第八十話 討伐会議
村でミシェルと合流し手に入れた情報を交換し合う。
ミシェルにはヒッグ・ギッガの情報の他、戦力の状況も調べて貰っていた。集めた情報によれば現在動ける機兵は4機、残りは大半が大破しているが、数機ほど修理をすれば動けそうな機兵もあるようだ。
「みんな口を揃えてあんなのどうやって討伐するんだ?とおっしゃるのですが、そんなに凄かったのですか?レニーもマシューもなんだか元気がありませんし……」
「ああ、凄いってもんじゃ無いな。予想はしていたがやはりあれは俺達だけでは斃すことは出来まい。まして、正攻法ではとてもじゃないが難しい」
「じゃあさ、一体どうするんだ?今更やっぱ無理ー!とか言うのは厳しいぞ」
マシューが言い出したことだしな、その辺の責任はやはりあるのだろう。とは言え言ったとおり俺達2機では到底無理だ。
だから……。
「レニー、今からちょっとギルドに行ってきてくれないか?」
「今からですか?一体どうして?」
「明日、ギルド前で討伐の説明をすると伝えてきて欲しいんだ」
俺達だけでは無理だ。ならば人を集め、作戦を持って討伐してやろうじゃ無いか。しかし、そう言った所で集まるわけが無い。先ずは説明をすると言って興味を引いて人を集める事を考える。
「で、でも実際私も見ちゃったら無理だーって思いましたし、そんな私達がやれるって言ったところで……」
確かにそうだ。もしもこれが如何にも歴戦の戦士と言った風貌のA級ハンターであればハンター達は大人しく話を聞き、満ちあふれる戦意で討伐に参加することだろう。しかし、レニーやマシューはそうではない。
見た目はそこそこかわいらしい女の子だし、ランクだって3級だ。どんなに理にかなった作戦を語ったとしても耳を貸す者は居ないだろう。
「其れについては俺に良い考えがある。いいか、良くきけ……」
「まじかよ、正気か?」
「ぎゃ、逆に騒ぎになるのではありません?」
「で、でも確かに理にかなってるかも……とにかくギルドに行ってきますね!」
要するに強そうな奴が大いに其れっぽく語ったら説得力が増すのだろう?多少騒ぎになるだろうし、俺もあまり望んでやりたい行動ではないが背に腹は代えられない。
この俺が自ら大いに語り尽くしてやろうじゃ無いか!
翌日、昼過ぎにギルドに行くと既に結構な数のハンター達が集まってくれていた。思った通り誰もが期待をするような顔では無く、一体どんなことを言い出すのか見に来てやったという雰囲気が漂っている。
よし、レニー前説頼むぞ。
「皆さん、お集まりいただき有難うございます。改めまして3級パーティ、ブレイブシャインのレニー・ヴァイオレットです。昨日、実際に魔獣、ヒッグ・ギッガを目にして正直倒せるのかな?って私も思いました」
あの魔獣の名前を初めて知ったと驚く者、やはりあの娘も無理だと悟ったかとほっとする者や、馬鹿にしたように見る者等様々だ。
「それでも、討伐する方法が無いわけではない、成せばなると私達の師であり、強力な仲間が言ってくれました。昨日、ギルドに伝えたとおり今日はその方が討伐の説明をして下さります」
いつの間にレニー達の師匠になったんだ俺は。まあ、そう言った方が説得力は上がるけどさ、なんだかちょっと気恥ずかしいぞ。
周りと言えば、そんな奴いたのか?とか、女3人しか村に入ってきてないぞ?とか、まさかあの商人か?等々、戸惑いの声に溢れているな。よしよし、良い具合に暖まってきたぞ、さあ、レニー頼む!
