Ep.3-13 向かう場所は
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「うおー、いい天気だねー!!」
雲一つない文字通りの快晴と、遮るものが一切ない広々とした草原。
そんな自然に囲まれて澄んだ空気を吸い込み、手を突き出しそう高らかに叫んだ夏希を、クラスメイトたちが驚いた表情で見つめる。
中には、手に持っていたものを落としてしまう生徒もいたくらいだ。
「(……そりゃあ、そーなるよね……)」
だが、今は演習を行う林へと向かっている最中。
近隣の街を出て、もう三十分ほど歩いただろうか。刻一刻と、演習本番へと近づいている。
特にこういった学外での依頼の経験がない学生などは、めちゃくちゃ緊張してきていたはずだ。
そこへ来ての唐突な彼女の大声である。それはもう、びっくりしたことだろう。
……まあ、かく言う奏も、親友の突発的な行動に少しばかり心臓がばくばくしているのは内緒である。
「っあー、びっくりした。ちょっと夏希、急にどうしたのよ」
「あっははー、ごめんねエルリアちゃん! んでも、こんなにいい天気なんだもん、テンション上がっちゃうってー」
「ま、分からなくもないなー! お前らも気楽に行こうぜーっ」
夏希のすぐ近くでその声を聞いてしまったエルリアも、普段のクールな表情が崩れて苦笑いせざるを得ない。
一方それとは対照的な様子なのが、猪突猛進型の少年――大二郎だ。
彼は夏希の言葉に同意を示すと、周囲に呼びかけるように声を一つ張った。
「ふぅ……そうですね……」
「あっはっは、だねぇ~」
そんな彼らの緊張感のない会話のお陰だろうか。先程よりも少しばかり和やかな空気が辺りに漂うようになった、気がする。
発端であるところの親友が、果たして意図してやったのかどうかは定かではない。が、見てなさそうで周りをよく見ているあの少女だ。もしかしたら、こうなることも織り込み済みだったのかもしれない。
「(……それにしても、あっちは個性的だなぁ……)」
自らのグループ人員のことなど棚に上げて、奏はふとそんなことを思う。
演習を共に過ごすグループ決めをしたときには諸事情でいなかった夏希が組むことになったグループメンバーは、これまた何とも一癖ある人員ばかりだった。
「気楽にはいいけど、あんたは逆にも少し緊張感を持ってほしい所ね」
少年にそうツッコミを入れる、長い金の髪を持つ少女……茨木 エルリア。
「それが取り柄だしなー! エルリアはクールすぎんだよー」
それに対し朗らかに反論する、テンション高めでガタイのいい少年……轟 大二郎。
「ふふ、楽しみになってきましたね」
「……お前、いつも言ってるけどあんまりそんな怪しい顔すんなよ。マッドサイエンティストみてーだぞ」
そう怪しく笑う眼鏡をかけた小柄な少年……えっと……は、博士。そう、博士というあだ名の少年と、もう一人その少年にツッコミを入れる少年…………誰だっけ、思い出せないや……。
「さあさあ、テンション上げてこー!!」
そして、自分の親友にして自分と同等の実力を持っている少女……湊宮 夏希。
以上、この五人でできたグループだ。
あまりお互い絡んでいるのを見かけないような面々もいるが、快活で交友関係も広い夏希がいるのだ。
彼女が中心となり、皆をまとめていくことだろう。
奏がそんなことを考えていると、不意に後ろから
「む、向こうは賑やかですね」
と、声を掛けられる。
その言葉に振り向きつつ、今度は自分のグループの人員たちに順々に目をやってみる。
「夏希ちゃんは緊張って言葉を知らないんでしょうか……」
まずは、たった今声を掛けてきた人見知りな桃色の髪の少女……樹宮 桜花。
