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リィンカーネーションの理 〜転生者たちの英雄譚〜  作者: 奥槻 庵
第十一章 大団円

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第98話 再会

 旅立ちの朝、ザイオンの南東に位置するリーヴィル門には、ルーファスを見送るレティシアとモイラの姿があった。

 ルーファスは、ちょうどザイオンを離れ、ハント市に戻るというフィンたちに途中まだ同行することとなった。特に目的地は決めていないが、故郷であるファド村に立ち寄り、農地を継いだであろう弟に会ってみるつもりらしい。

 新たに赤錆の大鴉団の団長を引き継いだレティシアが、名残惜しそうにルーファスと握手を交わしていた。

 その隣ではナタリアとモイラが楽しげに歓談しながら、またの別れを惜しんでいる。

 旅装に身を包んだフィンとジーン、ダーシーは、そんな姿を笑顔で見守っていた。

 思わぬ長期間の逗留となってしまったが、ダーシーが在籍する魔術学院の都合もあり、いよいよハント市に戻らねばならない。

 長旅ではあるが、ザイオンまで歩いてきたときとは違って、今回はセオドアⅡ世のはからいで人数分の馬を用意してもらっていた。

 騎馬に不慣れなダーシーやミアがいることを鑑みても、徒歩の半分くらいの日程で到着できるだろう。


 フィンは、孤児院の子どもたちを抱きしめながら別れを惜しむ旅支度のミアの姿を眺めた。

 ミアは、ザイオンの解放に貢献したとはいえ、黒躯を生んだ元凶として広く市民に知れ渡ってしまった。未だに道を歩いていると罵声とともに石を投げられたり、怒り狂った市民に危害を加えられそうになることもあった。

 自身の存在が孤児たちに危険をもたらすことを危惧し、さらに大切な者たちを失った市民の感情を受け止めることができず、ミアはザイオンを去ることを決意する。

 ちょうどザイオンを離れるというフィンたちとともに南下し、生まれ故郷のレンヌ村のあった土地も見てみるつもりだった。

 見送りに来てくれた孤児たち一人ひとりと、最後の抱擁を交わす。

 最年長の人間の子どもから、ドワーフの子、アカメの子と抱きしめていき、最後にゴブリンの子を抱きかかえた。フローレンスと呼ばれていたゴブリンの幼子は、いつもながら朦朧とした表情ながらも、どことなく笑っているように見えた。


「最後にあなたへ贈り物を」


 ミアは最年長の子に少し長めの短剣を手渡す。


「あなたたちを守ってくれます。すぐに手の届くところに置いといてね」


 少女は少し緊張した面持ちで、飾りのほとんどついてない質素な短剣を受け取った。

 それは、ミアの恩恵の力で、持ち主を守る意志を込めた魔法の短剣であった。

 ザイオン復興のために恩恵を酷使していたところ、物品にも意志を付与することが可能になったらしい。

 初めて話を聞いたときはさすがに耳を疑ったが、試作品である短剣を持たせてもらったところ、持ち主の意思に反して身体を操ろうとする力が付与されているのを実感し、驚愕した。

 試しにジーンに攻撃してもらったが、短剣はフィンの身体を操り、ジーンの攻撃を受け止め、それをいなして刺突を加えようとする。さすがに経験豊富なジーンには通用しないが、一般的な暴徒レベルであれば十分に太刀打ちできる動きであった。

 いまミアが孤児たちに渡したものは、試作品をさらに改良したものである。

 ミア曰く「フィンやジーンの動きを参考にした」らしい。

 いつのまにそこまでの試行錯誤を繰り返し、研究していたのかと素直に驚いた。

 探究心の強いところは、前世の未央のままである。

 

「おーい、ルーファス!」


 そこに騎士としては軽装のノーマとともに、ザイオン伯セオドアⅡ世が姿を見せた。完全にお忍びなのだろう、護衛もノーマのみである。


「お、ノーマ。寒いのか? お前にしては厚着だな」


 ナタリアがからかうように笑う。ノーマは眉をひそめながら唇を尖らせた。


「いつもの格好だと、主君の品格を損なうとかなんとか、みんなうるせぇんだよ……」


「うるさいんだよ、ですね」


 愚痴るノーマの乱暴な言葉遣いを、背後のセオドアが笑顔で訂正する。ノーマはげんなりした表情で瞳をぐるりと一回転させた。


「……うるさいんでございます」


 戦場でも見たことがないノーマの困惑した姿に、ナタリアは高らかに笑い出した。


「セオドア卿、わざわざすまない」


 ルーファスは、領主となったセオドアがわざわざ見送りに来てくれたことに感謝を伝える。セオドアは、その美しい顔に笑みを浮かべつつ首を横に振る。


「大恩あるルーファス殿のお見送りとあらば当然です。またお会いできる日を楽しみにしています」


「しっかりな、セオドア卿。あなたならきっと良い領主になれる」


「ありがとうございます。あなたはザイオンだけでなく、わたくしを救ってくださった英雄です。これからもどうぞお身体には気をつけてください」


 ルーファスの励ましの言葉に涙目になりながらセオドアは微笑んだ。身にまとった男装はすっかりと馴染み、新たにダンクルト家に仕える者のなかにはセオドアが女性だということを知らない者も増えてきている。

