Ep.2-14 主席たる少女たち
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六人で依頼、ねぇ……。
奏のそんなお誘いに、流斗は少しばかり返事を保留して考え込んでいた。
アリシアたちということは、まず間違いなく彼女とミーナと、それから自分がいまだ出会っていない残り二人の一年生のことだろう。
流斗も誘われたが、男子一人ということで遠慮しておいたチャットのグループで、依頼を一緒にすることにでも話が進んだのだろう。確かこの前食堂で初めてアリシアと会ったときも、誰かが依頼に行こうと言っていた記憶がある。
「そーさなァ、男一人はちょっとばかし気まずいんよなー」
依頼とやらに行くこと自体は、流斗は吝かではない。彼女らも別に、自分への嫌がらせのために誘ってくれている訳でもないだろうし、幾ばくか単位の代わりにもなって、しかも報酬も貰えるというのだ。むしろ願ったり叶ったりである。
だが、そもそもグループへの参加を断ったのも男女の人数比が理由だ。
男なら無上の喜びだって? いやいや、どう見ても明らかに浮いてますやん……。
そういう訳で、流斗はその誘いに対しすぐに返事をすることはできなかったのだ。
「湊宮さーん! とペアの人―! 次、下に降りてきてくださーい!」
ふと、下方から奏たちを呼ぶ声がする。考え事をしているうちに次の試合も終わったようで、次はどうやら彼女たちらしい。
「おっとっと。ほんじゃあ、適当に考えといて―」
「……期待してる、ね」
そう言い残して、夏希と奏が降りていく。
あいよー、と適当に返事をしつつ、しかし流斗の意識は既に完全に彼女らの模擬戦の方へと向いていた。
「(――さて、いよいよ来たな。とりわけ優秀なお二人さんの模擬戦、か)」
既に半分以上の組を見てきて分かっていた通りだが、模擬戦はあくまで模擬戦である。
魔術を強化する人智から外れた武器『神器』を顕現させることもない。遮蔽物のないある程度広い空間で動き回りながら、魔術をぶつけ合う程度のものである。
それでも、この学年の、いや、ともすればこの世代の双璧と言っても過言ではないかもしれない二人の登場に、明らかに空気が変わった。観客席で各自好き勝手に座って観戦していた他のクラスメイトたちも、ひと際試合に集中したのが分かる。
流斗としても、彼女たちの戦いは殊更に楽しみにしていたものであった。
「(俺の意義って話で言っても、あの子たちは一番の候補だぜなー)」
彼女らのうち奏の戦闘は一度見たが、あれは彼女の実力の底ではなかった。
今回も模擬戦のためお互い本気ではないが、同じ程度の実力らしい彼女たち二人が戦うことで、実力の一端が前回よりももう少しは見ることができるだろう、と期待していた。
「それじゃあ、始めて下さーい!」
橘先生の合図が、締まった空気となった演習室へと響き渡った。
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「おーっし、いくよー奏ちゃん!」
開始の合図と同時。夏希は両の拳に炎を纏わせて、距離を詰めるべく奏の方へと走り出す。
お互いの得意な魔術を考えれば、先の悠史と六花――勇者くんとお姫さま、と言った方が分かりやすいか――の戦闘と同じような展開になるだろう。それは、彼女の魔術を熟知していることから容易に想定が出来ることであった。
という訳で、夏希はまずは自分から一気に突っ込もうと画策したのだが、しかし、
「(――っ! っとと、まあそううまくはいかないよネー)」
小さくも数を束ねて弾幕を張った奏の風弾に、後退し距離を取ることを余儀なくされる。
お互いの魔術を熟知している、と言ったが、それは奏も同じ。遠距離を得意とする彼女が、近距離の方を好む自分を近づけさせまいとするのは、至極当然のことであった。
「(さて、と。そんじゃあこんな感じでってのは、いけそうかな?)」
奏の様子を見つつ、ざっと頭でプランを立てる。
近距離と遠距離という差に加え、お互いの性格まで考慮に入れると、恐らく自分が積極的に突っ込もうとするのを奏が対処しようとする展開になる。
それを想定されていることを承知の上で、夏希は自分から動くことを決めた。
「んー、っしょっと!」
まずは先の奏の攻撃と同じような、そう大きくはないが数の多い炎弾を彼女に向けて放つ。
