Ep.3-3 異変の可能性
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「(ちょおっとー!! どーゆうことさー!!)」
橘先生からぶち込まれた爆弾に、夏希は心中で叫び声を上げる。
件の少年の顔を見てやりたい気持ちだったが、残念ながら彼女の席からではよく見えなかった。
「はいはーい。お静かにー。さて、次に――」
先生が何か違う話を始めたが、夏希の耳には入ってこない。
それほど、もたらされた情報は夏希にとっては衝撃的であった。
「(……なんだい、もう)」
収まりのつかない感情に、そう思わず心中愚痴を垂れてしまう。
先週の模擬戦で、彼は再びその実力の一端を自分たちに見せつけた。
共に依頼に行ったあの時に見せた知識と治癒魔術だけでなく、高い戦闘能力をも持っていることを彼女らに知らしめた。
同時にそれは、自分たちに興味と、そして一抹の希望を抱かせるものだった。
だから昨日の依頼も、それからこの大規模演習も、彼と一緒に行動することで、もっともっと彼のことを知れればいいなと、そう思っていた。のに、
「(結局、両方ダメになっちゃったじゃん……! こうなったらせめて、後で問い詰めて…………んお?)」
そんな夏希の携帯に、チャットの通知が入ったことを知らせる振動が鳴る。
そこに書いてあったのは……。
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そんな思わぬひと騒動のあった朝とは打って変わり、何事もなく午前の授業が終わって、お昼時。
まーた騒動の中心となってしまった少年――流斗は、学園内のとある場所に佇み、無駄に晴れた空を眺めつつ人を待っていた。
強い風に小さな雲が次々流れている大空のその様は、暫し暇な流斗の心情を少しだけ慰める。
「(まーったく。あーの先生、あれじゃ言葉足らずだよなァ)」
手持ち無沙汰な少年は、朝の出来事を思い出しそう少しだけ胸の内でささいな不満を零してしまう。
つい昨日、少女たちとの依頼の約束を蹴って訪れた学園長のお呼出し。そうしてまた少し厄介な面倒事を背負うことになってしまった。
まあ実のところ、それ自体は流斗は吝かではなかった。編入の段階でこの人には面倒をかけただろうし、その恩返しとしては悪くないだろう。
そもそもこの編入を受けたこともそうなのだが、少年はこう見えてめちゃめちゃ義理堅いのだ。
だが、面倒を避けるためにウチの担任の方からクラスへ説明してくれる、という学園長からの話とは裏腹に、あれじゃあ余計に面倒が増してしまったぜ……、と少しばかりの不満が漏れ出るのも無理はないだろう。
どちらかの認識ミスだったのか、どこかで齟齬があったのか。いずれにせよ、起きてしまったことは仕方がない、と、こうして火消しのために今ここにいる訳である。
そうこう考えているうちに、
「あ、いたいた!!」
「……お待た。さあ、聞かせてもらおっか」
と、流斗に声が掛けられる。
そこには、彼ともっとも行動を共にしているクラスメイトである奏と夏希。
……それから、何故か、
「あのあの、お、お待たせ、しました……うぅ……」
強くなってきた風に薄桃色の髪をなびかせた、人見知りだというクラスメイト――桜花がいたのだった。
「おーし、取り敢えず席に着こうぜ。ここなら誰にも聞かれねーだろーしな」
呼び出した人物が全員揃ったので、取り敢えずそう場を促す。
「あー、なる。それでわざわざここに来るように言ってきたのね」
「ざっつらいと、ってな」
少年が待ち合わせ場所に指定したのは、ちょうど二週間ほど前に彼女らと数奇な邂逅を果たした、あのムキムキ……じゃなかった、MUKIMUKI店主のお店であった。
学園内でも人通りの少ない道に佇んでいるだけあって、お昼時でもお客の姿は見受けられない。せっかく出す料理は絶品なのに、何とももったいないことである。
この学園内部は一般の人も散策できるため、人気のケーキ屋さんなどはいつでも空席がないほど盛況していたりするのだが、この店は経営とかは大丈夫なのだろうか。
「「「……………………」」」