「なんのなんのー。こっちも負けず劣らず賑やかにしてやるっスよ~」
何を張り合っているのか、テンション高めに拳をぎゅっとかざす小柄な少女……宮本 唯依。
「はぁ、はぁ、ふぅ……」
「六花、大丈夫かい。やっぱり少し持とうか」
「!? だ、大丈夫だよ。自分の分くらいは自分で運ばないと。……いつもありがとね、悠史くん」
おるうぇいず甘々なラブコメ幼馴染コンビ……天嶋 六花と、聖 悠史。
「(……こっちも、他所のとこのことなんて言ってられないかぁ)」
そして、そう先ほどまで思っていたことを心中取り消す自分……無堂 奏。
こちらも、何ともまあ色々と個性的で面白そうなメンバーたち。
これから三日間彼らと共に過ごすことになるのだ。特に夏希と比べれば、自分はあまり人付き合いに積極的な方ではないが、そんなことは言っていられないだろう。
まあ、個性的だが悪い人たちではない。協力して、しっかりと演習の課題をクリアしたいものだ。
――個性的といえば、と、ふとここにはいない編入生の少年――流斗のことを思い出す。
彼は今頃、もう林の方にスタンバっているのだろうか
「(……王獣、かぁ……)」
奏がこれから向かう林の、そして、そこに住まうモノの正体を知ったのは、今から約二週間前、神託が為された次の日のお昼休みのことだった。
「――んあーっと、まずは質問に答えるが――」
夏希の質問に、流斗が少しの逡巡を見せてから言葉を紡ぎ始める。
「――イエス、だ。……つまり、お前さんらの行くことになる域、あの林は、『涙さえ乾かぬ森』と同じく、王獣の支配する正真正銘の神域だ」
「「「!?!?」」」
「っあー、やっぱりそっかあ……。人の言葉が分かる魔獣たちを統べる主、って言い方で、どーうにも怪しいと思ってたんだよねぇ」
驚愕を露わにする他の少女を尻目に、夏希が得心のいったという表情を見せる。
「あ、あの、すみません……。王獣っていうのは何なんですか? し、神獣なら、大神と並ぶ世界の支配者だというので、もちろん知っているんですけど……」
桜花が、馴染みのない王獣という言葉にそう疑問を呈す。
「……そう言えばそれ、まだ聞いてない……」
「そーだね。さあさあ、教えてもらおうかー」
そしてそれは、かつて『涙さえ乾かぬ森』で彼女たちが抱き、そしてまだ未解決のままだった疑問と同じものでもあった
「……んあー、一言で言っちまうならば、格、だな」
「――格、っスか?」
そうあっさり結論付けた言葉に、唯依がそう復唱する。抽象的な言葉に、小首をかしげざるを得ない。
一方、はっと何かに気づいた様子の夏希が、答えるように、
「んえーっと、つまりだよ? 多分だけど、神獣の方が……」
「そういうこった。――神獣と王獣。神格を持ち、神域を統べるという点では同一だが、違うのはその力の規模、ってー訳だ。まあ、無論例外もいるにはいるがなー」
天上の大神、地上の神獣。
それらの世界を統べる神々の下に位置する神々。それが、魔獣を統べるモノ、王獣である。
ただ、
「ただ、いずれもその力は人智を超えた強大なもんだ。湊宮、無堂。お前さんらはもう相対したろ? あの圧倒的な超常の存在と、な」
「っう、うん……。例えるなら、『伝説級』と『皇帝級』みたいな感じなのかな」
「……そう、だね。人智を超えた存在の中でも、更にランクがあるんだね」
「――んで、話を戻すけんども、あの林の王獣と学園長が知己、というのがそもそもこの演習の由来らしーぜ。いつもは王獣直々に会っとったらしーが、今回は何故か部下が出て来たもんで、俺に面倒な役割が回ってきたっちゅう訳さ」
当時の会話を思い出しながら、彼らをもう一度ざっと見て、奏は静かに独り言つ。
「……何事もなく、終わればいいけど……」
そう、どこか不穏な風を感じながら。