「その仲間は普段その力を隠しているため、皆さんには居ない者として扱われていますが、今もこの場に立ち、皆さんへ勝利へ向かう作戦を伝えるのを今か今かと待っています!」
周囲のざわめきが増し、辺りをキョロキョロとし始めている。冗談で指を差し合ってる奴らもいるな。
「それでは!お願いします!カイザーさん!」
待ってましたとばかりに馬形態からメイン形態に変形しゆっくりと立ち上がる。村の中では馬形態で通していたため、この時点でかなり驚いているな。
「ブレイブシャイン、レニー・ヴァイオレットの搭乗機、カイザーだ。おっと、驚かせてしまったことは謝っておく。俺は……そうだな、ちょっと変わった存在、遺物的な機体とでも思って貰って構わない。詳しい話は出来ないが、君たちのように意思を持って考え、話、自ら動くことも出来る……君たちの言葉で言うところの機兵だ」
遠巻きに見ていた老人達が手を合わせ拝み始めてしまった。アーティファクトなんてかっこつけたのは不味かったか?
『カイザー、この世界で言うアーティファクトと言えば所謂神話の時代に活躍した今の機兵の元になったオリジナル達、言わば神機に近い存在なのですよ。完動品が現存するかも怪しいらしいのに、ごらんなさい、余計に騒ぎが酷くなってますよ』
そういやそんな話をレニーがしていたな……。
まいったなあ。俺の出所を誤魔化しつつ説得力が増す良い案だと思ったんだけど。しょうが無い、このままのノリで続けよう。
「コホン。そう、特別扱いをしなくても良い。今の俺は縁あってこのレニーの機兵として活動しているし、多少強いが伝説の神機というものでもない。だからそこらのハンターだと思って気軽に話しかけてくれて構わない」
「そこらのハンターと思えって無理だろ……」
「俺は夢を見てるのか?神話時代の機兵は心を持っていた……?
「どっからあんなの見つけてきたんだよ……いいなあ……」
このままでは会議どころでは無いな。ええい、強引に集中させてやろう。アレを見せればどうとでも鳴るはずだ。
「まあ、お喋りはそれくらいで……、今は会議に集中してくれ。
それで、作戦だが、ちょっと中央を見て欲しい」
わざわざそう言わなくても俺たちがいる中央を皆凝視しているのだが、敢えてわざわざそう言うことで何かが始まるのかと身構えることが出来るし、何より空気を変えることに成功したぞ。
「これが、ご存じヒッグ・ギッガだ。見たことがないものもよく見ておいてほしい」
カイザーの秘密機能である3D投影システムにより、広場に縮小されたヒッグ・ギッガの像が浮かび上がる。俺が喋った時以上に腰を抜かす者や叫び声を上げる者、拝む者、パニック寸前というか既に片足を突っ込んでいる。
「落ち着け!これは本物ではない!俺が書いた絵だ!よく見ろ!小さいし動かないだろう!」
「あれが絵だと?」
「いい加減な事を言いやがる!絵が宙に浮くかよってんだ!」
「でもこれすげえな、落ち着いて観察出来るぞ」
俺の良く分からない無理矢理名言い訳で多少気がほぐれたのか徐々にでは有るが落ち着きを取り戻しだしている。
この機能はレニー達にも見せたことが無かったため、彼女たちも同様に驚いた顔をしていた。
何で今まで使って見せなかったって機会が無かっただけなんだよね。この機能は実物と遭遇しスキャンしなければ使うことが出来ない。アニメみたいに3Dモデルが保存されたストレージでもあれば別なんだろうけどこの世界ではそんなもの期待できないからな。データは自炊するしかないってわけさ。
「わざわざこんな派手な真似をしたのには理由がある。今回の討伐作戦には村のハンター達の協力が不可欠、作戦の説明にこれ以上の物が思いつかなかったんだ。今からこの映像を使って流れを説明をする。その上で我こそはと言う者が居たら……力を貸して欲しい!」
驚きと不安に満ちあふれた声が広場に広がっていく。正直俺が考えている作戦も運ゲーに近い部分がある無理矢理な作戦だ。受け入れて貰えるかどうかは場の雰囲気次第だが……やるしかない。




