唯一スキルで覚醒!?
五年前のあの日、私は生まれて初めて『力』というものを手に入れた。
スタンピードの渦中、無我夢中で振るった剣が魔物を捉えた瞬間、頭の中に無機質な声が響いたのを今でも覚えている。
「唯一スキル、自傷ダメージを獲得しました」
当時の私は、その意味をまるで理解していなかった。強大な力を手に入れたのだと、根拠のない万能感に浮かれていた。どんなに格上の相手にでも、これで渡り合えるのだと。
けれど現実はすぐに教えてくれた。
このスキルは、自分のHPを消費しない限り、相手に一切のダメージを与えられない。
攻撃力が高かろうが、剣の腕が良かろうが関係ない。私が自分自身を傷つけない限り、私の剣は――ただの空振りに終わる。
裏を返せば、スライム一匹すら、私はHPを1でも削らなければ倒せないということだ。
その現実を知った日、私はしばらく動けなかったのを覚えている。
――それから五年。
私は今、新宿ダンジョンの十層、その最奥へと続く道を歩いている。
「……三つ」
腰のポーチに手を入れ、残りのポーションを数える。持ってきた五本のうち、使ったのは三本。まだ二本残っている計算だ。
道中に出てきたオークたちは、拍子抜けするほどあっさりと片付いた。気配を殺して間合いを詰め、首の付け根に短剣を突き立て、そのまま回転させて斬り飛ばす。何十体倒しても、この一連の動きにはもう迷いがない。
――思ったよりHPに余裕がある。
私は小さく息を吐いて、顔を上げた。
「……ここまで来るのにポーションは三個消費。あと二本あるからせっかくだし、上層のボスにでも挑んでみますか」
独り言のつもりで呟いた声は、静まり返った通路に思いのほか大きく響いた。
上層――一階から十階までの、この迷宮のボス部屋。まだ誰も、私をそこへ導いてはくれない。行くと決めるのは、いつだって自分自身だ。
案内板の奥、一際大きな扉の向こうに、私は足を踏み入れた。
待ち構えていたのは、これまで倒してきたどのオークよりも二回りは大きい個体だった。オークの群れを束ねる、階層の主だ。
「レベル22、か」
視界の端に表示された自分のレベルを一瞥して、私は剣を構え直した。
相手の初撃を紙一重で躱す。躱した直後、私は自分の腕に刃を滑らせた。
――ズキリ、と鈍い痛みが走る。
それでいい。この痛みこそが、私の剣に力を与える。
消費したHPと与えたダメージ、そして消費した割合――その全てが上乗せされた一撃が、オークの巨躯に叩き込まれる。
一撃、また一撃。
削っては削られ、削られては削る。何度倒れかけ、何度立ち上がったか分からない。ポーションに手を伸ばしたい衝動を、何度も飲み込んだ。
――ここで頼ったら、また同じだ。
五年前、誰かに守られてばかりだった自分を、私はもう終わらせたい。
何度目かの斬撃で、ついにオークの巨体が膝をついた。とどめの一太刀を首筋に振り下ろした瞬間、視界の端でレベル表示が跳ね上がるのが見えた。
「20……22……24……」
気づけば、数字は25で止まっていた。
それと同時に、頭の中に、あの無機質な声が五年ぶりに響いた。
「唯一スキル継続回復を付与します」
――ようやくだ。
五年前、あの絶望的な欠点を思い知らされてから、私はずっとこの声を待っていた気がする。
自傷ダメージだけじゃない。私にも、まだ足掻ける手札が残っていたのだと。
崩れ落ちるように座り込んだ私の目の前で、十層の扉が静かに開いていく。
その先に続くのは――まだ見ぬ、十一層。




