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第八十七話 木樵の日

「どりゃあああああああ!!」


 朝の森にレニーの雄叫びがこだまする。ボゴウと鈍く響いた音と共に対象に亀裂が走る。


「えい」


 ちょん、とレニーがそれを押せばメキメキと音を立てそれは地に伏し、ズズンと音を立てた。

 

「ふう、これで……5本目!」


 本日我々は狩人ハンターでは無く木樵ハンターをしている。


 何故、魔獣狩りでは無く木の伐採をしているのかと言うと、それは早朝の会議でB班リーダーのマシューが提案した話が理由だった。


 ◆◇◆


「昨日、そこのアホ、カイザーからとんでもない提案をされた。それは超巨大弩砲、名付けて轟雷槍ごうらいそうだ。

 轟雷槍はアホみたいにデカい。そこに突っ立ってるアホ、カイザーを射出すると思ってくれ」


 アホは無いんじゃ無いか、アホは……。確かにゲームに登場する浪漫兵器を提案したのはアホだと思うけど、そう何度も何度も言われるとかなり堪えるんだが……。


 しかし、例えに俺を出したのは悔しいがわかりやすい。確かにスケール的にはその通りなんだよな。


 俺はこの手のロボにしてはやや小さめの全長7.2m。それを参考にして考えるとスケール感がわかりやすいな。


 まず、そこらに沢山居るブレストウルフが全長4m前後、これは俺の半分より少し大きいくらいだ。生身の体では脅威となるが、熟練のハンターでは敵にはならない所謂雑魚キャラだ。


 そしてそれのヌシであるバステリオン、こいつはデカい。俺達が戦ったバステリオンは後で計測してみたところ9.2mもあった。体高は5.4mと2階建ての家や信号機の高さくらいだが、体長は9.2mと俺より長い。

 俺を人間サイズに変換すれば丁度ヒグマと対峙したかのようなサイズ感だな。


 さて、問題のヒッグ・ギッガだがこいつはデカい。全長15.6m、体高は10.2mもある。体高の時点で俺より背が高いわけだ。バスが2台並んでと例えたが、高さを考えればバスどころでは無く3階建てのちょっとした建物、近所のレンタル店が丁度そのくらいだったが、そんな建造物に脚が生えて向かってくるわけだ。

 これを同じく俺を人間サイズに置き換えて考えると、だいたいワゴン車サイズである。走行中のワゴン車に飛びかかり動きを止めるだなんて無理な話だ。


 それ故の拘束用バリスタで有り、控えの轟雷槍というわけだ。


「轟雷槍については俺から説明させてくれ。これは主戦力としては考えていない。メインはあくまでも拘束用バリスタによる拘束からの攻撃だ。

 轟雷槍は万が一其れに失敗した場合、もしもやつが村に牙を向けた際の防衛策。街道に設置し、鼻っ面に叩きつけて動きを止めそこで決着をつけるための最終兵器だ。

 考えたくはないが、ここで失敗したら恐らくは村に被害が出るだろう。故に、轟雷槍の出番無く当初の作戦通り事が進むことを祈っている」


 なるべく村に奴の目が向かないよう戦うつもりではある。しかし、魔獣は中途半端に知恵をつけている。自らを痛めつけている生き物たちがどこから来るのか、其れを理解していれば潰しに来ることも考えられる。

 作戦中、村に目を向け潰しにかかることは十分に有り得る話なのだ。


「と言う感じの武器が轟雷槍なんだが、問題は設置方法だ。射出されるモノは槍と言っても先は尖っていない。

 カイザーの話によると走行中の奴の顔にぶつけるのが目的であり、刺すことは考えていないとのことだ。つまり、刺す必要が無いのであれば杭のようなものを打ち付けたほうが打撃ダメージを効率よく与え、怯ませることが出来る、そういうことなんだ」


 当初はゲームよろしく脇腹に槍を刺そうと思ったんだけど、疾走してくることを考えれば其れは難しいからね。失敗するリスクより確実な方法を考えた結果、少し浪漫度は下がるが杭と言う形になった。


 あれ……だったらパイルバンカーって名前にしたほうが浪漫度据え置きで使えたんじゃないかな……。


「それでカイザーがアホなのはわかっていたが、やはりアホだった。こいつの設計図には肝心なことが書かれていねえ。それは設置場所だ。

 奴をより怯ませるためには鼻っ面にぶつけるのが一番だ。そこであたいは考えたんだけど、その高さの建造物をまともに建てる時間はない。多少強度は下がるが岩や木材を組んで簡易式の砦を作りそこに設置しようと思うんだ。

 幸いと言って良いのかわからんが、街道は暫く誰も通らない。奴を退治したら速やかに撤去すればよし。

 というわけで、A班には木材を集めてほしいんだが、バックアップ指令、それでいいかな?」


「え?勿論ですわ!ただ、明日か明後日には購入リストが出来上がりますので、最低でも明後日はカイザーさんをお借りすることになりますがよろしいですか?」


「ああ、カイザーやレニーには運搬という大切な役割があるからなるべく居てほしいが、其れまでに資材調達を終わらせれば問題ないさ」


 ◆◇◆


 というわけで、朝から必死に木を切っては収納しているわけだ。ある程度時間が経ったら今度は他のハンター達のところを周り、彼らが切った木も回収する。


 午後になったら岩場に向かって石材を回収し、そのまま砦予定地に向かって資材を置く。これが今日明日我々A班に与えられた仕事である。


 槍の材料を集めなくていいのかと一応聞いてみたが、射出する槍に関してはレニーが狩るのをミスってボロボロにしてしまった魔獣だったものたち(ジャンクパーツ)で十分に賄えるので大丈夫とのことだ。

 ただ、射出装置本体に使う魔導炉が足らないそうで、それは俺達がミシェルとお使い中にハンターに頼むそうだ。


 確かに、射出される部分については特に機械的な駆動が必要なわけでも無いしな。煤けたりメコメコになったパーツでも十分仕えるわけだ。


 言ってしまえばそこらの岩でも十分に役目を果たせる可能性があるわけだが、わざわざ魔獣のパーツを加工して槍に使うのは少しでも強度を上げるためだ。岩よりも頑丈な魔鉄鋼であれば奴の鼻に当たった際に砕け散る心配も無いというわけである。


 いよいよ作戦が形になって見えてきたな。今はまず木樵に徹するか!

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