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日常のおはなし  作者: ひな
2/2

テスト期間の彼女



大学生といえば、長期休暇である。

しかし、それに到達するためにはテストという山場を越えなければならない。


とは言っても文系の私はお気楽なものだ。

レポート課題が多いし、持ち込み可の教科も多い。


なので、高校時代の友達たちには高確率で「うらやましい」といわれる。

……一応、私は高校生のとき理系クラスに所属していたのだ。

なんとなーく理系クラスを希望してしまったけど、勉強したいこととはなにか違っていて。

最後まで迷って、結局大学は文系にしてしまった。



つまり、彼は理系なわけで。

しかも理系の中の理系なわけで。

化学式やら公式やらなんやらかんやらを必死に頭に詰め込み

テストにのぞむらしい。大変だな。



そのため、彼のテスト期間であるこの一ヶ月間、まともに会っていない。



……まぁ、普段からそんなにべたべたと頻繁には会っていないが。

テスト期間はいつもそうなので、ちょっとあきらめている。



それでも毎日細々と続いていたラインも、

〈これから三日間戦場に行ってくる〉 という樹のコメントが三日前の日付で

刻まれたまま、止まっている。


ツイッターも見てみたけど、同じように三日前に〈三日間戦場に行ってきます。何か用がある人は直接か家に電話してください。さようなら。〉というつぶやきを最後になにも更新されていない。


これも、テスト期間中においてはいつものことである。


大体最終週の三日間にめんどくさい教科たちが集中してテスト日になるので、

死ぬ気で勉強する、らしい。よくわかんないけど。



「試験終了です。筆記用具を置いてください」


そんなこんなで私のテストもこの教科で最後である。

つまり、私のテスト期間も終了。

レポートを書くだけの試験だったので、心底疲れた、というわけでもない。


樹も終わったのかなーと思いながら携帯を見ると、

案の定樹からラインのメッセージが来ていた。


〈まだ大学?っていうか、今日予定ある?〉


時間は約十分前。あれ、そんな時間に樹の授業は終わるんだっけ?

ちょっと不思議に思いながらも返信する。


〈今テスト終わって帰るとこ。今日はバイトもなにもないよ〉

〈了解。よかった。駅で待ってるから〉


は?と、思わず声を出してしまい、隣の席の子に変な顔をされてしまった。ごめんよ。


〈駅って?え?私の大学の最寄り?〉

〈そうそう。じゃ、待ってるから〉


「真奈美ー。今日カラオケ行かない?テストお疲れ様会しよーよ」

「ごめん、用事あるから先帰る!」


気がついたら駆け出していた。

大学から駅まで、徒歩十分。

早く動け、私の足。



「……あれ、走ってきたの?ゆっくりくればよかったのに」

駅に着くと柱にもたれかかって携帯をいじる樹の姿があった。

「だっ、て……、樹、待ってる、し……」

久しぶりに全力疾走なんかしたもんだから、息が完全に上がっている。

うーん。老いを感じるなぁ。


深く深呼吸をして、息を整えて。

「……、それに、」

「ん?」


「はやく樹に会いたかった、し……」


ぼそっとつぶやいた言葉は、しっかり樹に届いていたようで。

ちょっと驚いた顔をしていた。そりゃ普段そんなこと言わないしね。


でも、やっぱり、会えないのも連絡がないのも、さびしいんだよ。


「……俺もはやく会いたかったから、何も考えずにここまで来ちゃったんだよ」

ぽんぽん、と頭を軽くなでられる。

その感覚さえ久しぶりで、樹と会わなかった時間を痛感させられる。


「じゃあ三日間も戦場に行かないでよ」

「男には戦わなければならないときがあるんだよ」

「もうちょっと効率よく勉強して」

「……はい」

「てなわけで、クレープおごって」



テスト期間は寂しさばかり募るけど。

その分会ったときのうれしさも倍増される。


だから寂しいのも我慢できるんだよ、樹くん?






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