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虹色のマーブルと運命の本 第一部  作者: 本堂モユク
第一部 空ろなる道連れ
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第百話 p4『マーブルのともだち』

 神隠しにはいくつかのパターンと発生条件がある。

 少し昔を思い出しただけでは全容は把握できない。まだまだ謎の多い力だ。

 それでも、信じられることははっきりしている。

 神隠し能力はどんな空間をも越えていく。

 何度も神隠しを体験してきて、わかりかけてきた感覚がある。自分がいる世界と自分がいない世界。神隠しとは、その二つの世界が重なり合うことだ。

 自分の外側にあるものや人との間には、無数の層みたいなものがある。空気の壁というより、もっと薄くて何層にも重なり合っている、空間の組織とでもいうか……どう表現するのが的確なんだろう。目の前に壁があれば層は途切れているように見えるけど、その裏側ではちゃんと繋がっている。俺はその裏側に入ることができる。

 裏側にもまた無数の層があって、特に裏側は層の厚みも色もてんでバラバラで……だから、裏側が必ずしも近道とは限らないけれど、とにかく俺はその層の裏側を移動することで、とんでもなく遠い距離の場所や別の次元に到達することができるようだ。

 壁をすり抜けるとかワープとか、そういうものとは根本的に原理が違う。無教養な俺には言葉で説明するのがだいぶ難しいんだけど……。

 たとえば……真っ白な紙に『☆』を描く。そこからさらに離れた場所に『★』を描く。☆から★に移動しようとした時、一本道なら真っすぐ向かうのが最短距離だ。でも現実には、道路が途切れていたり建造物が並んでいたりす同じ道を別の車が走っていたりするせいで、迂回して遠回りすることがある。

 もっと早く辿り着くには、どうしたらいいか。

 答えは簡単。紙を折ってしまえばいい。☆から★を繋げるように紙を折れば、間に何があろうと関係ない。文字通り一瞬で目的地に到達する。これが『ワープ』。

 一方、神隠しはと言うと、ワープのようにうまく★へ辿り着くこともあれば、大きくずれてしまったり、あるいは☆が別の紙へ移ってしまうような、不確かで曖昧な現象だ。目的地を思い浮かべると都合良くそこに移動できるような、便利な能力ではない。

 ましてや俺には魔犬がいる。その力が神隠しに良くない影響を与えているみたいで、魔犬の力を使った後は神隠しの力が暴走しがちになる。過去に戻ってしまったのはおそらくそのせいだ。

 俺の不安定な神隠し能力は、人に使ってもらうのが良い。それが正しい使い道だ。もちろん、誰でもいいってわけじゃない。

 これは魔法じゃないから、呼んでいる当人も気付かない。

 創造力という特別な力を持った者が俺を必要とした時、俺はそこに現れるんだ。

 空間を越え、時を越え。

 マーブルは俺を呼んでくれた。だから俺はこの世界に現れた。

 きみが望むなら、俺はどこへでもきみを連れて行く。


 プリエルはあおいもりをすすみました。

「イッチさまー。デーン。どこですかー」

 おおきなこえをだして、ふたりをさがします。

 けれど、もりはしんとしたまま。

 だれもなにもこたえてくれません。

「おかしいですね」

 プリエルはうーんとかんがえごとをしています。

「ふたりのにおいはするのに、すがたがみえない。かくれているわけでもなさそうだし。うーん、どうしましょう」

 プリエルがあしをとめてかんがえごとをしていると、うしろからぱきっというおとがしました。

 それは、きのえだがふまれたおとです。

「どなたですか?」

 プリエルがふりかえると、そこには、みどりいろのおそろしいかいぶつがいました。

「わあ。モジャモジャです」

 まるで、おおきなきがぎゅっとまるまったみたいな、モジャモジャです。

 プリエルはそうっとてをのばしてさわろうとしました。すると、

「みつけたぞ、にんげんめ。おとなしくしていろ、いますぐつかまえてたべてやる」

「なんだ、てきですか」

 プリエルはにげだします。まほうをつかえないプリエルは、モジャモジャにかてないとおもいました。しかも、どうやらてきはもうひとりいるようです。

「まてー」

 モジャモジャがおいかけてきます。プリエルはふりかえらずにはしっていると、まえからおおきないわがずしん、ずしんとあるいてきます。

「ゴロゴロ」

 いわのようなかいぶつがそういうと、くちからおおきないわをはきだしました。

 プリエルはそのいわにあたってたおれてしまいます。

「いたたた」

 プリエルはあたまをおさえて、いわかげにかくれながらよろよろともりのおくへいどうしました。

「どこいった、にんげん」

 モジャモジャとゴロゴロはあたりをさがします。

 にひきのかいぶつがプリエルをさがしているあいだ、プリエルはまほうのふでをとりだして、イッチとデンのえをかきます。

 ふたりのえをかくと、

「そこにいたのか」

 プリエルはモジャモジャにみつかってしまいます。モジャモジャのおおきなてがプリエルをつかみます。

「さあ、たべてやる」

「ちょっとまって」

 そこにあらわれたのはマーブルです。

「もういいよ。あんなヘタクソなえをかくひとなんて。もりのそとへおいだしてやって」

「いやだね」

「そうだ。このおんなはおれたちがたべる」

 マーブルはモジャモジャとゴロゴロにめいれいしましたが、ふたりのかいぶつはいうことをききません。

「どうしてわたしのいうことがきけないの。おまえたちはわたしのえでしょ」

「うるさい。おまえだってたべちゃうぞ」

 もじゃもじゃはもうひとつのてでマーブルをつかむと、ゴロゴロのくちのちかくへはこびます。

「いやだ。はなして」

「ははは。こんやはごちそうだ。さあゴロゴロ、いっしょにたべよう」

 ふたりのかいぶつがあーんとくちをあけました。そのときです。

「やめろ!」

 イッチがかけつけてきました。

 イッチはこんぼうでモジャモジャのあしをおもいきりたたきました。ガツン。

「ぐわあ」

 モジャモジャがバタンとたおれて、プリエルとマーブルをはなしました。

 ゴロゴロはくちをあけたままイッチのほうをむくと、

「ゴロゴロゴロー」ととなえます。

 おおきないわがはきだされると、イッチはそのいわをこんぼうでうちくだきます。

「おまえのあいてはこっちだ」

 デンがゴロゴロのあしにつかまると、ビリビリビリとでんきをながしました。

 ゴロゴロはからだがしびれてしまい、ズシンとおおきくしりもちをつきました。

「ふたりとも、ありがとうございます」

 プリエルがおきあがると、マーブルにむかってこういいました。

「このふたりがわたしのともだちです。よかったら、いっしょにあそびましょう」

「え……どうして。わたしのせいであぶないめにあったのに」

「あ、そうでしたね。では、もうしないってやくそくできるなら、いっしょにあそべますね」

「……ほんとに、いいの?」

「もちろん。あ、ケガとかしてないか?」とイッチがいいます。

「まったく、あそびたいならはじめからそういえ」とデンがいいます。

 こうして、マーブルはうまれてはじめてともだちができました。

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