Ep.3-12 拭いきれない違和感
お、遅れまして……<(_ _)>
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「そういえば、流斗さんの参加しない理由ってなんなんスか? 奏さんたちに聞いたら、やむを得ない事情だって言ってたんスけど」
相変わらずそこそこ混みあっている食堂にて、不意に唯依がそう話を振ってくる。
裏の事情を鑑みた流斗は、何か知っているのだろうか? と彼女の顔を見てみるが、その表情には他意があるようには見えない。
どうやら、ただただ純粋な興味のようである。
「(あー、どーすっかなァ)」
心中、それなりに真剣に悩む。
元々このこと――つまり流斗が、異常が起こりうるやもしれない彼の域にて、万が一に備えて見回りをすること――は、内密にすべきことのはずだった。
昨日に奏と桜花と、それからここにはいない夏希に詳細を告げたのは、彼女らに事実を知っておいてもらうことで、自分の不在に要らない詮索を起こさせないためであった。
だが、人の口には戸が立てられない。何やかんやと色んな人物に伝えていては、やがて不安要素があるという事が多くの生徒の知るところとなってしまうだろう。
そうすれば、この演習に向かう生徒たちのメンタルにも関わってくる。
そうなることは、避けなければならなかった。
「あー……今からする話は、内緒で頼むなー?」
……だが、なぜだろう。この生徒には、言っておいてもいい気がした。
仲良くなったばかりなのに、彼女ならいちいち周囲に言うことはないだろう、と根拠のない期待をしてしまっているからだろうか。
あるいは、自分で言うのも変な話だが、何だか飄々(ひょうひょう)としてて、どこか掴みどころがないというその纏っている空気が似ているからだろうか。
兎に角、どこか直感的に、この子ならいいか、と思ったのだ。
ま、まあ、これでもし仮に広まってしまったら、学園長に盛大に謝ることにしますかー……。
「……はえー、なるほど。そんじゃあ向こうのその林には、例年にはない何かしらの危険性がある、ってことっスかぁ。……随分と衝撃的な話っスね……」
全てを聞き終えた唯依が、そう尋ねてくる。
勿論、昨晩に降って湧いた神託による更なる危険の可能性については告げずに、昨日奏たちに教えた内容だけ、である。
「正しくは、危険性がある、可能性がある、だな。そこんとこは間違えんときなー」
「……もし危険なことがはっきりと分かっていたら、わざわざそこに突っ込ませるような暴挙はしないだろうしね」
「あ、なーるー」
奏の補足に、そう合点のいった表情を見せる。
その表情に、大きな変化はない。不安に駆られてあちらこちらで言いふらしてしまう、という風には恐らくならなそうだ。
そんな話をしつつ、流斗たちが食事を進めていると、
「やっほー!!」
不意に、周囲の喧騒に混じって、よく知った声が聞こえる。
しかも本来なら、ここで聞こえてくるはずのない声が、だ。
「……は?」
思わず、口から疑問符が漏れ出てしまう。が、それも無理もないだろう。
他の少女たちも、一様に呆けた表情をしている。どうやら、聞き間違いではないようだ。
「……えっと、どしたの?」
「どうした、とはひどい言いようではないかー! 奏ちゃん!」
そんなこちら側の心中などいざ知らず、ニコニコと近づいてきたその少女……夏希に、奏が口火を切って尋ねる。
まさしく皆の心中を代弁した言葉に、しかし夏希の反応は思いの外薄かった。
「えっと、だって、今日は欠席だって、橘先生が……」
「そーだぞ。体調不良はもう良くなったのか?」
「え? ……ああ! もうばっちぐーだよ!」
一瞬不自然に戸惑った表情を見せるも、笑顔でピースサインを返してくる。
明らかに怪しいのだが、追及してやるだけ野暮だろうか。
もし仮に体調不良が嘘だったとして、この子が仮病なんてするタイプにも見えないし、そもそも仮病だったら今ここに来ている理由がよく分からない。
体調不良だったことを忘れるくらい元気になった、というのならばなによりであるが……。
「…………」
それに、快復したらしい親友の様子を見たにも関わらず、奏の表情に未だ陰りが見て取れるのも気にかかる。
親友の体調とはまた違う、別の心配事でもあるというのだろうか。
「(いや? もしかしたら……)」
下手に演習を行う林のことを教えたのは失敗だったのかも、と流斗はふと思う。
自他ともに認める学年の主席たちだ。危険性があるかもしれない、と教えてしまったことで、その責任感からか、ともすれば演習のために色々と調べているのかもしれない。
「あれ、唯依っちが一緒とはめずらしーね。奏ちゃんと桜花っちと仲良くなったのー?」
そんな流斗の胸中をさておき、食事を共にしている珍しい――というか初めてである――面子に疑問を抱いたらしき夏希が、そう尋ねてくる。
「えっとですねぇ、実は、奏さんと桜花さんと演習のグループが一緒になったんスよ~。――まあ、もうわたしらはマブダチになったっスけどね!!」
唯依が代表してそう答える。
少々、いや、大分誇張が入っているような気もするが、なるほど、距離を詰めるのが早く、そして同時にそれが上手い少女である。
奏も桜花も、苦笑しつつそんな彼女を穏やかな目で見ている。
「おおー! じゃあ私ともマブダチだねー!」
そして返す夏希もまた、そう言って、いえーい、とハイタッチ。
この少女は交友関係がとても広いと聞いたことがあるが、なるほど、然もありなんと言った感じである。
……まあ、総じてマブダチの基準が低すぎるのではなかろうて、とひとつ派手にツッコミを入れたくもなるが……。
「私のグループも気になるとこだけど、それはあとで橘先生のとこに行こ―っと。――それはさておき、実は昨日のキミの言葉を考えてたんだけどさ」
「……んお? わりぃ、聞いてなかった」
不意に夏希が話題を大幅に転換させ、流斗に話を振ってくる。
取るに足らない思考の海に潜っていた流斗は、それを聞き逃してしまった。
「昨日のキミの話だよー! 向こうの林がもしかしたら危ないかも…………って、ごめん、もしかしてこれ言っちゃダメだった?」
夏希が不意に唯依の方を見て、そんなことを言う。
そんな夏希の様子に、彼女の考えていることを察したらしき唯依が、
「ああ、大丈夫っスよ~。わたしもさっき、流斗さんから聞きましたからー」
「そかそか。よかった。それでさ、キミは確か、学園長が演習の話をする為に旧友たるその林の主に会いに行ったけど、会えなかった、って言ってたよね」
「ああ、そーだな」
唯依も事情を知っていることを告げられ、安心したらしい夏希が再び話の勢いを取り戻す。
彼女の意図が読めないが、一先ず肯定の意思を返す。
「その主……いや、その王ってさ……もしかして、王獣?」
「!?」
彼女の言葉に、奏が驚いた表情を見せるその一方で、桜花は、
「お、おう、じゅう?」
と。
まあ、当然である。神獣という言葉は知っていても、過去の生活で神域に関わったことのない限り王獣という言葉に聞き馴染みがあるはずがないのだから。
「つまりだよ、これから私たちが行く林ってのは、神域、ってことで、いいんだよね?」
重ねて、夏希が核心を告げてくる。
……さて、どう答えればいいものだろうか……。
「――んあーっと、まずは質問に答えるが――」
イベント事が迫ってくると不思議なもので、あっという間に時間が過ぎていく。
幾ばくかの不安要素をはらみつつも、第二学年全員での大規模演習の日を、迎えた。




