3.冒険者試験②--〔試験開始〕
第7話を開いていただき、ありがとうございます。水月です。
引き続き、2日に1シーンのペースで更新していく予定です。
それでは、本日のシーンもどうぞお楽しみください!
試験官の説明が終わると、受験者たちの間にざわめきが広がった。
「では、これからパーティーを組む者もいるだろう。」
「その時は、自己紹介くらいはしておけ。」
「互いを知ることも、冒険者には大切だからな。」
その言葉に、ざわめきが一段と大きくなる。
「自己紹介?」
「手の内を他人に見せるようなもんじゃないか。」
「そんなことするやつ、いないだろ。」
テンマは胸の内で小さく息を吐いた。
(危なかった……。)
危うく戦理や闘式について詳しく聞いてしまうところだった。
冒険者の常識を知らないことを、自分から明かしてしまうところだったのだ。
その時、近くで小さな声が聞こえた。
「俺も……結局、何が正しいんだ?」
思わずそちらへ目を向ける。
穏やかな目元をした青年が、小さく苦笑していた。
試験官は苦笑しながら首を横に振る。
「俺が言いたいのは、お前たちが手の内を明かせということじゃない。」
「それにな――」
試験官は洞窟の奥へ視線を向けた。
「俺が伝えたいのは、生きて帰るための考え方だ。」
「冒険者は、一人で生きる仕事じゃない。」
「仲間と背中を預けることもあれば、その仲間を失うこともある。」
「力だけで生き残れるなら、それに越したことはない。」
「だが現実は違う。」
「知識も、経験も、判断も、全部がお前たちの命になる。」
「今日すべてを覚えろとは言わん。」
「だが、生き残るために学ぶことだけは忘れるな。」
試験官は一人ひとりの顔をゆっくりと見渡した。
「それとな……」
一拍置き、静かに続ける。
「死ぬな。」
「命を落とすな。」
「俺から言うことは、それだけだ。」
その短い言葉には、これまで何度も仲間を失ってきた者だけが持つ重みがあった。
先ほどまで反発していた受験者も、それ以上は何も言わなかった。
「それでは――試験を開始する。」
試験官の合図と同時に、受験者たちは一斉に行動に移した。
「二人で行こう!」
「俺たちは三人だ!」
あちこちで声が上がり、受験者たちは迷いなく仲間を集め始める。
テンマもその様子を見ながら、一歩踏み出しかけた。
(……そうだ。)
さっき試験官は、自己紹介くらいはしておけと言っていた。
だが、その直後には、
「手の内を他人に見せるようなもんじゃない。」
そんな声も聞こえた。
(どっちが正しいんだ……。)
足が止まる。
パーティーを組んだ方が有利なのは分かる。
それでも、何を話せばいいのか分からない。
どこまで話していいのかも分からない。
考えているうちに、周囲では次々とパーティーが決まっていく。
「よろしく。」
「最初の探索場所は、右から回るか。」
「了解。」
短く言葉を交わすと、それぞれの組は足早に洞窟の奥へと進んでいく。
「気を付けろよ!」
「お前もな!」
互いに声を掛け合いながら、受験者たちの姿は次々と暗闇へ消えていった。
(出遅れた……。)
その時だった。
「なあ。」
不意に声を掛けられ、テンマは振り向く。
そこには、先ほど小さく苦笑していた青年が立っていた。
「はは……俺もさ、出遅れてしまった。」
少し照れくさそうに笑いながら、青年は頭をかく。
「まだ決まってないなら、一緒に行かないか?」
「二人の方が、お互い安心だろ。」
テンマは一瞬だけ考え、小さく頷いた。
「はい。お願いします。」
青年はどこか安心したように笑う。
「よかった。」
「俺はザイド。」
「テンマです。」
ザイドは小さく頷いた。
二人は短く名乗り合うと、並んで洞窟の奥へ歩き始めた。
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