表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リィンカーネーションの理 〜そして僕たちは異世界で巡り会う〜  作者: 奥槻 庵
第一章 コルト村の少年フィン

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/50

第1話 粉挽きの息子フィン

 村はずれを流れる小川のせせらぎに小さな水車が回っていた。

 間断なく水面を切る音が水車小屋の中にまで聞こえてくる。勢い良く回り続ける水車は、複雑に組み上げられた木製の歯車たちをゴトゴトと稼働させ、小屋の二階に設置された大きな石臼を高速で回転させていた。

 少年は、石臼の中央に呑み込まれていった小麦の穀粒たちが白い粉となって排出されてくるのを飽きずに眺めていた。


 フィンは、この水車小屋の生活が好きだった。

 この世界に生まれて五年。自らの境遇をようやく理解できたのは、つい最近のことである。

 フィンが、幼少期を送るのは、二度目だった。

 フィンは転生者だった。

 前回五歳だった時には「木村宏基(きむらひろき)」という名前で保育園に通っていた。初めて自転車に乗れたのも五歳くらいだったような気がする。それから公立の小学校、中学校、高校と進学し、大学三年生の初夏を迎えた時、突如として宏基としての人生が終わった。

 フィンの胸の奥に、ちくりと痛みが走る。未だにあの時のことは思い出したくない。

 忌まわしい記憶から逃れようとするかのように、フィンは石臼から出てきた小麦粉を指先で摘んでみる。穀粒を丸ごと石臼で挽いているため、白い粉には固い表皮が混入している。以前、木村宏基が暮らしていた世界で、手軽に買っていたビニール袋入りの小麦粉とは違う。

 だが、この世界の粉挽きとしては、充分に上等な仕上がりだ。

 フィンは満足げな表情で「悪くないな」とつぶやいた。


「……これでホットケーキ、焼けないかな?」


 指先で小麦粉の感触を確かめながら、ぼそりと独りごちる。

 すると、背後から「いいですね」という声が投げかけられた。

 

「えっ⁉︎」


 フィンが驚いて振り向くと、白い亜麻布で頭部を覆った細身の女性が立っていた。

 この水車小屋の主人で、フィンの育ての親であるフアナだった。

 均整の取れた美しく透明感のある顔立ちが、優しく微笑んでいる。


「フアナ……いつの間に? びっくりしたよ……」

「申し訳ありません。宏基様を驚かせるつもりはなかったのですが……」


 フアナは申し訳なさそうに、その美しい眉間に皺を寄せて謝罪した。


 育ての親であるフアナは、フィンのことを転生前の名前で呼ぶ。しかも、敬称つきで。

 フィンからも幾度となく敬称や敬語はやめてほしいと訴えてきたが、フアナは断固として改めようとはしなかった。

 唯一例外があるとすれば、他の人々の前では育ての親らしく転生後の名前で呼ぶことくらいだが、それでも短縮形の「フィン」ではなく、正式名の「フィネス」で呼ぶ。

 それでも、敬称がないだけマシなのだ。

 呼び名についてフアナに妥協してもらうことは、すっかり諦めていた。


「ホットケーキは、牛乳と卵があればいいですか?」

「ああ、ええと、あとベーキングパウダーも欲しいけど……」

「ベーキングパウダー……ですか?」


 フアナは小首を傾げる。

 フィンは慌てて手を振って「いや、いいんだ」と断りを入れた。


 フィンもベーキングパウダーがなにものか理解していなかった。たぶん重曹だったと思うが、どうやれば重曹が手に入るかも知らなかった。

 こんなことなら、転生する前にいろんな知識を身につけておくべきだったと思う。まさか転生するとも思っていなかったが、後悔先に立たず、だ。


「そういえば、フアナ、どうしたの?」

「……そうでした」


 少し恥ずかしそうに俯くフアナ。だが、すぐに気を取り直して、透き通った玲瓏な声で伝えた。


「エリックさんが来ました。ダーシーも一緒ですよ」




 フィンが階下に駆け降りると、小屋の外に幼い女の子を抱きかかえた筋肉質の中年男性が立っていた。


「よお、フィン! 元気にしてたか?」


 水車小屋の近くで鍛冶屋を営むエリックだ。

 元傭兵という経歴にふさわしい鍛え抜かれた身体は、片腕で3歳のダーシーを軽々と持ち上げている。


「フィン! 元気してたかー?」


 ダーシーは、エリックの丸太のような腕にちょこんと収まりながら、大きな声を張り上げた。

 最近、成長とともに生意気な口を聞くようになったダーシーは、そこに輪をかけて伯父のエリックの粗暴な口ぶりまでも習得してしまい、村の監督官という村長のような役目を務める両親を困らせていた。


「元気だよ。ダーシーも元気?」

「うん! 」


 フィンの返答に、ダーシーはニコニコと微笑んでくる。その屈託のない笑顔に、ついつい頬を緩ませてしまう。だが、今日の遊び相手はダーシーではなくエリックだ。


「さて、やるか?」


 エリックのぶっきらぼうな一言に振り向くと、その辺で拾ったであろう木の枝を手に無造作に立っていた。その立ち姿の隙のなさに、フィンは緊張とともに興奮を覚える。

 今日から元傭兵のエリックから剣術を教わる約束になっていた。

 幼いダーシーもついてきたことは少し意外だったが、まだ五歳というフィンの年齢から、エリックも遊びの延長くらいに見ているのかもしれない。

 本格的に学ぼうと意気込んでいただけに、最初はがっかりしたが、フィンとしても転生前のような成人の肉体ではない。まずは遊びからというのも確かに悪くないだろうと思い直すに至った。


「じゃあ、フィン、そのへんの棒を拾ってきな」


 それからフィンにとって初めての異世界剣術の指導が始まった。

連載始まりました。

毎週水・土22時更新予定ですが、しばらくは週4回の更新をめざしていきます。

お付き合いのほどよろしくおねがいいたします。


Special Thanks

わぃえむ氏:プロットのチェックありがとう!この作品があるのもあなたのおかげです!

家族:執筆のための時間確保に協力ありがとう! 更新頑張ります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