Ep.3-10 グループ決め
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学園長室での話し合いを終えた流斗が教室へと入ると、クラスメイトがちらほらと集まっている頃だった。
「おっ、おいっすー!」
「おはようございます。牙頼さん」
彼を見つけたクラスメイトたちから、次々声が掛けられる。
編入して二週間と少し。段々とくだらぬ雑談も交わすようになってきた彼らに対し流斗も、ういーっ、と、適当な挨拶を交わしつつ自分の席へと向かう。
「(……んお?)」
ふと、奏が一人きりで座っているのが目に入った。
周囲の喧騒を一切気に掛けることもなく、自分の席で一人静かに本を読んでいる。
「…………」
しかも、何か心配事でもあるのだろうか、その表情には少しばかり陰りが見える。
普段から大人しめで表情もあまり変わらないのだが、その分その陰りが珍しく、付き合いの浅い流斗でも気づくことができた。
「(ふむん? 何だかいろいろとめっずらしいなー、おい)」
そんな様子を見た流斗は、そう心中で独り言つ。
大人しめで物静かな彼女。もちろん、別にクラスで浮いているという訳ではなく、むしろ尊敬されているような節があちこちで見受けられているのだが、それでも快活な夏希と比較するとあまりクラスメイトと積極的にしゃべらないイメージがある。
そして、大抵というか殆どいつも、夏希と一緒にいる印象があった。
彼女に対しては、同じく非常に高い実力を持つからか、お互い親友と言って差し支えない関係性のようであった。
そのため、一人でいるのが殊更に珍しく思えたのだ。
「おいっす、無堂ー。湊宮はどーした?」
という訳で、挨拶がてらに尋ねてみる。
ちょいとばかり暗い表情してるけど、お前さんの相方はどこ行ったんだい、と。
「……はよ。夏希は、体調不良、だって」
それはまた、珍しいこともあるもんだ、と流斗はまた少し驚く。
彼女たちと知り合ってまだ一ヵ月にも満たないが、それでもあの元気いっぱいな少女が体調不良になる姿は容易には想像つかなかった。
なるほど、奏が少し陰のある表情をしていたのも頷ける。
「あらら、そーかい。……だからお前さんは少しばっかり暗いのな」
「…………ん。そんなとこ、かな」
奏とのそんな雑談を終え、流斗は自分の席へと突っ伏す。
朝一で呼び出しを喰らったため、朝に弱い流斗は一限の始まる前に既に眠気に襲われていた。
「――やっぱりさあ、王様が不在だっていう、あの――」
「――かなあ。必ず当たるっていうんだもん、怖いよねー――」
緩やかな眠気の中にいる流斗の耳に、そんな会話が聞こえてくる。
昨日の夜にこの国の国民も知るところとなった神託はやはり、クラスにおける喧騒の中心的な話題となっていた。
「(……王無き玉座、か……)」
その抽象的な言葉に、流斗も思考を巡らせる。
――王無き玉座に、鉄槌は下る
普通に考えれば、その域を統べる王が何らかの事情で不在である、どこかしらの国や地域が滅ぶという予言のように思える。
「(いやあ、どうにもやーな予感がすんねぇ)」
根拠は、ない。
だが流斗には、この神託がそれほど安直なものにはとても思えなかった。
「(世話になったからと頼みを受けたが……さてさて、どーなるか……)」
得体の知れない心のざわめきを感じつつ、流斗は抗えない眠りに落ちていくのだった。
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「それじゃあみなさん、今日の一限はロングホームルームでーす! 再来週の大規模演習に向けてのグループ分けは決まりましたかー?」
教卓の前でにこやかな表情を浮かべ、相変わらず自分たちより少し上にしか見えない教諭……橘先生がそう呼び掛ける。
「先生! その話されてから昨日の今日なので、まだっす!」
