3.冒険者試験④--〔不穏〕
第9話を開いていただき、ありがとうございます。水月です。
引き続き、2日に1シーンのペースで更新していく予定です。
それでは、本日のシーンもどうぞお楽しみください!
二人は再び歩き始めた。
洞窟には、二人分の足音だけが静かに響いている。
先ほどの戦闘で張り詰めていた空気も少し和らぎ、自然と会話が生まれていた。
「そういえば、どうして冒険者になろうと思ったんだ?」
ザイドが何気ない調子で尋ねる。
テンマは少し考え、小さく答えた。
「父の剣を継ぐためです。」
「へぇ……剣士だったのか?」
「騎士でした。」
短い訂正だった。
ザイドは「あ、そうか」と照れくさそうに笑う。
「俺は騎士なんて会ったことなくてさ。」
「父も、あまりその頃の話はしませんでしたから。」
テンマも小さく笑みを返す。
騎士だった父の話は聞いていた。
父は、それをどこか誇らしそうに話していた。
けれど、傷を負った時のことも。
魔物との戦いで何があったのかも。
命令に背いてまで村へ戻った理由も。
本当に大切なことは、何一つ聞いていなかった。
少し間を置いて、今度はテンマが尋ねた。
「ザイドは?」
「俺か?」
ザイドは前を向いたまま苦笑した。
「お金が必要なんだよ。」
「そうなんですか?」
ザイドは少しだけ言葉を選ぶように間を置いた。
「……妹がちょっとね。」
テンマは思わず表情を引き締める。
「俺にも妹がいます。」
一瞬だけ、二人の視線が重なる。
ザイドは少し驚いたようにテンマを見た。
「……大丈夫なんですか?」
「生まれつき体が弱くてさ。」
「治せるかもしれないって話はあるんだけど、金もいるし、治療法も探してる。」
テンマは静かに頷いた。
二人の間に、少しだけ沈黙が流れる。
互いに次の言葉を探しているようだった。
やがてテンマは、ゆっくりと口を開く。
「きっと見つかります。」
ザイドは思わず足を止め、テンマを見た。
それから穏やかに笑った。
「そうだな。そのためにも、合格しないとな。」
ザイドは半歩前を歩いている。
「そういえば……。」
テンマは、さっき聞きそびれたことを思い出した。
妹の病気はいつからなのか。
治療法は見つかっているのか。
聞きたいことは、まだあった。
顔を上げ、その背中へ声を掛けようとした、その時。
振り向いた視線の先に――
前を歩いていたはずのザイドの姿は、なかった。
「……え?」
思わず足を止める。
左右を見回す。
通路は一本しかない。
身を隠せるような岩陰も見当たらない。
「ザイド!」
呼び掛けても返事はなかった。
その時だった。
――カラン。
どこかで、何かが転がるような音がした。
テンマは反射的にそちらへ目を向ける。
洞窟の奥で、小さな灯が揺れたように見えた。
「あっちか?」
ザイドが先へ進んだのかもしれない。
テンマは足早に灯へ向かう。
向かう先、視界の端で足元に淡く光る何かが見えた。
地面に光る、幾何学模様。
見覚えがある。
……あの時、戦理だけではなく、罠についても説明があったことを思い出す。
試験前、試験官が説明していた魔法陣だった。
『転移罠ってのは、踏んだ相手を別の場所へ飛ばす罠だ。』
『まぁ、この洞窟に転移罠は置いてないがな。』
「……まさか。」
テンマは消えたザイドがいた場所へ視線を向ける。
「転移罠?」
思わず周囲を見回す。
だが、返事はない。
ザイドの姿も見当たらなかった。
「……なら。」
テンマはもう一度、洞窟の奥で淡く輝く灯へ目を向ける。
ザイドが転移した先に続いているのかもしれない。
確かめるしかなかった。
一歩、また一歩と灯へ近づいていく。
近づくにつれ、光の正体が見えてきた。
岩陰に埋もれるように、小さな石が淡く輝いている。
「……石?」
松明でもなければ、魔物の目でもない。
初めて見る、不思議な輝きだった。
その時。
頬を、かすかな風が撫でた。
「……風?」
行き止まりのはずなのに、確かに空気が流れている。
テンマは光る石のそばへしゃがみ込み、周囲を見回した。
岩壁の隙間。
わずかに人ひとり通れそうな裂け目がある。
そこから、ひんやりとした風が吹き抜けていた。
「通路……?」
入口からは死角になっていて気付かなかった。
光る石は、その隙間を照らすように置かれている。
テンマは石を見てから、隙間へ目を向ける。
もう一度、石を見る。
淡い光は残ったままだ。
テンマは剣の柄へ手を添え、静かに隠し通路へ足を踏み入れた。
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