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ギリギリは攻めたいが攻められるのは困る

「どうもみんな、久しぶりだな」

 紹介を受けて、それまで村長の傍らに控えていたアネッサが前に出て挨拶をする。それを受けた男たちは無言で頷く。

「現在、世界が置かれている状況についてみんなにも伝えておきたい。場合によっては、また戦いになるかもしれない」

 アネッサの言葉を聞いた男たちの表情が険しくなる。

「魔族との戦争も終結した今、一体何と戦うんだ?」

 座っていた男の一人が疑問の声を上げる。

「分からない」

 その疑問の声にアネッサは正直に答える。

「分からないって……一体何が起こっているというんだ」

(分からないと正直に言ってこの反応……この集落の住人に信頼されてるんだな)

 二人のやり取りを横から眺めながらユウは感心する。

「現在、各地で原因不明の魔物の狂暴化が起きている。魔物によっては巨大化や変質が発生しており、従来の姿とは似ても似つかないものになっている事案もあるという」

 アネッサの説明に男達がざわつく。彼らのうち、あるものは互いに顔を見合わせ、あるものは一人視線を上に向けて考え込む。誰もが皆、頭に浮かんだ疑問や不安を思い思いに消化しようとしている。そんな彼らにアネッサはさらなる情報を告げる。

「先日もアルグラントが巨大なドラゴンに襲われた。そのドラゴンは一般的なサイズの倍以上の大きさがあり、さらに身体の随所に妙なヘドロのようなものがとりついたような謎の変質が見られた」

「じゃあ、先日帝都の方で火の手が上がっているではないかという報告が集落内であったが……」

 一人の男の言葉にアネッサは頷く。そのアネッサの反応に男たちは思わず息を飲む。

「一体そんなドラゴンにどうやって対処したんだ?今日のお前の様子を見る限り、帝都の被害はある程度抑えられたように見えるんだが」

 動揺する男達の中、一人落ち着いて疑問を投げかける男がいた。ルークだ。

(へぇ、若いのに落ち着いたもんだな)

 ユウはルークの態度に感心する。

(まあ、そうは言っても今のあなたとそんなに年齢変わらないじゃないですか)

 ルティシアはユウの内心の言葉に疑問を投げかける。

(いや、前世がおっさんだったことには変わりないんで……)

(三十代と十代なんて誤差じゃないですか?一万歳くらいは違わないとあんまり年齢の違いって感じが……)

(ここぞという時に長命主アピールみたいなのやめてくれます?こういうネタ二度目ですよ!?)

 ユウは思わずルティシアにツッコむが、そんな二人の会話を他所にアネッサとルークの会話が進んでいく。

「いや、私も粗方事態が片付いたところで現場に駆けつけてな……状況は正直人から聞いた範囲でしか把握していない。ただ、転移魔法で私が帝都にたどり着いたとき、巨大なドラゴンと謎の巨人が戦っていた」

「謎の巨人……?なんだよそりゃ」

 ルークは呆けた顔でアネッサに問う。

「全くの正体不明の巨人だ。行動の目的や出自、我々とコミュニケーションが取れるのかどうかも……何一つ判明していることは無い。分かっていることは、その巨人は圧倒的な戦闘力を持った異形のドラゴンすら倒したこと……そして、人間を守ったということだけだ」

「人間を守った?」

「ああ、その巨人はドラゴンのブレスからエミリアのいる修道院の人々守るために身を挺していた」

(……そんなとこまで見ていたのか……)

 ユウはアネッサが予想以上に前回の戦いの状況を把握していたことに驚く。

「つまりその巨人は味方だと?」

 ルークに問われ、アネッサは無言で首を振る。

「それも分からない。彼は正体不明にして神にも匹敵する超越した存在……ゆえに私は彼をこう呼ぶべきだと思う。ウルト……」

「ごばっふぁぁぁぁぁっ!?」

 言ってはいけない名前を言い出しそうになったアネッサに驚いたユウは、思わず飲んでいたジョッキの中身で盛大にむせてしまう。

(いやまさか……こういう方向から刺客がやってくるとは……。アネッサ……恐ろしい子……)

 一発目の盛大なむせの余韻で、いまだに小さく咳をしているユウをみながらルティシアはどこかズレた戦慄を覚える。

「ど、どうした、ユウ!?」

 突然のユウの盛大なリアクションにアネッサが動揺する。

「い、いや……ちょっと盛大にむせてしまいまして……」

「そ、そうか……。とりあえず今は大事な話中なので気を付けてくれ……」

「す、すみません……」

(誰のせいだと思ってんだ……!)

