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第八十一話 前提知識

 広場に集まっている多数のハンター達、ギルド職員、そして村人達が固唾をのんで俺の説明を待っている。

 気づけば村中の人々が来てるのでは無いかという大人数に取り囲まれていて、なんだか少し緊張してしまう。


 しかし、納得がいく説明が出来なければ作戦は実現不可能となる。空気は上手く作った。


 後は勝てる戦いだと理解させるだけだ。


 ヒッグ・ギッガの横に簡易式の周辺地図を表示させた。これは夕べレニーに書いてもらったものだが、以外とよくできていて、地図作りの才能を感じさせられた。先ずはこの地図を使って作戦の前提となる情報を共有する。


「昨日、俺達はヒッグ・ギッガの行動を観察していたんだ。知ってる者も居ると思うが、奴は森を沢筋に沿って街道までやってきては泥を浴びて戻っていくようだ。

 問題は奴がわざわざ沢の水が土砂に流れ込むように調節をして泥場を作ったと推測されることだが、何故泥を浴びるか分かる者は居るか?」


「ただ遊んでるだけ……ってわけじゃないのか?」


「残念ながら違う。魔獣はある程度動物と同じような習性を持つが、大きな個体は数段賢い知能を持っていて自らの身体を維持するために様々な策を講じているらしい」


「じゃあ、一体あの泥で何をやってるって言うんだ、あのブタはよ」


 偵察で気づいた事がスミレの解析により確信に変わった。それはこの作戦の要となる情報である。

 

「それは冷却だ。この図を見てくれ」


 ヒッグ・ギッガの映像を1/2サイズにまで拡大する。思わず後ずさりする者が多数いるが、俺だってリアル世界でこんな事されたら同じリアクションをとるだろう。


「ここと、ここ、そしてここにもあるな。体中にパイプが露出しているのが分かるか?」


「ああ、ブレストウルフなんかだと燃料タンクから油を流す役割が有る奴だろ?こいつは一体何にそれを使ってるって言うんだ?」


「ブレストウルフの場合は攻撃のために使っている。そのため、そのパイプを破壊したところで攻撃方法が減るだけで大したダメージにはならないよな。所がこのヒッグ・ギッガに関してはパイプの欠損は致命的となる」


 致命的という言葉が聞いたのか、ハンター達の顔つきが寄り真剣なものに変わっていく。小山のような存在が、少しではあるが手が届く物に見えてきた、そういう顔だ。

 

「奴は全長もさることながら、重量もかなりのものだ。その巨体を動かすため体内ではかなりの高熱が生じている。パイプを通して水を巡回させその熱を発散しているようだ」


「沢筋を好んで移動したり泥場で転がるのは水を補充したり、泥で廃熱してるってことなのか?」


「ああ、恐らくはそうだ。泥場に身体を浸した瞬間、凄まじい勢いで水蒸気が発生していた。その身体がかなりの高熱を発している証拠だ。疑問なのは泥場に身体を浸してしまったらその泥がこびりついて廃熱の邪魔をするだろうと言うことだな。まあ、その辺まで知恵が回らない馬鹿魔獣なんだろうと思っているが」


 これは本当に分からないので冗談を交えて誤魔化した。これが思いのほかハンター達にうけてくれて、ちょっとした息抜きになったようだ。


「さて、ここまでが前提だ。俺達が協力をしてあのパイプをなんとか出来れば奴を弱らせることが出来ると思わないか?」


「つってもよ、今この村には機兵は4機しか居ねえぞ。保守パーツだってそんなにねえし他のを修理するのも難しいぜ」


「今回の作戦は村から6機出して貰えればなんとかなると思う。今動ける4機は確実に出て貰いたいし、残りの2機に関しては……俺達がいくらかはパーツを提供できると思う」


 赤き尻尾に渡した素材達からいくつか「多過ぎだ馬鹿野郎」と返された素材がある。その他にも何かに使えるだろうと取っておいたブレストウルフのジャンクパーツがかなりの数残っている。


「ちょっと開けてくれ」


 やや広めにスペースを空けてもらい、そこにいくつかパーツを取り出して見て貰うことにした。


 アイテムボックス……もとい、バックパックからいきなり現れたものだから多少驚いていたが、俺という存在や広場に浮かぶ映像で驚き慣れたのかリアクションがやや薄くなっているな。


「これは俺達が今まで集めた素材だ。修理に必要な部品は寄贈するから直して参加してくれるハンターは遠慮無く貰ってくれ」


「おいおい、ブレストウルフはいいがストレイゴートのパーツまであるぞ。本当に貰っていいのか?」

 

「ああ、こっちとしても無理を言ってると理解している。協力してくれるんだ、それくらい安いものさ」


「とは言っても、うちの村の事なんだぞ?あんたらがここまでしてくれる義理は無いよ」


「南の街道が塞がったままだと俺達も困るんだよ。それに、うちのマシューが鹿料理を楽しみにしているからな。なんとしてもあれは退治したいんだ」

 

 鹿料理のためと聞いた村人達から笑い声や呆れたような声が上がる。作戦会議にはこう言う空気も必要だ。あまり緊張が続くと恐怖に負けて士気が落ちてしまうからな。


「そうだな、まず今から作戦の詳細を説明する。それを聞いた上で直せそうな機兵はそれを使って修理して備えて欲しい」


 さて、本題に入ろうか。正直俺もどうすれば良いのか悩んだが、それは山ほどある機兵をどうするかだけ考えていたからだ。しかし、ふとした事から発想を転換させるとスルリと案が飛び出した。


「獲物は小山ほどある巨大なイノシシだが、俺達は動物相手同様の方法で狩りをしようと思う。そうだ、奴を罠にはめるんだ。奴を巨大な魔獣と考えるな、ただちょっとデカいだけのイノシシだと思え」


 ざわっと、辺りの空気がまた変わったのを感じた。


 

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