店に入り一通り注文し終えると、何故か空気が少しばかり重くなる。口火を切るのは誰なのか、まだ知り合ってそう久しくない彼らは微妙な空気感のまま暫し互いを見合う。
そんな空気に耐えられなくなったらしき人見知りの少女……桜花が、身体を縮こませながら、
「な、何で私が…………うぅ……」
と思わず漏らしてしまう。
「そう言うなって。えーと、樹宮だったな? お前さんには、ちょいと証人になってもらいたくてなー」
「あはは、桜花っちはあんまり気負わなくても大丈夫だよー。ここ、美味しいから楽しみにしててね! ――さて、じゃあ本題に入ろっか。あのタイミングでわざわざチャットしてきたってことは、朝の件、教えてくれるんだよね?」
そう夏希が言外に、とっとと吐け、と流斗を急かす。元々快活でアグレッシブな子であるが、それにしても今日はどこか凄味があるのは気のせいだろうか……。
ま、とは言えしゃーないかー、と、一つ小さく息を吐いて言葉を紡ぐ。
「ああ。――あの陽野って先生が言ってた通り、今回の大規模演習とやら……俺は参加しない」
「!? ……理由を、聞いてもいい?」
改めて驚いた表情を見せた奏が、至極真っ当な疑問を投げかけてくる。
「構わねーぜ。……どうやら、大規模演習で行くことになる林に、ちょいとばかり問題が発生しているらしいんだ」
「え、えと、問題、ですか……?」
少し慣れたのか、桜花も会話に参戦してくる。
「そそ。今朝の説明で、あの林に魔獣が住んでいるって話は覚えてるか?」
「もち! 何か、この演習の協力者でもあって、死なない程度に襲ってくるとかなんとか」
「……本当に、そんなことがあるの? 魔獣っていったら、この前のあの猪みたいなのがつい浮かんじゃうんだけど」
奏の疑問は、この前大二郎が言っていたことでもあった。
いや、魔獣と言うものを、征伐者に討伐を依頼される、人間にとっての害獣としての側面しか知らない人々からすれば、当然の疑問であろう。
「あー、そらしゃーないわなー。――んでも、お前さんらももう会ったろ? 人語を解し、友好的に接する魔獣って奴をさ」
「――あの、狼だね。キミが治してあげた、涙狼王の子供」
だがこの道は、奏と夏希は一度既に通っていたものであった。
それは、『涙さえ乾かぬ森』で洞窟の中で迷子の子どもたちと共にいた二匹の狼。自分たちの言葉を正しく理解し、そして一日行動を共にして仲良くなった、正真正銘の魔獣。
加えて、森の中で出会った子連れの猪の魔獣。あの猪も、夏希たちを目にしても襲ってくることなく素通りしていた。
「そーいうことさー。あいつらは人語を喋ることはなかったが、それでも俺たちの言葉を解していたよな? これから行く林にいる魔獣も同じように、それだけの知能を有し、そういう風に協力してくれるらしいぜ」
「ふーん。――それで、それが流斗くんの不参加と、どう関係してくるの?」
夏希が、相変わらずグイグイと聞いてくる。
「普通いくら人語を解してるっつったって、自然に生きるはずの獣たちが頼まれて易々と協力なんてしないはずだけどなー。そこにいる魔獣がそこまで協力してくれる理由としちゃ、学園長のばあさんがその親玉と縁故らしいんだ」
「えと、学園長が、ですか?」
「(ん? ちょい待ってよ……。親玉、つまり、林の主と学園長が縁故? そして部下が、人語を解す魔獣たち? それって、もしかして……?)」
流斗の言葉に、夏希の心中にとある疑念が浮かんでいた。
それは、偶然だった。が、一度疑ってしまえばもうそうとしか思えなくなっていた。
流斗は、当然そんな夏希の疑念など知る由も無く、話を続ける。
「聞いた話だとなー。それで、毎年この話をしにその林に行ってるらしいんだが、どうにも林の様子がおかしかったらしい」
「……おかしい?」
「おまたせいたしましたー」
そのタイミングで頼んでいた料理が運ばれて来たので、緊張した空気が緩む。
その様子を察した流斗は少しばかりの笑みを浮かべて、
「っとと、続きはあとだ。まずは、腹ごしらえしとこうぜ」
と、ひとまず場を締めるのだった。
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