 それでも、最後にルーファスの手を握り、灼貌の英雄の目を見つめるセオドアは、年相応の少女の顔をしていた。


「お戻りになられることを、いつまでもお待ちしています」


 幼い孤児たちがミアを求めて泣きわめくなか、ルーファスとミアを交えたフィンたち一行は、領主セオドアをはじめ、ともに戦った仲間たちに見送られながら、馬を引いてリーヴィル門を通過した。

 門を守っていた兵士たちも、領主に見送られながらザイオンを旅立つ英雄ルーファスに敬意を込めた会釈を送る。

 ルーファスも微笑みながら会釈を返し、リーヴィル門を抜けると、不意に足を止め、なにげなく振り返った。

 門の向こうには、いまだ立ち去ることもなくルーファスを見送る者たちの姿がある。

 ルーファスは少し寂しそうに笑みを浮かべると、次いつ会えるかもわからぬ仲間たちに向けて力強く片手を掲げた。


 

 

「さぁて、俺たちのハントに戻るか」


 馬上の人となったジーンがめんどくさそうに呟く。ザイオン伯のお膝元の大商業都市として名の知れたザイオンと比べれば、ハント市は中規模の地方都市に過ぎない。

 だが、交通の要所として人々が頻繁に行き来するハント市は、混沌として、粗雑で騒々しく、そして活気に溢れていた。


「帰ったら、まずはグラント親父のメシだな」


 テンション高く話しつづけるジーンの隣に馬を並べながら、フィンは「そうだな」と相槌を打つ。


「ルーファスも行かないか? ハント市内にある地味な宿なんだが、店主のメシがなかなか美味いんだ」


「そいつはいいな」


 ジーンの少し後ろで馬を進めるルーファスは、嬉しそうに言った。英雄という肩書きや、団長という立場から離れて、気軽に会話できるこの関係を楽しんでいるようであった。

 脚を治すというのは口実に過ぎなかったのかもしれない。いまのところ故郷を訪れるという目的しかない旅である。その途中に、フィンたちとともにハント市を訪れるのも悪くないとルーファスは考えはじめていた。


「戻ったら学院に報告しないとな」


 器用に馬を操りながらパイプをふかすナタリアの言葉に、ダーシーはこれでもかと顔をしかめた。


「えー、報告必要ですか?」


 心底嫌そうな愛弟子のようすにナタリアは高らかに笑い声を上げる。


「上出来だ。あたしに似てきたな」


 ダーシーはにやりと笑う。


「当然です。私はあなたの弟子ですから」


 そんな魔法使いたちの会話を、ミアはにこにこと微笑みながら聞いていた。

 農村出身だけあって、馬の扱いには慣れているようで、ルーファスやナタリアにも引けを取らないくらい上手に乗りこなしている。

 修道院を離れてもフェリシア教の修道服を脱ぐことはない。ザイオンを離れたその日の夜に、ダーシーから今後のことを尋ねられたミアは、できることなら、生まれ育ったレンヌ村の周辺にフェリス神の教えを説くための教会を再建したいと熱心な表情で語っていた。

 まだ若干の遠慮があるのか、一緒に旅する仲間たちともほとんど言葉を交わしていなかった。

 いつも少しだけ距離を取り、いつも誰かの会話を見守りながら微笑んでいた。

 フィンは転生前の未央を思い出して胸を痛める。いつも人の輪の中心にいた、あの頃の未央を一刻も早く取り戻してあげたかった。


「ミアもハント市にあるグラント親父の宿に行かないか? ルーファスも行くってさ」


 フィンは馬を近づけ、無邪気を装って明るく声をかけた。

 ミアは、嬉しそうに目を細めて、礼を言う。


「ありがとうございます」


 薄い唇を開き、少し歯を見せながらにっこりと微笑んだ。

 その快活な笑い方が、転生前の未央のものとあまりにも類似していて、フィンは衝撃のあまり呼吸を忘れてしまった。


「どうしたんですか?」


 ミアは不思議そうに小首を傾げる。


「なんか……いまの表情がとても懐かしく思えて……昔からの知り合いかと思っちゃったよ」


 フィンは乾いた笑いで誤魔化そうとする。

 ミアは驚いたようにフィンを見つめた。

 そして口元を緩めると、小さく頷いた。


「そうですか……不思議ですね」


 不意に馬を寄せ、ミアはフィンに小声で囁く。


「実は私もです。先輩」

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