第八十二話 戦略
ヒッグ・ギッガの図を指し示しながら作戦について説明を始めた。
「まず、奴の体表にはいくつかのパイプが露出している。これは先ほど説明したとおり、冷却水が循環しているパイプで、外部に晒すことにより熱を放射しているのでは無いかと推測される。
奴を斃すために必要な前提条件はそれらを全て破壊し、奴の排熱を妨げることにある」
静まりかえる一同だったが、一人のハンターがおずおずと手を上げ発言をした。
「そうは言うが、あのデカさで突進してくるんだぞ。そう易々と破壊する隙を与えてくれるとは思えないが」
確かに。巨大なダンプに生身で飛びかかれ、そして解体しろと言っているようなものだからな。しかし、そのダンプがもし停車していればどうだろう。容易に潜り込み解体作業をすることが出来るはずだ。
「その第一目標が奴をおびき寄せる事。その役割は妙にすばしっこいうちのマシューがやる。マシューが乗る機兵、オルトロスも俺と同型の高機能型機兵だ。奴の攻撃を食らう事にはならないだろうよ」
驚いた顔でオルトロスとマシューを見るハンター達。事前に伝えていなければマシューも一緒に驚いていたことだろう。機体スペックで言えばパワータイプのオルトロスより、バランスタイプの俺の方が若干移動速度は速い。しかし、レニーよりマシューの方が移動に関わる技量が高いため、そこは逆転しているのだ。
故にマシューには最初の囮役を頼んでいる。
「そしてオルトロスが奴をおびき寄せた先でレニーが俺を使って奴を止める。これが第2目標」
「止める?ものすごい勢いで突っ込んでくるんだぞ?どうやって止めるんだ?」
そう、それを思いつくのには少し時間がかかった。最初は落とし穴でも掘ろうかと考えた。しかし、あのサイズの獲物から自由を奪う規模の落とし穴は用意するのに時間がかかりすぎるし、作業中に奴と遭遇する事も考えられる。なので……。
「さっき君たちを驚かせたアレがあるだろう?様々なパーツを取り出したアレだ。実は以前討伐した少し大きな魔獣が俺のカバンに入っていてな……、それを奴の進路上に突然取り出してやろうと思っている」
「い、一体何をだそうってんだ?」
「見せてやりたいが、アレもヒッグ・ギッガほどでは無いがかなりデカいからな。そこの家くらいはあるぞ。ここで出すのは不味いから現地でのお楽しみってことにしてくれ」
バステリオン、一応所有者はリックと言うことになっているが、まだ使わないはずだから多少ヒッグ・ギッガに見せたくらいで怒られることは無いはずだ。壊さないように直ぐしまうし平気だろう……多分。
「さて、突然進路上に障害物が現れたらどう行動するだろう?普通のイノシシならばそのまま止まらず突撃するはずだ。しかし、言ったとおり奴は賢い。突然目の前に巨大な物体が、しかも魔獣の亡骸が現れたらどう思うか?異変を感じ急ブレーキをかけることだろう。
一応、デカくても止まるような知恵が無かった時のことを考え、保険も用意しておくがそこで止まってくれると信じている」
「止まったとして、その後はどうするんだ?また直ぐに走り出してしまうぞ」
「そこで出てくるのがバリスタだ。仕組みはどういう物でも良いが、とにかくワイヤーが着いた巨大な矢を射出できる設置型の武器を使い奴をできるだけ狙う。ワイヤーで動けなくし、その隙にパイプの破壊をする、これが第3目標だ。
上手く武器が造れれば機兵が無いハンターでも十分戦力になってくれるはずだ。街道を挟むようにして予め左右に分かれて待機しておけば直ぐに奴を狙い撃てるだろう。
そして、拘束の効果が認められたら俺の合図で一斉に飛びかかり、パイプの破壊工作をする」
「バリスタッつーとあれか、攻城兵器として使われたとか言われてる奴だな」
「確かに今でも魔獣の討伐に使うって話は聞いたことがあるな」
「弓の形状をしてなくてもいいぞ、とにかく高威力で射出出来れば良い。技術者は足りているか?うちのマシューもそれなりに知識と技術があるから協力させるぞ」
準備期間として10日前後を設ける。そこで機兵の修理やワイヤーやバリスタ等の作成をして貰う。マシューには村の技術者と意見を交わしながら最善の用意をして貰う予定だ。
「さて、最終目標だ。恐らく、上手く排熱が出来なくなった奴は少しでも身体を冷やすためヌタ場に逃げ込むはずだ。しかし、その移動中もどんどん体温は上昇しそこに着く頃には限界が近くなっていると推測される。鈍くなった動きでヌタ場に横たわれば腹を見せる事になるわけだが……」
ここで投影しているモデルを回転させハンター達にヒッグ・ギッガの腹を見せる。
「こいつぁ……」
「こんな所に剥き出しかよ。それにしてもなんてでかさだ……」
タンクのような物に包まれ、多数のパイプが接続されたそれこそが奴の心臓だ。正直なところ破壊しないで斃せば良い金になるパーツだと思うのだが、背に腹は代えられない。
「これを、カイザー、オルトロスの両機をもって破壊し奴の息の根を止める!俺達の勝利となる!」
もう何度目か分からないが、広場がまた静まりかえる。どうだろう、乗ってくれるだろうか?
不安になり始めた頃、ジワジワと声が上がり始める。
「正直言って無茶苦茶だが……」
「ああ、だが、いけるんじゃねえかこれ?」
「何もしねえより出来ることをやろうじゃねえか!」
「機兵はねえが、バックアップは任せてくれ!」
やがてそれは大きくなり、広場が歓声に包まれていった。




