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第20話知らない顔

薄暗い部屋の空気は重かった。


机の上には、開かれた資料。


屋敷の見取り図。

監視位置。

出入りする人間の記録。


どれも断片的で、完全じゃない。


それでも——


十分すぎた。


「……調べたぞ」


低い声が落ちる。


元恋人は、壁にもたれたまま顔を上げた。


「早いな」


「相手が相手だからな」


短い会話。


空気が、少しだけ張る。


「で?」


促す声。


相手はわずかに黙ってから、口を開いた。


「……やめとけって言った理由、分かったかもな」


その瞬間。


元恋人の目が細くなる。


「何だよ」


苛立ちを抑えた声。


相手は、机の資料を軽く叩いた。


「表に出てる情報は、ほとんどない」


「名前も経歴も曖昧」


「でも——」


少しだけ言葉を選ぶ。


「裏ではかなり力持ってる」


元恋人は黙って聞いている。


「金も、人も、全部動かせるタイプだ」


「しかも、あの屋敷」


わずかに顔をしかめた。


「普通じゃない」


「どういう意味だ」


低い声が返る。


「警備が異常だ」


即答だった。


「外からじゃ分かりにくいが、中はかなり厳重」


「監視も多い」


その言葉に、元恋人の指先がわずかに動く。


「……監視?」


「細かい数までは分からない」


肩をすくめる。


「でも、とにかく“逃がさない作り”になってる」


その一言で、空気が冷えた。


「……」


元恋人は何も言わない。


けれど、目だけが静かに変わる。


思い出す。


あの日の玲花。


迷うみたいな視線。


振り返れなかった背中。


「お前の言ってた女」


相手が続ける。


「本当に“自由”なのか?」


その問い。


答えは、まだない。


でも——


元恋人の中で、何かが繋がる。


「……チッ」


小さく舌打ちが落ちた。


「やっぱり、か」


低い呟き。


「まだ断定はできねぇぞ」


相手が言う。


「ただの過剰な警備かもしれない」


「……ああ」


短い返事。


けれど、納得していないのは明らかだった。


元恋人は、ゆっくりと立ち上がる。


「どこ行く気だ」


「……少し確かめる」


それだけ。


「おい、無茶すんなよ」


背中に声が飛ぶ。


「相手は——」


言い切る前に。


「分かってる」


振り返らないまま返す。


「だから行くんだろ」


迷いのない声。


ドアを開ける。


外の光が差し込む。


「……玲花」


小さく、名前を呼ぶ。


「ちゃんと、見えてるか?」


その声は静かで。


確かに強かった。


――第20話 終――


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