遠距離と近距離とは言っても、それはあくまで神器の形状などまで鑑みた、どちらかと言えば得意な方というだけの話。夏希は遠距離の、逆に奏は近距離の、それぞれ攻撃手段をしっかりと所持しているのだ。
「……何の、これしき」
夏希の放った炎弾に対し、奏は同じような弾幕ではなく一つ巨大な風の塊を以てして防御しようとする。範囲は広いが一つ一つは威力の高くない夏希の攻撃を、強固な壁で確実に防ごうとしているのだろう。
「(よっし! 思った通り!)」
その様子を確認すると同時、夏希は一気に走り出す。その眼前では、奏の放った風の塊にぶつかった炎弾が散り散りになり、彼女たちの視界を一気に狭める。
夏希の炎弾の本当の目的は、攻撃どころか牽制ですらなかった。
無意味にも思えるほど、さりとて不審には思われない程度に広範囲に散りばめた炎弾を同じタイミングでまとめて防いでもらうことで、奏の視界を塞ぐのが本意であった。
奏が取捨選択をすることなく全てを防ぐことを選んだので、夏希はその視界が悪い内に距離を詰めようと一気に肉薄する。
その両の拳には再び炎を纏わせている。視界不良は夏希も同じだが、端から想定していたため奏のおおよその位置は把握していた。
そして、
「……思ったとおり、だね」
「たはは……ま、流石に奏ちゃんには読まれるかー」
炎弾と風塊がなくなり、もとの視界を取り戻した闘技場。
そこでは二人の少女が、お互いに相手の眼前で手を向け合っていた。
夏希のシンプルかつ大胆なこの作戦。奏は可能性の一つとして考慮に入れていたようで、見事に対応して見せた。
仮にこの距離でお互いに魔術を放てば、二人とも躱す余地はない。紛うことなき、相打ちであった。
「――はーい。お疲れさまでしたー!」
先生の合図を以て、演習室中に張り詰めていた緊張が緩む。
時間にして数分。実際に打ち合ったのは僅か数手であったため、彼女たちの実力を十全に知れた訳ではない。
まずはこんなものかー、というような空気が演習室内に漂っていた。
彼らとて、難関試験を潜り抜けてこの王立高に通うこととなった優秀な生徒。その中でも入学以来ずっと先頭をひた走っている少女たちにだって、負けるつもりは更々ないのである。
こうして、夏希と奏の模擬戦は、引き分けという結果。そして、本当の実力への想像の余地を残して幕を閉じた。
一方観客席から一人この戦いを見ていた流斗は、戦闘が終わったところで一つ息をつく。
「(うーん……あんま分かんねえなー。あー、何かはっずかしーわぁ)」
そう。正直なところあの短い攻防だけでは、彼女らの実力の一端も分かってはいなかった。
いや、流石に一端程度は知ることはできたが、それでも先の魔獣討伐以上の知識を得ることはできていなかった。
意気揚々と、こいつらの実力を確かめたるぜ! とか思っていた自分が恥ずかしくなり、流斗は暫し身もだえする。
よく考えりゃあ、確かに模擬戦じゃ実戦以上の経験は得られないですわね……。
付け加えるならば別に自分は例えば王国軍総隊長のように戦闘のプロとかそういう訳ではないので、さもありなんと言ったところだろうて。
「(ま、いい空気感であることは確かだなーっと)」
しかしそれとは別に、試合後の周囲の雰囲気には感心を覚えていた。
世間的には恐らく超がつくほど優秀であると思われているであろう彼ら。それでも驕ったり満足したりすることなく、追うべき背中までの距離を見透かさんとしている。
そしてその空気感はますます、
「(ますます、俺の意義にゃあ好都合って訳だ)」
自らがこの学園でしようとしていること。それに沿うことを知り、暫し笑みを浮かべる。
このクラスだけということもないだろう。四クラスが三学年ということは、まだまだおもしれーのが転がっていそうである。
「(あ、それはさておきそろそろ相手決めとかんとやべーな)」
ふと、大事なことを忘れていたことに気づき、流斗はそちらに思考を向ける。
依頼の話……はひとまず後だ。彼女らの戦闘が終わったということは、自分の出番が更に近づいたことを意味している。
やっほー、と手を振りつつ戻って来た彼女たちを見つつ、流斗は対戦相手を誰にしようか考え込むのだった。
今年のご愛顧に感謝しつつ、来年もよろしくお願い致します。
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