第三十八話 訓練は続く
訓練二日目――
マシューに箸の訓練を命ずると凄まじく嫌な顔をされたため、適当な事を言ってやる気を出させた。
「レニーはこれを2時間続けて出来るぞ」
びっくりするほど良い効き目だった。強ち嘘ではないしね。
「作業だけなら」2時間ぶっ続けで出来るだろう。石を箸でつかめるかどうかは別として。マシューは輝力のコントロールこそ甘く、またその量もレニーに劣るが器用に掴む。
これが耐久ではなく、一定時間にどれだけ移動できるかという勝負であればレニーは歯が立たないだろうと思う。
最も、俺がこの作業をするのをスミレが許すわけが無いのでその勝負は実現しないのだが。
午前は個別の訓練だ。レニーが今日何をするかと言えばストレイゴートの狩りである。
ストレイゴートは所謂ヤギだ。警戒心が高く、近くに寄るのが難しい。また、追い詰められると切り立った崖でもひょいひょい身軽に移動するため飛び道具が無い今狩るのは難しいだろう。
ちなみにどのパーツが必要なのか聞いたら「脚」だということだ。強靱でしなやかな脚パーツは2本一組で機兵の腕となるらしい。
高荷重に耐え、柔軟に動かせる腕パーツは速度こそ期待は出来ないがパワーだけは出せるため、土木作業容器兵のパーツとして需要があるらしい。
勿論、頭部もまた安価な機兵のヘッドパーツとして需要があることからストレイゴート狩りは良い稼ぎになるそうだ。
『カイザー、ターゲット発見しました。東南480m、5体の群れです』
「ありがとうスミレ。レニー、聞いたな」
「はい!ストレイゴートは怖がりで逃げやすいと聞きます!慎重に近づいて不意打ちしましょう」
そう上手くいくとは思えないが、俺からは何も言わずレニーに任せてみよう。
……慎重に,とは言えロボの体である、見事に気づかれてしまい警戒されている。
群れの内3頭がこちらを向いてじっと見つめている。ここで下手な動きをしたら一目散に逃げられてしまうことだろう。
「レニーここは一度…いち、レニイイイイイイイィイイイイ????」
「見つかってしまっちゃあしかたなあああああああいいいい!!!!!」
気づけば俺は走らされていた。どうやら距離を取られる前に一気に詰めて狩る作戦のようだが、なんてむちゃくちゃな。
「どりゃあああああああああ!!!!」
地を蹴り、土埃を立て跳躍する。
空中で手を広げ、ターゲットをそのまま抱きかかえる……
鈍く音を響かせ、全身で着地する。
遠くからストレイゴートの群れが大の字で半分めり込む俺を見ている気がした。
『……当機スキャン完了…損傷無し。共にレニーの知能も無しと判明……』
「いてて…そんな…スミレお姉ちゃん酷い…」
「酷いのはお前だ……考え無しに飛びやがって…俺が壊れたらどうするんだよ……」
ストレイゴートは見た目通り素早い魔獣だ。そんな魔獣に離れた場所から飛びかかったところで捕まえられるわけが無い。
俺より魔獣に詳しいであろうレニーのその判断をして欲しかった……。
ここで丁度良い時間になったのでマシュー達の様子を見に向かった。
◇
昨日場所へ戻ってみると、オルトロスがひっくり返っていた。
「お、おう…大丈夫か……?」
『マシュ~は~お休み中~』
『本日3回目の気絶だよー凄いねー』
大体訓練を始めてから4時間くらいが経過している。大体1時間に1回くらい気絶したのかな?昨日から考えれば大分輝力量が上がっている。やはり適応者ともなれば超回復的にメキメキと輝力が増えていくのだろう。
お昼を挟み、昨日と同じメニューだ。
レニーは先ほど獲物に近づくことすら出来なかったのが余程応えたのか、黙々と投擲の練習をしている。そうだな、投擲さえまともに出来れば石で不意打ちをして仕留めることが出来るし、足を狙って逃げられなくすることだって出来るだろう。
マシューは基礎輝力が増えたおかげかまだ気絶をしていない。現在5個目の岩を運んでいる。輝力が増え、もう少し調節が上達すれば移動速度も上がり倍以上の速度で運べるようになるだろう。
◇
――三日目
レニーは投擲を試みたが、いたずらに地面を抉るだけで命中することは無かった。パワーだけはあるため射程は異様に長いのだが、どうにも命中精度が低い。
――四日目
とうとうマシューが気絶すること無く午前を終えることが出来た。もう1日やったら午前は狩りに回しても良いだろう。
レニーは相変わらずクレーターを増産しているが、午後の練習で半分を超える264個の石を命中させたので以前よりかなり良くなっていると言えるだろう。
――五日目
レニーがとうとうやった。ストレイゴートの身体に石を当てたのだ。しかし、以外と頑丈なようで倒すには至らず逃げられてしまう。もう少し近くから当てるか、頭似当てるかすれば違うのだろうが今のレニーには難しい話だ。
マシューはもうすっかり輝力のコントロールが出来るようになったようだ。これが器用さの違いか。後は高出力に耐えうる輝力がつけば良いだろう。
そして六日目、成長の早さに舌を巻くことになる。




