1.プロローグ
本作品は、騎士団のアーチャーシリーズの3作目となります。
気になった方は是非とも前前作”騎士団のアーチャー”・前作”騎士団のアーチャ~王国内乱編~”を呼んでいただけると嬉しいです。
夏の終わりを告げる少し湿りつつも涼しい空気が、領主の館にある執務室にある窓から流れ込んで来る。机に並べられた資料に目を通していた領主であるリデル・ホワイト伯爵は、風で飛びそうになる手紙を人差し指で抑えながら、風の音と共に廊下を歩く音が紛れているのに気付いた。
恐る恐るといった調子で開いた扉の隙間から顔を出したのは、3年前に産まれたリデルの長男であるラフナ―・ホワイトだ。ラフナ―という名は、昔リデルと共に戦った双子の獣人から取った。
「おとぉさん、ねないの?」
まだ舌足らずな息子の言葉に思わず顔をほころばせてしまうのは親心というものだろう。これまで子供は若干苦手な意識があったのだが、自分と血のつながった子供となると全く別で、一つ一つの行動と言葉に表情が崩れるのを抑えきれない。
「お父さんはまだ仕事が有るんだ。お母さんはどうしたんだ?」
「クレアを寝かしてる」
ラフナ―は自分の大好きな母が、去年の冬に生まれたばかりの長女の世話ばかりしている事が不満と言った表情だ。ちなみにクレアも共に戦ったクレスの女性名となる。
「じゃあ、私の少し膝においで」
パタパタと足音を立てて足元まで来たラフナ―を抱え上げると、自分の膝に座らせる。この年頃の子は日に日に重くなり、成長していくことを感じざるをえない。
「それじゃあ、お母さんが来るまでお父さんとお仕事しようか」
首が取れるのじゃないかと思う程に、ラフナ―は真上の自分を見上げたまま首を縦に振る。
「これぇ、なにぃ?」
「これはね、私たちの領地の地図だよ」
「じゃ、これはぁ?」
「これはね…」
ラフナ―は執務机の上に置かれた色々なものを片っ端から「これは何?なんで?」と疑問をぶつけて来る。いつもならば少し相手をした後、私の妻でありラフナ―の母であるルーシーか、側仕えやメイドでも呼んでいる所だが、どうにも仕事にたいして向き合う気が起きなかった自分にはちょうどいい時間だった。
世の中の疑問を粗方答えたのではないかと思う程の長い”質疑応答”の時間を過ごしていると、先程ラフナ―が半開きのまま入って来た扉からルーシーが顔を出す。
「あら、ごめんなさい」
机に向き合う父と子の姿を目にしたルーシーは、自分の仕事が出来ていないと考えたようだ。
「いいんだよ」
自分の横まで来ると、ルーシーはラフナ―に「それじゃあ寝ようね~」の言葉と共に、ラフナ―を抱き上げた。「続けて」と言い残して部屋から去ろうとするルーシーの後ろ姿を見送る前に、静かに呼び止める。
「どうしたの?」
「ほら、明後日からまた近衛に戻るだろう?」
「そうね、帰る前にもう一人欲しいの?」
思わず笑って「おい」と言ってしまった自分につられてルーシーも笑っていた。その状況を見たラフナ―のなぜ?が始まったのだけれども、それはルーシーが上手く受け流している。
「真面目な話に戻るよ」
「えぇ、どうぞ」
「”始まりそう”だ。多分暫く……いや長い事ここに帰れないかもしれない」
自分の言葉にルーシーの表情が固まった。
彼女が少しの間を置いて落とした目線の先は、自分の手元にある王家の印がある手紙がある。
「どこに行くの?いつ?」
「多分東か南東……今年の冬だと思う」
「そう……もう、それまで帰ってこれないの?」
「だと思った方が良い」
静かに自分の手元にある手紙に視線を落とした。
そこに書いてある事項は単純で、自分の領地において徴兵を行った後に、兵力をある地点・日時に結集させよというものだった。要するに王からの命令書だ。この王命が何を指し示しているのかなど、察しの悪い奴でもわかる。
いま我々の国…オロール王国は戦争を始めようとしているのだ。
「また、あとで」
不安そうな表情で扉の前で立ち尽くすルーシーに声をかけると、彼女は静かに頷いて、先程までの明るい表情とは対照的な顔をしたまま扉の奥へと消えて行った。
自分はその扉を見つめたまま動けずにいる。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




