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言っていいことと悪いことがある

 

「いらっしゃい」

 店内に入ると、入り口の正面のカウンターで待機していた店主がユウ達に声をかける。しかし、店主はユウ達の背後にいるアネッサに気が付くと、砕けた雰囲気を醸し出しながらカウンターから出てきてアネッサたちに近づいてくる。

「おお、アネッサじゃないか。久しぶりだな。彼らはお前の連れか?」

「ああ。彼は今回雇った荷物運びの人足だよ。帰還祭もあるだろうから色々と入用になるだろうと思ってね。彼を雇ってここまで運んできたんだ。ちょっと表にあるから道具屋の店主とかを呼び出して物資の配分とかをしたい。頼まれてくれるか?」

(帰還祭?)

 ユウは聞きなれない単語に引っかかりを覚える。その裏で、アネッサの言葉に店主は驚いていた。

「お前がわざわざそんなことをしてくれたのか?すまない、手間をかけたな」

「いや、今は帝都も騒ぎがあって人の移動が制限されていたからな。隊商もこちらには来れないだろうと判断した」

「騒ぎ……?一体何が」

 事情を聴こうとする店主をアネッサは軽く手で制する。

「事情は村長も交えて後で説明する。とりあえず今は表の荷物だ。一緒に来てくれ」

 頷いた店主はアネッサに連れられるままに表に出る。直後、表の方から店主の叫び声が上がった。


『な、なんだこのアホみたいな量の荷物は!一人で運んだのか!?』

 

 どうやら思ったよりも運んだ荷物が多すぎて、店主に衝撃を与えたらしい。そんな店主の声を聴きながらユウとティキは顔を見合わせる。

「どうぞ大変だったでしょう?さあ、こちらで一息ついて」

 そんな二人は背後から声をかけられる。ユウが声の方へと振り向くと、そこには年配の女性が立っていた。彼女はユウ達に入り口横にある酒場スペースへ来るように手招きをする。

「アッ、ハイ」

 ユウとティキは促されるがまま、酒場の中心の方にあるテーブルにつく。すると、女性は酒場の一角に立っていた給仕らしき少女へと声をかける。

「あの子たち、アネッサちゃんの連れらしいの。適当に軽食と飲み物を出しておいてもらえるかしら」

「分かりました、女将さん!」

 給仕は勢いよく返事をすると、厨房の方へと入っていき、それを見届けた女将は宿屋の外へと向かう。

「なんか大変そうだな」

 その様子を眺めながらユウは呟く。一方でティキは興味深げに周囲を見回している。

「どうした、ティキ?帝都以外に来たのが初めてだから珍しいのか?」

 ユウに聞かれてティキが頷く。

「うん!帝都の外の酒場だとこんなに人がいないんだね!僕驚いちゃったよ!」

「んが……」

 あんまりなティキの発言にユウは思わずテーブルに頭をぶつける。

「うわぁっ!どうしたの、ユウ兄ちゃん!?」

 ユウの突然の行動にティキが驚く。ユウは苦笑をしつつ頭をテーブルから頭から上げる。

「いいか、ティキ……くれぐれもどこの店に対してもガラガラとか流行ってないとか……」

「無暗に言うもんじゃないねぇ」

 ユウの言葉を、給仕が引き取る。彼女は手にしたトレーには飲み物が入っていると思しき木製のジョッキと、サンドイッチのような料理が乗せられている。

「そうなんだ、ごめんなさい」

 給仕とユウの指摘に、ティキは素直に頭を下げる。

「素直でよろしい。お姉さんはそういう素直な少年には優しいぞ」

 そう言って給仕はテーブルの上にジョッキやサンドイッチを並べる。ユウとティキは一礼をすると、並べられた食事に手を付け始める。そんな二人を眺めながら給仕は軽くため息を漏らす。

「……まあ実際人は全然来てないんだけどね。普段ならこの時期は帰還祭でもっと人が来てるんだけど」

(またその名前か。どうも名前的には地元のお祭りっぽいけど)

 ユウがそんなことを考えながらサンドイッチを齧る。どうやらパンの間に挟まっているのは焼いた肉らしい。味付けは薄い気がするが、まあ気になるほどではない。

「なんかここ数日、急に人の往来がばったり途絶えちゃったんだよね。あんた達が来るまで、一週間に一度はこの村に来ていた商人とかも来ないし……あんた達何か知らない?」

「ああ、それは……」

 彼女の質問に対し、ユウが知っていたことを応えようとしたその時……

「それについてはこれから話をここでするとしよう」

 突如現れた老人が酒場に入って来ながらユウの言葉を引き取る。

(誰だ……?)

 ユウがそんなことを考えた直後、老人の後ろから続いてアネッサとルークが現れる。そこで、ユウは老人の素性を察する。

(なるほど、あの人がさっきルークさんが言ってた村長か)

 ユウがそんなことを考えている傍ら、村長は酒場のカウンターの前に立ち、アネッサがその傍らに控える。そして、その後数名の男が酒場に入ってきては、それぞれテーブル席に座る。男たちがテーブルに座ったのを確認した村長は口を開く。

「よく集まってくれた。これからアネッサから重要な報告があるから心して聞いてほしい」

 それを聞いた男たちは無言でうなずいた。

 

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