心に巣喰うモノ―10―
コツ…
切っ掛けは小さな音。
本当に小さな…幼子でも持てる様な小石が投げ込まれた。
それを合図に、道脇を埋め尽くす民衆達から、石やゴミが次々と投げ込まれる。
見世物のように引かれる鉄格子の檻の中のプルチェに、どれほど石やゴミが投げられても構わないが、御者や馬に当たってはいけないと、兵士達が鎮圧にあたる。
御者や馬が罪を犯した訳じゃない。それを理解したからかどうかはわからないが、民衆達は今にも爆発しそうな憤りを、何とか押さえ込んでくれたようだ。
射殺すような視線が滝雨のように降り注ぐ中、檻車はゆっくりと進む。
その見世物牢の中に入れられた罪人は、ぼんやりと…久しぶりに見る空を鉄格子越しに見上げていた。
空は青く、けれど少し雲が多い。
雨が降る程ではない。
だが、青空を曇らせている雲も、風が間もなく払うだろう。
刑場が見えてくる。
端材で簡易に作ったと思しき壇上に、絞縄が風で揺れていた。
空を薄く濁らせていた雲は、すっかり拭き払われている。
処刑台の奥には頑強な石壁があり、更に向こう側に物見櫓のような建物が見えた。
最上段に複数の人影。
見上げる民衆達からは、それが誰なのかはよくわからない。
わかるのは、貴族の誰かだろうと言う事だけだ。
絞首台の前で檻車が止まり、兵士が中で座り込む人物を強引に引き摺り出した。
民衆達も殺気立つ。
しかしまだ狂乱には至らない。必死に怒りをぶつけたいという思いを押しとどめる。
兵士が二人掛かりで絞首台に連れ上がり、その首に縄の輪をかけた。
首切り役人が手にしていた書簡を広げ、罪状を読み上げる。だが、それもただのパフォーマンスで、罪状の一部が簡単に述べられただけだ。
そして役人は、罪人となったプルチェを見下ろす。
首に縄が掛かっている事に、気付いているのかいないのか……プルチェは死んだ魚のような目で、何処とも知れない一点をじっと見つめたまま、只管何かを呟き続けていた。
最後の呟きに興味もない役人は、淡々と手を挙げる。
そして、無表情に下ろした。
罪人の足元の床が抜け、藻掻くように痙攣する。そして……その身体がだらりと弛緩した。
途端に刑場周辺は狂乱の嵐に呑み込まれる。
それは熱を孕んで地を揺るがした。
ネデルミスに、間もなく新しい時代が訪れる。
だが、人々の春はまだ遠い。




