↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神に牙むく無双の咎人 ~時代に抗う、次代の寵児たち~  作者: 銀風 朧月
第2章 次代の雛は開闢を知らず
32/117

Ep.2-13 勇者くんとお姫さま

 **********



「さて、いーよいよ来ちまったなァ。あー。空がきれいだー」


「ほらほら、立ち止まってないで早く行く行くー!」


「……ここじゃ空は見えない、よ。進んで進んで」


 演習室の入口にて黄昏ている流斗の背中を、夏希と奏が急かすように押す。

 彼女たちがウキウキしているのは、流斗の気のせいではないだろう。


「楽しみだね、模擬戦!! みんなの能力が見れるし!」


「……うん。キミも含めて、ね」


 そう、今日は彼らの担任である橘先生が担当する実技授業“魔術演習Ⅱ”の第二週目。初回は彼の登場によって早々に中断した授業の、実質的な一回目であった。


 楽しみと言いつつやっぱり直前になって面倒くささが湧いてきた流斗に対し、夏希も、それからどちらかと言えばおとなしめな方の奏も、いつもよりテンションが高めのようだ。

 みんなの、というのも事実だろうが、どー見ても俺の模擬戦への期待が一番大きいだろ、こ奴ら……、と思う。

 うっしっし、とでも効果音がつきそうな表情で笑っている夏希を見て、一つため息をつく。


「そーですかい……。ま、期待を裏切らんように頑張りまっせ」


 そう答えつつ、コロシアム状の教室の周囲を取り囲む観客席へ移動する。

 すると打ち合わせるでもなく、彼の両隣に少女たちが陣取る。深い意図はないだろうが、何だか絶対に逃がすまい、としているようで居心地がすこぶる微妙である。


「名前とか、私たちが知ってることは色々と教えてあげるからね、まあ隣に二人、解説を(はべ)らせてると思えばいいよー!」


「うおい、侍らせるって言い方よ」


 思わずツッコミを入れる。それを見た奏はくすくすと笑っている。


「ったく……。この前は確か三組しかやらなかったから、順当にいけば残り七組くらいか?」


 正確な人数は知らないが、確かクラスの人数は二十余人だと聞いた記憶があった。それが四クラスあるとも言ってた気がする。

 適当に組ませた二人一組で魔術を打ち合う形式で行われているこの戦闘は、担任である橘が生徒の魔術や戦闘能力を知るために、まず授業の初めに一通り全員にやらせているらしい。

 それを鑑みると、もし仮に夏希たちに模擬戦をお願いされていなかったとしても、授業の一環として橘にやるよう指示されていただろう。

 つまり、逃れられない運命だったということだ。ジーザス。


「うん、そだね。あと、こういう形では戦えない子もいるから、実質六組くらいかな」


「そかそか、なーるー」


 そうこうしているうちに、今日の一組目らしい男女二人と橘先生が部屋の中央に佇んでいた。

 前回から数えるとこれで四組目であるから、自分の出番は思いの外近そうである。


「えーっとー、お、一組目から面白げな組み合わせじゃんね」


 夏希がそう漏らす。

 その男女のことは、流斗はおぼろげに覚えていた。

 歓迎会で聞いた話から、二人をセットにして覚えていた気がするんだが、なんだっけか。


「んあーっと、確かあの二人、幼馴染だってのは覚えてんなー」


「おっ、やるぅ」


 恐らくで言った答えに、夏希が肯定の意を示してくる。

 そうだ、テンプレ好きの彼女には垂涎モノの生まれだった気がする。


「……左の男の子がね、(ひじり) 悠史(ゆうし)。通称、“勇者くん”。右の女の子が、天嶋(あましま) 六花(りっか)。通称、“お姫さま”」


 奏が補足するように彼らの名前を教えてくれる。

 そう言えば歓迎会で、このクラス、集まってまだ一週間のはずなのにもうあだ名が浸透してる奴が何人もいんのなー、と、そんなことを思った記憶がある。

 確か、博士、とかいう子もいたっけ。テンプレ好きの夏希が、この珍しくあまり好きくないというありがちな設定について派手に語っていたのを思い出し、少し苦笑しながら言葉を紡ぐ。


