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45話 10年以上の片思い


「10年以上の片思いって……どういうことでしょうか?」



 私の質問に、マーガレット王女は目を泳がせて困っている。さっきまで歓喜の舞を踊っていた人物とはまるで別人だ。

 オロオロしていた王女は、覚悟を決めたのかグッと唇を噛んで話し始めた。



「その……昔会ってたでしょ? あなたたち」




 ん? 昔会ってた? 私と殿下が?




 思い当たることはないけれど、聞き返すことはせずに王女の話の続きを聞くことにした。



「セアラはなんとも思ってなかったかもしれないけど、ジョシュアはその頃からずっとセアラが好きだったのよ」


「……?」




 その頃からずっと?

 その頃って……いつのこと?

 私がジョシュア殿下とちゃんと会ったのは、女学園を卒業してからなのに。




 マーガレット王女はそんな私の戸惑いには気づいていないようで、顔の前でパンッと両手を合わせた。



「お願い! このこと私が話したって、ジョシュアには言わないで!!」


「え?」


「もし私が話したってバレたら、私……」



 青ざめていく王女の顔を見て、ジョシュア殿下に口止めされているのだとすぐにわかった。

 この怯えようからして、口止めというより脅されているのかもしれない。




 どうしよう。

 マーガレット様は、私とジョシュア殿下が昔から会っていたと思っているみたいだわ。

 これは否定していいのかしら……?




 そんなことを考えて迷っていると、王女が私を見て「あっ」と明るい声を出した。



「そのブローチ! それね。ジョシュアがあげたブローチって」


「…………え?」


「オリバーから聞いてた通りだわ。本当にセアラの瞳の色と一緒なのね。セアラがつけているのを見たことがなかったから、もう持ってないのかと思ってたわ」


「……このブローチ、ジョシュア殿下が……?」



 ボソッと呟いた私の言葉を聞いて、王女の目がパチッと丸く見開く。



「あら。知らなかったの? たしかに、手紙も何もつけなかったと聞いたけど……。でも、あの教会に置いてあったらジョシュアからだってわかったんじゃないの?」


「……そうです。いつも会っていた男の子からだと思って……」


「なんだ。知ってたんじゃない。そうよ。ジョシュアが初めて自分で買った──」


「マーガレット様ああああ!!」


「!!」



 そのとき、執務室の外から王女を呼ぶメイドたちの叫び声が聞こえた。

 どうやら王女を捜しているようで、何人ものメイドが声を上げている。



「……いけないわ。もう戻らなきゃ。ジョシュアが休んでるって聞いて、ついここに来ちゃったのよね」



 そういえば、今日は王女のお出かけがあるからとても忙しいとドロシーが言っていたな……と、ボーーッとする頭の片隅で思い出す。



「じゃあね! 書類の件、任せたわね!」


「……はい」



 嵐のように去っていくマーガレット王女を見送ったあと、私は執務室で立ち尽くしていた。

 頭の中がグルグルしていて、うまく考えがまとまらない。




 あの男の子が……私の初恋の男の子が……ジョシュア殿下だったの?




 フレッド王子に初めて会ったとき、王子は『王族の者は狙われやすいから、幼い頃から変装して出かける』と言っていた。

 あのときはフレッド王子が初恋の男の子なのかもと思っていたから、他の人にも当てはまるとは考えてもみなかった。




 ジョシュア殿下も、幼い頃に変装して出かけていたの……?

 あの黄金の瞳を隠すために……。




 あの男の子は変装したジョシュア殿下だった?

 殿下は、私があの女の子だと知っていた?

 今だけじゃなく、その頃から殿下は私のことを……?


 次から次へと浮かんでくる疑問。

 考えれば考えるほど、足の力が抜けていくようでまともに立っていられなくなる。


 私はフラフラ……と倒れそうになりながら、なんとか壁に手をついて自分の体を支えた。



「…………ふふっ」



 なぜ気づかなかったのか、なぜ殿下の言葉をずっと信じなかったのか、と自分を責める気持ちを抱えつつ私は吹き出した。




 私ったら。

 昨日、初恋といえど同じ人を好きになることはないのね……なんて思っておきながら、しっかり同じ人を好きになってるじゃない。




「……バカね。何も知らずに、同じ人に2回恋してしまうなんて」



 今朝は殿下にどう自分の気持ちを伝えればいいのかとグダグダ考えていたけれど、なんだかやけにスッキリした気がする。

 胸元で光るブローチを優しく包んで、キュッと握りしめる。




 これは、殿下が私のために買ってくれたものだったのね。

 だからさっきあんなに驚いた顔をしていたんだわ。




「……よし!!」



 私は自分の机の引き出しを開けて、ジョシュア殿下の妃候補関連の書類を取り出した。

 その中から自分の書類だけを引き出す。



「殿下、妃候補にこの方はどうですか? ……なんてね」



 ちゃんと言えるのか、今さら素直になれるのか、実はあまり自信がない。

 でも、すぐにでも殿下にこの気持ちを伝えたいと思っている自分がいる。



「がんばれ、私!」



 自分自身を応援して、私は小さく折り畳んだ書類を持って執務室を飛び出した。

 ジョシュア殿下に会って、この気持ちを伝えるために。

 

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