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勇者と魔王、居酒屋始めました!  作者: あんずのかおり


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第五十九話 告白の行方

居酒屋えにし屋の店内――

その一角のテーブル席に、四人組の男たちがいた。


奥田、峰岸、能登、瀬尾。


彼らは無言のまま、勢いよくジョッキを傾ける。

喉を鳴らしながら、一気にビールを飲み干し――


ほぼ同時に、空になったジョッキをテーブルへと置いた。


「……っ」


短く息を吐いた奥田。三人の顔を見渡す視線が交わる。


言葉はない。

だが、それで十分だった。


互いの意思を確かめ合うように、峰岸、能登、瀬尾も静かに頷く。


やがて四人は、深く息を吸い込み――静かに吐き出した。


胸の奥で渦巻く焦り、不安、恐怖、そして緊張。

そのすべてを、高鳴る鼓動ごとねじ伏せるように、無理やり押し込める。


そっと胸に手を当て、己を落ち着かせるように。


「よし……行くぞ」


低く、しかし確かな決意を宿した声。


その一言に、三人は無言で応えた。


それぞれが覚悟を決めた顔で、ゆっくりと立ち上がる。


そして――


四人は、別々の方向へと歩き出した。


まるで、己の“決戦の場”へ向かう戦士のように。


――その様子を。


カウンター奥、厨房から静かに見ていた男がいる。


(……あの常連さんたち、今日は様子が違うな)


悠真は手を動かしながらも、視線だけを彼らに向ける。


何度も来店している顔なじみ。

特別に会話を交わしたことはないが、印象には残っている。


四人で来て、騒ぐこともなく、どこか落ち着いた雰囲気で酒を飲む。

時折、真剣な表情で話し込み――


ふとした瞬間、彼らは店員や他の客へと視線を向けては、どこか嬉しそうに頬を緩めている。


(最初は……少し警戒してたけどな)


何か企んでいるのではないかと、店主として目を光らせていた。


だが実際のところ、トラブルを起こすこともなく、マナーも悪くない。

むしろ、客としては大人しい部類に入る。


ただ――。


セリシアやルシア、美沙といった女性店員に加え、

常連であるシェリアやリアの姿を見ては、あからさまに顔を緩め、四人で小声で何かを話している。


その様子を見て、悠真はすぐに察した。


(……ああ、あの子たち目当てか)


看板娘であるセリシアやルシア。

彼女たちを目当てに通う客は、決して少なくない。


最近では――

グレイ目当ての女性客まで増えている始末だ。


シェリアやリアに至っても、この場にいるにはどこか浮いて見えるほどの雰囲気を持っている。

だからこそ、彼女たちに惹かれる客が出てくるのも不思議ではない。


それ自体は、店としてはありがたいことだ。


だが同時に、妙な客を呼び込むリスクもある。


だからこそ、この四人にも一応の注意は払っていた――が。


(……なんか今日は、違うな)


空気が違う。


ただの常連客のそれではない。

もっと張り詰めた、何かを覚悟した者の空気。


まるで――


(本当に、戦いにでも行くみたいだな……)


悠真がそう思った、次の瞬間。


その“理由”は、すぐに明らかになることになる。


立ち上がった四人は、互いに視線を交わすこともなく――

静かに、別々の方向へと歩き出した。


向かう先は、それぞれ違う。

だが、その“目的”だけは同じだった。


――女性のもとへ。


少しぽっちゃりとした男は、シェリアとリアが座るテーブル席へ。


その後を追うように、背の高い男も同じ席へ向かう。


ツーブロックの男は、

カウンターの隅で一人グラスを傾けるルシアのもとへ。


そして、小柄な男は――

カウンターを拭き掃除している美沙の前へと歩み寄っていった。


その光景は、どこか異様だった。


だが――

他の客たちは気づかない。


気づいているのは、厨房から様子を見ていた悠真と、

そして――向かってこられている当人たちだけ。


(……なにをする気だ?)


悠真の背に、わずかな緊張が走る。


常連客。問題は起こしていない。

だが、今日の彼らは――明らかに“普通じゃない”。


そして、その違和感は――


次の瞬間、確信へと変わる。


「シェリアさん――お、俺と付き合ってください!」


「り、リアちゃん! ぼ、僕……君のことが好きだ!付き合ってください!」


「ルシアさん……あなたを愛している! どうか、俺と付き合ってください!」


「み、美沙さんっ! す、好きなんです! つ、つ付き合ってくださいっ……!」


――店内に、四つの声が同時に響き渡った。


一斉告白。


あまりにも唐突で、あまりにも一直線な想い。


その瞬間――


店内の時間が、止まった。


グラスを持つ手。

箸を動かす手。

交わされていた会話。


そのすべてが凍りついたように止まり、静寂だけが、空間を支配する。


悠真も、セリシアも、グレイも。

そして――告白された彼女たちでさえも。


誰一人として、すぐには理解が追いつかない。


ただ呆然と、その光景を見つめることしかできなかった。


――ただ一人を除いて。


「まぁぁぁっ!? 告白ですかぁぁっ!?」


場の空気をぶち壊すような、弾ける声。


駄女神フェリシアーナだけが、満面の笑みで身を乗り出していた。


まるで、待ってましたと言わんばかりに――

花が咲いたような、無邪気な笑顔で。


「玉藻さん、聞きましたかぁ!? 今の――愛の告白ですよぉ! ああ〜素晴らしい……彼らの熱い想いが伝わって、私の力に――」


「姉様、それ以上は」


言い終わるより早く。


玉藻は無言でテーブルの唐揚げを掴み――

そのまま、フェリシアーナの口へと突っ込んだ。


「ふぁもぉぉさぁんっ!? ふぁにするんれすかぁ!?」


もごもごと抗議するフェリシアーナ。


「前にも言いましたよね。そういうデリカシーのない発言は控えてください、と」


はぁ……と、深いため息をひとつ。


以前、美沙に対しても同じ様な事をしでかしたこの駄女神に、玉藻はすでに釘を刺していた。

だが当の本人はどこ吹く風。懲りる様子もなく、今回も嬉々として食いついている。


――ならば、止めるしかない。


玉藻は少々強引ではあるが、唐揚げを口に押し込むという実力行使に出たのだ。


その効果は覿面だった。


もごもごと口を動かすばかりで、もはや言葉にはならない。

ひとまずは、黙らせることに成功したらしい。


ここ最近、玉藻がフェリシアーナの扱いに慣れてきているのは、もはや誰の目にも明らかだった。


いつものやり取り。

いつもの賑やかな空気――


だが今、この場において。


その席へ視線を向ける者は、誰一人としていない。


店内の全員が見つめているのは、ただ一点。


――男たちの告白、その行方だった。


そして。


その想いに応えるべく――

四人の女性が、ほぼ同時に口を開いた。


「申し訳ありません。そのお気持ちに、私はお応えできません」


「あー、ごめん。私、まだそういうのよく分かんないんだよね。だから……付き合うのは無理かな」


「ふむ……悪いが、子供には興味がないんでの」


「あ、えっと……ご、ごめんなさい……」


――一拍。


静寂。


そして。


((((ですよねぇぇぇぇっ!!!!))))


店内にいた全員の心の叫びが、完全に一致した。


あまりにも予想通り。

あまりにも順当すぎる結末。


四人の男たちの運命は、誰の目にも明らかだった。

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