 周囲の視線とアネッサの言葉にいたたまれなさを感じつつ、ユウは謝罪をしながら内心で毒づく。

(いや、流石に今回は彼女はそこまで悪くないかと……)

 人間へのフォローに回ることになったルティシアに物珍しさを感じつつも、ユウは彼女の言葉に同意する。

(分かってますよ……ただ、絶妙に間が悪くて文句の一つも言いたくなるじゃないですか)

(それもまあ、分かるっちゃ分かるんですけどね……)

 そんなやり取りをするユウとルティシアの横で、アネッサは話を再開する。

「まあ、とりあえずだ。今回の騒動で帝都は人の移動に制限をかけている。よって隊商がこちらに来れる頻度は少なくなるから対応を考えた方が良い……ということが一つ。そしてもう一つは、今後何が起こるか分からないので備えをしておいて欲しいということだ」

 彼女の言葉を聞いたルークはため息を漏らす。

「敵も、そいつと敵対していると思しき奴も正体不明。正体不明なもんだらけ過ぎて、何をすればよいのか全然見当がつかないな」

 そんなルークを村長は宥める。

「まあ、敵がいつ襲ってくるかは分からん状態にまたなったというだけだ。戦いの備えは常にしておこうではないか」

 村長の言葉にルークは苦笑しながら自身の腰に下げた剣を軽く叩く。

「この村は戦いがあろうとなかろうと関係ないでしょ。戦士の誇りと技を受け継ぎ、そして繋げるために常に己を鍛え続ける者たちが集う地。ここにいる限りは常在戦場なんだから」

 ルークの言葉に村長は無言で頷く。

(ふぁー、かっこよ!)

 二人のやり取りに痺れたユウは感動の声を上げる。対照的にアネッサは苦笑を浮かべる。

「常在戦場なのは結構だが……明日は祭りなのだろう?」

 アネッサの言葉を聞き、そういや帰還祭がどうのと言っていたなとユウは思い出す。そんなユウの思索の横で、ルークが返答する。

「そうだな。それに、アネッサも祭りに参加するのは初めてか」

 その言葉にアネッサが頷くのを見て、ユウは軽く驚く。

「あれ、そうなんですか?事情知ってるっぽそうだったし、てっきり参加したことがあるのかと」

「いや、私がこの地で修行をしたのは丁度帰還祭が終わった直後でな。なので、話には聞いているが、帰還祭の内容は私も詳しくは知らないんだ」

「そうなんですか。ティキは近場に住んでたんだろ?見に来た事とかないのか?」

 ユウに問われてティキは首を左右に振る。そんな三人のやり取りにルークは悪戯っぽく笑う。

「お、なんだ。みんな帰還祭は初めてのなのか?それならきっと実物見たら驚くだろうな」

 そんなルークの反応に周囲にいた男達も笑って盛り上がり始める。

「ああ、こりゃ明日まで祭りの内容は秘密にしておいた方がよさそうだな」

 一体、驚くような慰霊の祭りとはどういうことなのだろうかとも思うが、彼らの様子を見るに答えてくれそうにはない。そんな男達を村長が宥める。

「これこれ。祭りの前でテンションが上がっているのは分かるが、せっかくのお客様を困らせてはならんぞ。それにお相手はバルト―将軍のご子息だ。何かあったら明日大変なことになるぞ」

 村長の言葉に男たちの顔色が変わる。

「バルトー将軍の……ご子息……?」

 村長は頷いてティキを見る。その瞬間周囲の男達の視線が一瞬でティキに集まる。その強い視線に気おされながら、ティキはおずおずと指で自身を指す。

「はい……自分です」

 それを聞いた男達は歓声を上げる。

「うおおおおおおお!なんてめぐりあわせだ!」

「明日は目にものを見せてやるぜ!」

 そんな男達のテンションにティキは驚き、全身をびくっと震わせて硬直する。アネッサはアネッサで、突如として爆上がりした男達のテンションに驚きつつ、村長に問う。

「気づいていたんですか、ティキのこと」

 村長はふぉふぉふぉと笑う。

「そりゃな。将軍とは昔からの付き合いだし、あの子のことは生まれたころから知っておるよ」

「なるほど」

 納得しつつ、周囲の様子を眺めてアネッサはため息を漏らす。どうやら男達は大分ヒートアップしているらしい。

「しかし、目にものを見せてやるとは……明日の祭りは慰霊のためのものではなかったのか?」

 アネッサは首を傾げ一人つぶやく。

(……ほんとそれなんだよなあ)

 その声を拾いながらユウは内心で同意する。

(ちなみに女神さまは祭の内容がどういうものかは知ってるんですよね?)

(はい。知ってますよ、調べましたから)

(じゃあ……)

 祭りの内容を聞こうとするユウをルティシアは制する。

(多分、事前知識無い状態で見た方が楽しいと思いますよ。まあなんというか、祭りの時も含めて常在戦場というのは嘘じゃないんだなという感じで)

(ええ……慰霊の祭じゃないんですか……?)

 ルティシアの反応にユウは困惑する。

(なんにせよ、今はティキ君が困惑してるみたいだし、周りの興奮もすごいみたいですし、一旦退散した方が良いんじゃないですかね。彼を連れて)

 ルティシアに言われてユウはティキの方を見る。確かに、興奮状態になっている男達に囲まれ、時には話しかけられて困惑しているようだ。

(それもそうですね)

 ユウは軽くため息を漏らすと、席を立った。

 

 

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