#1 vs教室
「佐伯くん……あのね、ふーか、佐伯くんのこと好き……かも? よかったらふーかと付き合わない?」
クラスの一軍女子のトップ、湊 風花の突然の告白に、休み時間の教室は静まり返った。明るく染めたツーサイドアップの髪、とろんとしたタレ目とぽってりとした唇。すっきりとした小鼻に形のいい顔のライン。少しだけ着崩した制服がなんとも色っぽい。そのへんのアイドルも裸足で逃げ出す、全校生徒の中でもトップクラスの美少女だ。
そんな湊が、モブ・オブ・モブの俺に告白? 俺のことが好き? ないない。そもそも高2で同じクラスになってから3ヶ月、ろくに接点なかったし。
つまり、裏があるな。
よく見ると隠しきれてない、からかうような笑み。ちらちらと送る視線の先には、こっちを見てニヤついているカーストトップの女子グループ。鈴木さぁ、その机の下のスマホ、隠してるつもりだろうけどカメラのランプついてるの見えてるぞ。
ははーん、なるほど。これは嘘告ってやつだな? 罰ゲームか何かで、冴えないモブの俺をからかって遊ぶ役でも押し付けられたんだろう。小説なんかでたまに見る、陽キャグループのやりがちなタチの悪い遊び。
うむ、状況は把握した。
よろしい、ならば——全力で、乗っかるのみ!
「イィィィィィィィィィィィィッヤッホゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
「!!!???」
驚いて目を見開く湊。よし、掴みはオッケー。畳み掛けるぞ。
「マジで!!!!??? 湊さん俺と付き合ってくれるの!!!!!???」
「え、え、え」
「フゥゥゥゥゥゥゥゥ!!! なんて最高の日なんだ!!!! 我が世の春が来た!!!! もちろん付き合う!!!! いや付き合わせてくださいお願いします!!!!!!」
「ちょ、ちょっと、そんなに喜ぶ!?」
「そりゃそうでしょ!!!! 学校一、いや日本一かわいい湊風花ちゃんに告白されるなんて!!!! 宝くじに当たるより幸せなんだけど!!!!!」
「や、わかったから落ち着いて佐伯く……」
「あ、オレ蒼太ね!!!!! 付き合うんだし、名前で読んでね風花ちゃん!!!!!!」
「ふ、風花ちゃん……!?」
よしよし、圧倒されて上手く言葉が出てこない感じだな。一軍女子も驚きで呆然としている。鈴木の手から落ちたスマホが乾いた音を立てた。
周りのクラスメイトも「え? マジ?」「あの湊が……?」「事件じゃね、これ」と騒ぎ出している。
うむ、やはり刺激の強いことをデカい声で勢いよく話して場の主導権を握るのは基本だな。
だがもうひと押し欲しいな。幸い、次のHRまであと1分。それまで繋ごう。
「じゃあ!!! 今日の放課後、早速デートしようよ!!! 予定ある!!!???」
「な、ないけど、ちょっとま」
「おっけー!!!!! 約束ね!!!! やべぇテンション上がってきた!!!!!! Foooooooooo!!!!」
「いや待って待ってこれ」
「佐伯ーうるせえぞー。廊下まで響いてんだよお前の声」
うっし、計画通り。
ガラリとドアを開けて担任の小林みっちゃん先生が入ってきた。29歳独身、美人だがガサツで口悪くて酒癖も悪いので男が寄り付かないと評判の先生である。
「みっちゃん先生!!!!! 聞いてよ!!!! 俺、湊さんと付き合うことになったんだよ!!!!!」
「ちょっ!?」
「みっちゃん言うなって何回言えばわかるんだお前は。あー、よかったな? チッ、最近のガキは、全く……」
「もっと!!!!!! 喜んで!!!!!!! 俺達を祝福して!!!!!!!!!」
「うるせえ!!! ……ふー、わかったわかった、おめでとさん。満足したら座れ。HR始めんぞ」
「はい」
「何なんだお前は……」
HRが始まってしまったので、湊もそれ以上話を続けられずにしぶしぶ自分の席に戻った。
デカい声で騒いで周りを巻き込み、担任を味方につける(?)ことで嘘告と言い出せない空気を作り出す作戦、完全成功だ。
HRの最中も湊は悔しそうにこちらをチラチラと見ている。一軍女子たちも顔を見合わせて困惑しているっぽい。
ふ、第1ラウンドは俺の先制だ。モブだと思って甘くみたな、一軍女子どもよ。
さぁさぁ、次は第2ラウンドの放課後デートといこうじゃないか。デートにこぎつけた時点で俺の勝利は確定しているがな、ふはは。
さて、学校一の美少女サマは、どこで根を上げるかな。




