆっくりと瞬きをした。


「……え?」


 小さく漏れた声。


 それをきっかけに、周囲がざわめき始める。


「筋力……三百?」


「おい待て、レベル三十八でか?」


「回復魔法EX……?」


「……ん?」


 別の冒険者が、表示を指差す。


「加護……女神ゼニス?」


 受付の女性が水晶を覗き込み、眉をひそめた。


「ゼニスの加護……確かに表示されていますが……」


 彼女は少しだけ首を傾げる。


「強さはほとんどありませんね。加護としては最下位に近い強度です。微弱……ほとんど飾りみたいなものですね」


 冒険者たちの視線が、一斉にマットへ向けられる。


 だがマット本人は、あまり気にしていない様子で表示された数値を眺めていた。


 マットは軽く拳を握り、指の感触を確かめるように開いた。


「……やっぱり落ちてるな」


 ぽつりと呟く。


 その言葉に、近くにいた冒険者が思わず聞き返した。


「落ちてる……?」


 マットは肩を軽く回す。


「四年も寝てたからな。だいぶ弱ってる」


 その一言で、再び空気が凍った。


 弱っている。


 この数値で。


 受付の女性はもう一度水晶を確認する。


 視線は、ある一行で止まった。


 状態。


 そこに表示された文字を、彼女は思わず読み上げた。


「長期昏睡による……身体機能低下……?」


 つまり。


 この数値は、本来の力ではない。


 ギルドのざわめきが、さっきよりも一段大きくなった。


 その横で。


 ミリアが、当然のようにマットの袖を引く。


「でもお兄ちゃん、まだ起きてから一週間も経ってないよ?」


 無邪気な声だった。


 だが。


 その一言で、ギルドの空気は完全に止まった。


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