第四十一話 バステリオン
ジックは焦っていた、それはそれは死ぬほど、いや今まさに死んじゃうよ!ってくらい焦っていた。
「まじかよジック!最低だな!」
ガハハと笑うダックとニックに我ながら妙案を考えたと思った。ブレストウルフ共を穴掘り共の巣にけしかけ、パニックになったところを掌握、人質を取り全裸共の機兵を奪ってやろう、そう考えていた。
が、甘くはなかった。彼らはあまりにも間抜けだった。ここは大狼の山、噂のバステリオンが棲むと言われる山である。
しかし、噂は噂。臆病なハンターがブレストウルフ相手に逃げ帰った言い訳にしか過ぎねえ、そう思っていたのである。
しかし、今ブレストウルフを従え彼らを狩るべく走る巨体、それはまさにバステリオンだった。
ギルドの反対側から山を登り、ブレストウルフの巣を見つけたジック達は丁度いいとばかりに薬瓶を投げつけた。
それは魔獣を興奮させ判断力を鈍らせる毒薬で、人で言えば泥酔したような状態になるものだ。凶暴性は増すものの、攻撃が大雑把になり避けやすくなる。彼らが日常的に使っていた作戦だった。
「よし、後はこの間抜け共を連れて下山すれば…おい…あれはなんだ…?」
薬の匂いを嗅ぎつけ現れたのがバステリオン。使役している魔獣共の様子を見て激昂してしまった。
結果として当初より強力なトレインを実現できたことなるわけだが、予定と違うのは彼ら自体もピンチに陥っているというところ。
当初の予定では適当な所で脇に避け高みの見物という作戦だったが、背後まで迫るバステリオンにそんな動きは見せられないのだった。
『カイザー、敵機目視範囲に入ります。レニー、見えますか?』
「うん…あ!一人ふっとばされた!……おかしいな、ウルフが追わずに無視してる…」
「そうだな、普通なら何体かがとどめを刺しに向かうはずだが、残りの二人をそのまま追いかけている…」
「のんきに分析してる場合じゃねえ!構えろ!」
「そ、そうだね!…でも走ってくる機兵邪魔だなあ…」
『パイロット確認。レニー、気にしないでぶっぱなしましょう』
「何言ってるのスミレお姉ちゃん?相手は多分ハンターだよ?」
『だからですよ。あのパイロット、ダックとかいう"嘘つき"と街でレニーに絡んだ男ですよ。ついでに吹っ飛んでいったのも街で一緒に居た男です』
なんだか話が見えてきたぞ…これは全部やっちゃっていいやつだ。レニ…
「わかりました!お姉ちゃん!なーに、コクピットに当てなきゃ良いんですよ!ふふ!」
「お…おい…レニー?なんだか声が…」
マシューが少し引き気味の声だ。俺もちょっとびっくりしちゃった…。普段あまりキレないレニーがガン切れしている。そりゃ俺もレニーにやっちまえと言おうとしたところだけど、まさかレニーがここまで怒っていたとは。
「当たったら……ごめんなさいねえ!!!」
群れに向かって駆け寄り、直前で飛び上がり蹴りの体制に入る。
「ライトニングゥウウウウウウ…スラッシャアアアアアアアアア!!!!」
恐らくその場のノリで言っているであろう技名を叫びながら飛び蹴りを食らわせる。足はウルフェンタイプに当たり、群れから離れるように転がっていった。
コクピットこそ無事だが、直撃を食らったヘッドパーツは完全に破壊されており、あの転がりっぷりでは中のパイロットも無傷ではいられないだろう。
頭を踏んだ反動でバク転をし、もう一体のウルフェンもソバットで蹴り飛ばす。あ、今度は技名特に言わないんですね。
「逆刃刀って不殺のために使ってるとの事だけど、アレで攻撃されたら結構キツい大怪我するよねえ、下手したら死ぬじゃん!」っていう話を良く聞くが、レニーの「コクピットに当てなきゃ良い」というのはそれに近い言い訳ではなかろうか……。
「これで邪魔者は消えた!!!マシュー!!!」
「ああ!こっちだ!狼共!」
マシューがナイフでブレストウルフの頭を潰していく。
特訓の成果で出力調整が上手になったため力の入れどころが的確になっている。っと、後ろがお留守だぞ。
「マシュー!後ろ!」
背後から飛びかかろうとするブレスとウルフをレニーが掌底で落とす。こちらも動きが機敏になり、咄嗟に動いても歪みが少なくなっているな。
『残りは~』
『あと一匹ー』
〔グゥヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲン……ッ!!〕
手下の亡骸を前にしてバステリオンが咆哮を上げる。ちょっとした家くらいあるその巨体、一体どこに隠れ家があったのだろうか。こんなデカイの直ぐ見つかるだろうに。
太い四肢にきらめく銀色の鬣、金色に輝く瞳に燃えるように揺らめく口……燃える?
「いかん!レニー!マシュー!避けろ!!!」
一閃すると参道が焼け焦げている。
『対象の口蓋部に高出力兵器の存在を確認、所謂レーザー的なアレです』
スミレも必死なのか解説が雑だが、そうだね、レーザーだね。
しかし、この場所は不味い。狭い上に崖崩れでも起こしたら下にあるギルドが巻き込まれてしまう。
「レニー!マシュー!ギルド下の広場に誘導するぞ!!!」
投石をしながら下山していく。怒らせ誘導することが目的の投石でダメージは期待していなかったが思った以上に効果がない。一体どれだけ硬いんだあの体は。
しかし、仲間を殺され怒っているのかわからんが、うまいこと俺たちについてきてくれている。ブレストウルフですらもう少し賢いんだけどな、デカい分脳筋なのだろうか?
走っている間はレーザーを吐けないのかしらんが、焼かれることなく目的地に到着。
避けたレーザーがギルドを直撃しては元も子もない。麓を背にして迎え撃つ!!!