「あー。そんなんだった気ぃすらァ……。って、モノホンのお姫様がいんのにそのあだ名はいいのか?」


「ははは……。ま、まあ、学年も違うし、むしろ勇者くんに(かこつ)けてつけられただけのあだ名だし」


「そ、そーいうもんか??」


 そんな話をしているうちに、試合が始まるようだ。

 その二人……悠史と六花が十メートルほど離れて対面に向かい合い、腰を低くするようにして構える。


「では、始めてくださーい!」


「いくよ、六花!」


「――っ!?」


 橘先生の掛け声で試合が始まった。と同時、悠史が輝く光を細長い形状へと変化させ、六花へと距離を詰めるべく走り出す。

 相対する六花は開始と同時に為された悠史の攻勢に素早く反応し、反対に火球を放ちながら距離を取ろうとする。


「悠史くんの魔術は光。名字は“聖”、名前は“ゆうし”。おまけに神器は長剣っていう、まさに物語の勇者を体現したような主人公だヨー」


「……名前だけは物語っぽくないけど、代わりに勇者要素をこれでもかって詰め込んだ感じ、だよね」


 二人の戦闘を眺めながら、解説の少女たちがいろいろと教えてくれる。

 聞くと、どうやら夏希はかなり交友関係が広いらしく、一年生のころから他クラスの生徒とも積極的に絡んでいたらしい。

 おかげで二年生に上がる際にクラス替えがあっても、話したことのある人が多数を占めており、結果既にクラスメイトの情報に精通しているという訳のようである。


「ほーん。それで幼馴染のあの子はそれに合わせて“お姫さま”なのな」


「……そそ。それで面白い……じゃなかった、これまたありがちなことに、お姫さまは勇者くんに惚れてる」


 聞きました奥さん? 今この子、面白いっていいましてよ?


 一番最初に知り合った二人の片割れ。流斗は奏のことを、会話にワンテンポおく、何ともマイペースな小動物のような子だと思っていたが、時折見せるその姿は人懐っこさを感じさせる。

 しかし、この一週間、歓迎会の時に紹介された少女……桜花と時折話す以外には、殆ど夏希とばかり話している。そんな姿をそばで見ていたので、流斗は言葉にできないギャップを感じていた。


「それもねぇ、(はた)から見てもすぐに気づくくらいベッタベタに惚れてて、何でも小さい頃に結婚の約束までしたらしいんだよね。……のに、」


「のに?」


 夏希が話を続け出したので、意識をそちらに向け直す。

 幼馴染の少女がベッタベタに惚れてるベッタベタな展開らしいが、どうやら何か問題があるらしい。


 奏が、夏希の後を継いでその答えを教えてくれる。


「……勇者くんは、そのことに全く気付いてない、みたい。結婚のことも、そんなことあったっけーって……」


「……あー……」


 言葉もない。なんせ、ツッコミどころが多すぎる。

 ただでさえ設定上乗せマシマシなのに、勇者くんなるその少年は超鈍感でガサツらしい。見てる分には確かに面白そうだが、当事者たるお姫さまからしてみればもどかしいだろうて。


 そんな会話をしているうちに、弾幕をかいくぐり少女に魔術を突き付けた少年の勝利で模擬戦が終わる。

 へたり込んだ少女に対し少年が何事か話しかけて手を伸ばすと、少女は遠めでも分かるくらい顔を赤くしてうつむいてしまう。

 それを少年が強引に起こそうとし、体勢を崩して少女の上にスッテンコロリン。少女の顔は更に真っ赤である。


「……なんじゃ、ありゃ」


 そう、呟きが漏れる。クセが強いメンツだとは思っていたが、既に予想の遥か彼方を亜音速でぶっちぎっている。


「だから言ったっしょー。傍から見てもすぐ気づくって」


 さもありなん、言い得て妙である。


 すると、ふと奏が異なる話題を振ってくる。


「……あ、そだ。流斗くんは今度の土日、空いてる?」


「土日? あー、大丈夫d……やっべ」


 しまった、と気付いた時にはもう遅かった。


「お? 今、大丈夫って言いましたね? 聞きました? 奏ちゃん」


「……ばっちし」


 完全に油断していた。

 クセの強いラブコメを見せられて、暫し驚いていたところへの唐突な質問。

 彼女たちからのお願い事は厄介事だと、既に身を持て経験していたはずなのに……!


「……何だい?」


 また一つ、ため息を零し、覚悟を決める。


「……私たちと、それからアリシアちゃんたち六人(・・)と、依頼に行かない?」


 すると今日一番の笑みを浮かべて、夏希……ではなく今度は奏が、爆弾をぶち込んできたのだった。


読んで頂き本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。