と、クラス一どころか学年一を争うおバカこと大二郎が、バッと手を挙げる。
だが、大規模演習に関する正式なアナウンスは昨日が初めてだったので、それも止む無しだろう。
学校行事とは言え、学年総出で遠出する大きなイベント事だ。色々と組み合わせて盛り上がってしまい、グループ分けも固まらなかったのだ。
しかも、件の少年は参加しないとか、迷子の少女がいたとか、神託が為されたとか、昨日一日だけで色々とあったのだ。
正直なところ、グループ分けのことなど、奏だって忘れてしまっていた。
「そうだよぉ~。組もうよ~みたいな話はしたけどぉ~」
そう大二郎に続いて喋り始めた少女は、昨日の迷子の一件で、先に女の子と一緒にいた少女たちのうちの一人だ。
そのダルそうな口調と、濃い化粧にラフな服装というギャル然とした見た目ではあるが、それでもこの学園に通う生徒。彼女もまた、優秀な実力を有していた。
そんな風に、生徒たちから相次いで発せられてしまった否定の言葉。
だが、橘先生は自分の発言が性急であることは承知していたようで、彼女らの発言をニコニコと聞き流しつつ、
「でしょうねー。……と、いうことで、今からのこの授業のうちで、できれば確定までさせて下さーい。――あ、それから、今日欠席の湊宮さんについては、四人のグループに入ってもらいまーす。もちろん、本人の了解は得ていますのでー」
と、そう告げる。
どうやら、その話のための前振りであったらしい。
「(……なるへそ)」
どうやら、夏希にも話は行っているようだ、と奏は一人納得する。
実は今朝方、奏は当の橘先生に呼び出されて、
「湊宮さんと無堂さんは、バランスの調整という意味で、別のグループになってくれますかー?」
と、そうお願いされていたのだ。
身びいきを差し引いても、その発言に異論はなかった奏は、このロングホームルームで一からメンバーを探す必要があった。
先生の発言に、そういうことなら、と、各々グループ決めを始めたクラスメイトを見つつ、さて、自分は誰と組もうかな、と考えていると、
「あ、あの、奏ちゃん! 私とく、組みませんか……」
ふと、そんなオドオドとした声が掛けられる。
段々と尻すぼみになっていくその言葉に、思わず微笑ましい気持ちになった奏は、声の主……桜花の方を振り向くと、
「……もちろん、いいよん。よろしくね、桜花」
と、そう告げる。奏にはこの誘いを断る道理はなかった。
まして、夏希を除けば昨年恐らく一番多く一緒にいた少女だ。奏としても、願ったり叶ったりである。
「無堂さん。樹宮さん。僕たちもいいかな?」
「一緒に行っても、いい……?」
そんなやり取りをしていた奏たちに、また更に声が掛けられる。
そこにいたのは、聖 悠史という少年と天嶋 六花という少女。
通称、“勇者くん”と“お姫様”と呼ばれている、ラブコメ幼馴染コンビだった。
「……もち。宜しくねん」
「よ、よろしくです!」
「おっおー。じゃあわたしも混ぜてもらっていいっスか~?」
更に追い打ちをかけるかのように、不意に後ろから軽快な口調が響き、奏も、桜花も、それから幼馴染コンビもバッと振り向く。
制服の下からパーカーのフードを出し、ふっふっふー、と、薄い胸を張っていたのは、一人の少女。
先ほど声をあげた女子生徒と同じく、昨日迷子の少女と共にいた少女だった。その独特な口調では、しかし非常に気さくさを感じさせる。
「もちのろん、おっけーだけど……いつも一緒にいるあの子たちはいいの?」
「え? ああ、いいっスいいっス。わたしは好きなように生きる気ままな風って奴っスから~」
……全くよく分からないが、問題ないらしい。
このフリーダムで掴みどころのない感じ。あの編入生の少年とも何とも気が合いそうである。
こうして、大規模演習で行動を共にするグループが無事に決まったのだった。




