円卓の作戦会議
「乾杯!」
3人分のウーロン茶のグラスが、円卓の真ん中で軽くぶつかった。
ダンジョン協会から歩いて5分ほどの中華料理店。通されたのは、回転する天板の付いた丸テーブルがある個室だった。これからする話を、他の客には聞かれたくない。そう思って、私が頼んで席を取ってもらった。
最初に運ばれてきたのは、クラゲの冷菜、よだれ鶏、皮蛋豆腐の前菜3品。続けて小籠包、海老蒸し餃子、焼売、春巻の点心が、湯気を上げるセイロごと次々と並んでいく。
「……あの、本当に3名様でよろしいですか?」
店員さんが、人数を3回確認していった。注文した料理は全部で27品。私たちは「大丈夫です」と声を揃えて頷いた。
レベルが上がると、食べられる量の上限も増える。今の私たちにとって、これでもまだ腹八分目くらいだ。
フカヒレスープと酸辣湯を挟んで、北京ダックが2羽、卓上で切り分けられた。パリパリの皮を薄餅に包んで頬張ると、甘い味噌と脂の香りが口いっぱいに広がる。
「おいしい……! 皮がこんなにパリッとしてるの、久しぶり」
紫苑が目を細めた。続いてエビチリ、黒酢の酢豚、麻婆豆腐、青椒肉絲、回鍋肉、油淋鶏、牛肉のオイスターソース炒め、八宝菜、青梗菜のにんにく炒め、蟹玉。大皿が円卓をぐるぐると回っていく。
最初の10品が空になった頃、鏡花が箸を置いて切り出した。
「それで、これからどうする? 鎌倉、封鎖されちゃったんでしょ」
「ダランさんの話だと、約2ヶ月は入れないみたい」
私は声を落として答えた。あの階層で起きたことは、私たち3人と、ダランさんしか知らない。
「2ヶ月かあ。その間、ずっと休むわけにもいかないよね」
「うん。だから、ここに来る前に協会で貰ったものがあるの」
私は亜空間庫から、封筒を3つ取り出した。中には、近場のダンジョンの下層までの地図と、データチップが入っている。それぞれ3か所分、3つずつだ。
「換金のときに、職員さんが渡してくれた。このうちのどれかを探索先に選んでほしいって」
円卓の上に、地図とチップを並べる。鏡花が端末にチップを差し込み、紫苑が地図を広げて、3か所を見比べていった。
距離、出現するモンスターの傾向、セーフスペースの位置と数。デザートが来るまでの間、2人はずっと唸っていた。
「ここだと、下層の入り口までは割とスムーズに行けそうだね」
「でも、こっちは中層のモンスターの数が多すぎるかも。私たち、力は隠したままで進むんだし、目立たないほうがいいよね」
「その点、小田原は人が少ない気がする」
最後に鏡花が指差したのは、小田原ダンジョンの資料だった。
「ここ、行きやすいし、下層の構造も素直そう。ここにしない?」
「賛成」
私が頷いたところで、紫苑がぱん、と手を叩いた。
「そうだ! 小田原なら、おじいちゃんの家があるよ」
「え?」
「小田原の駅から近いの。探索の間、そこに泊めてもらえばいいじゃない。宿代も浮くし、移動も楽だよ」
紫苑はそう言って、スマホを取り出した。
「ちょっと電話してみるね」
個室の隅で、彼女は何度かうんうんと頷きながら話している。「友達2人と……そう、2ヶ月くらい……ありがとう、おじいちゃん!」。通話を切って、くるりと振り向いた紫苑は、満面の笑みでピースサインを見せた。
「いいって! 好きなだけ泊まっていきなさいって言ってた」
「ありがとう、紫苑。助かる」
行き先と宿が決まったところで、ちょうど蟹チャーハンと五目あんかけ焼きそば、担々麺、白いご飯が運ばれてきた。〆の主食を前に、私は大事なことを思い出した。
「あ、でも、武器ができるのは3日後だった」
「そうだったね。親方さん、3日後に来いって言ってたもんね」
「その間はどうしよう?」
「各自、別行動にしようか」
鏡花の提案に、私と紫苑は顔を見合わせてから頷いた。
「3日後の朝に、協会の前で集合。そこで武器を受け取って、そのまま小田原に向かおう」
「了解」
結論が出て、肩の力が抜ける。そこへ杏仁豆腐、胡麻団子、マンゴープリンのデザート3品が運ばれてきた。
「これで27品、制覇だね」
空になった皿が円卓の上に積み上がる様子を見て、鏡花がくすりと笑った。
「3日後が楽しみ。配信も、小田原から始められるしね」
「うん」
杏仁豆腐をすくいながら、私は胸の奥に小さな高揚感を覚えていた。配信機の魔石は、もう全属性揃っている。あとは武器を受け取って、新しいダンジョンへ向かうだけだ。
会計は8万4,000円だった。私が払おうとすると、2人が横から「割り勘!」と言ってきたけれど、「今日は私が出すよ。情報料もあったしね」と押し切った。
店を出ると、夜風が火照った頬に心地よかった。
「じゃあ、3日後ね」
「おやすみ」
2人と別れ、私は協会直属のホテルへ向かって歩き出した。




