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第46話開いた日記

「……」


暗闇の入口にシオンが立っていた。


静かに。


「……っ」


玲花の手が震える。


鍵はまだ鍵穴に刺さったまま。


「……なんで」


やっと声が出る。


シオンは少しだけ首を傾けた。


「何が?」


穏やかな声。


いつもと変わらない。


「……止めないの」


「……」


シオンは少しだけ黙った。


それから、小さく笑う。


「止めたら見るでしょ」


否定できない。


「……ここまで来たんだから」


静かな声。


「見たいなら見ればいい」


玲花は言葉を失う。


予想していた反応じゃない。


シオンは壁にもたれたまま動かない。


ただこちらを見ている。


「……でも」


少しだけ目を伏せる。


「後悔するかもしれないけどね」


その言葉だけが妙に重かった。


玲花はゆっくり引き出しへ向き直る。


鍵は開いている。


もう、戻れない。


「……っ」


引き出しを引く。


ぎ、と古い音が響いた。


中にあったのは、一冊の本だった。


黒い表紙。


少し擦り切れている。


玲花は恐る恐る手に取る。


軽い。


それなのに、胸が苦しくなる。


ゆっくりと表紙を開く。


最初のページ。


そこに書かれていた文字を見た瞬間、息が止まる。


玲花の日記


「……っ」


間違いなく、自分の字だった。


ページをめくる。


震える指で。



”今日も逃げられなかった。”


頭が真っ白になる。


”シオンは優しい。”


さらにページをめくる。


”でも怖い。信じたい。”


”信じちゃいけない。”


「……っ」


呼吸が乱れる。


今の自分と同じだった。


まるで、今の気持ちを書き残したみたいに。


いや、実際に書いたのかもしれない。


次のページを開く。


そこには、短い一文だけが残されていた。


”もしこれを読んでいるなら、まだ間に合う。”


心臓が跳ねる。


”壁の奥を探して。その下。”


「……」


そこで文章は途切れていた。


ページが破られている。


無理やり引き裂かれたみたいに。


「……なんで」


かすれた声が漏れる。


続きを探す。


でも、どこにもない。


後ろで、シオンが静かに見ている。


何も言わずに。


「……」


玲花は破られた跡を見つめる。


その先に、本当の答えがあった気がした。


そのときだった。


日記の裏表紙から何かが落ちる。


ひらりと床へ。


「……?」


小さな紙切れ。


折りたたまれている。


「……」


玲花はゆっくり拾い、開く。


そこに書かれていたのは——


”次は誰も信じるな”


「……っ」


背筋が凍る。


誰も。


シオンだけじゃない。


元カレも。


親友も。


玲花の手が震える。


静まり返った部屋に、玲花の荒い呼吸だけが響く。


そのとき、後ろから静かな声が落ちる。


「……その言葉」


シオンだった。


玲花は振り返れない。


「誰に向けて書いたんだろうね」


穏やかな声。


けれど、その意味だけが不気味に耳へ残った。



――第46話 終――

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