Ep.2-11 歓迎会
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次の授業が終わった後、流斗は夏希たちに事の顛末を聞いていた。
あの後遅れてきた二人と無事に合流したらしく、随分と仲良くなったらしい。チャットのIDも交換して、六人のグループも作ったとか何とか。
ちなみに流斗の分も半ば強引に聞き出されてしまった。
まあ、格別断る理由は無いのでいいんだけれども、こういう文明の利器にはあまりお世話になったことのない流斗にとっては少し新鮮なやり取りであった。
次いで、その少女たちのグループにも入ってほしいとお願いされたが、それは断っておいた。
特に深い意味はなかったのだが、何となく女子だらけの園に入り込むような感じがして、憚られたからだ。
ちなみにクラスの方は、何故だか今すぐではなく後で入れてくれるらしい。どうにも、まーた何か画策してそうである。
そんなことを考えつつ、色々あった初日を何とか終えたぜー、と、帰路につかんとしていた流斗の元に、
「ねえねえ牙頼くん! 今日は今から暇?」
という夏希の声が掛かる。
何故だろう、無性に嫌な予感がする。まだこの子たちに会って数日だが、この子のお願い事とやらには嫌な記憶しかないのだ。
という訳で、流斗は怪訝な表情を浮かべて、
「……用件を聞いてもええかい?」
と尋ね返す。理由如何では暇じゃなくなるかもしれないのですよ。
一方目の前の少年が明らかに身構えたことに気づいた夏希は、苦笑して言葉を返す。
「そんなに警戒しないでってばー。今回はいいお誘いだってー」
「……えっと、これから懇親会も兼ねて、みんなでキミの歓迎会をしようと思ってたんだけど、どう?」
夏希と一緒に近づいていていた奏が補足を入れてくれる。
恐らく面倒事ではないようだ。まだ安心はできないが、警戒心は緩める。
「ちなみに決まったのはついさっき! キミの編入を知ったのも今日だしネ」
ニコニコしながら夏希が付け加える。
なるほど、そういう訳でクラスチャットに入れるは後でってことになったのね。
「……あーいよ。そんなら、お邪魔させてもらうとすっかねぇ」
それなら、流斗に断る道理はない。
小一時間後、彼らは学園の敷地内にあるカフェに集合していた。
「コーラ頼んだの誰だっけー」
「もう全員来たの?」
「おーい、それはこっちー」
「エルリアちゃんたちが今ちょっと席外してるー」
会話が暫し錯綜している。が、これだけの人数がいたら仕方がない。
この懇親会、驚いたことに二十人余りのクラス全員が集合していた。なんとまあ、ノリのいいことである。
ちなみに我らが担任、橘先生も誘ったらしいが、
「私がいると気兼ねしてしまうでしょうし、皆さんだけで楽しんできて下さい。もし、また別の機会があれば、その時はぜひぜひお願いしますねー」
と断られてしまったらしい。
少しして席を外していた少女たちも戻ってきて、全員に飲み物が行き渡ったところで、代表して夏希が音頭を取る。
「えーっと、それじゃあ私から。こうしておんなじクラスになったということで、2-Aの皆さん! これからよろしくねー! かんぱーい!!」
――かんぱーい!! と、大きな声が貸し切りの店内に響く。
そう大きな店ではないため、思い切って貸し切ってしまったらしい。店内のあちこちに人が散らばり、幾人かずつにまとまって話し始めている。
そんな様子を少し離れたところから静かに眺めていた流斗は、ふとグラスを持っていない方の袖口を引っ張られ、後ろを振り向く。
そこには奏と、もう一人、薄桃色の髪を背中まで伸ばした少女が立っていた。
「おー、どした?」
「……主役なんだから、そんなところで黄昏てないでよ……」
すこぶる耳が痛いが、至極正論なので苦笑いする。
「それでね、キミにこの子を、紹介したいと思って。話してみたいらしいんだけど、なんせ、中々引っ込み思案だから」
そう続けた奏の後ろに目を向けると、そこにいた少女は彼女の影に何とか隠れようとしていた。
だが、奏の方が背丈が小さいので、全然隠れ切れていない。さしずめ、尻隠して頭隠さず、といった具合だろうか。
「なーるほどねん。りょーかいしたよ」
そう言うと流斗は、奏の小さい両肩を掴んでそっと横にのかすと、後ろの少女の目線に合わせるようにして少し屈む。
その少女は、奏という名のバリアがなくなったことに気づくと、目線をさらに下に向け、あうあう言いながらテンパってしまう。
ので、更に屈んで、下から顔を見上げるように陣取る。飲み物を零さないように、気をつけながら。
「――!?」
そこでようやく、少女と視線が合った。
少女――桜花が、意を決したかのようにひとつ息を吸って、言葉を紡がんとする。
「あ、あの。は、初めまして。わ、私、樹宮 桜花って言います。よ、よ、よろしくお願いします!」
「ああ、これからよろしくな、樹宮」
顔を真っ赤にして自分のスカートの裾を強く握りしめている桜花に、そう、優し気に挨拶する。
人見知りでテンパりっ子らしい少女のために、怖がらせないように。さながら、小さい子を相手するかのように。
そんな流斗の態度に感化されて少しは落ち着いたのだろうか、桜花も、はい! と返してくれる。
そんな二人の様子をそっと見ていた奏が、横から流斗に話しかける。
「……アリシアたちの友達とも会ってあげればよかったのに」
「しゃーないだろー。席数無かったんだし」
「……でも……」
どうやら、まだ少し根に持っているらしい。
席数の都合上仕方のないことだと思ったのだが、彼女からすれば引っかかるものがあるようだ。
確かに、元々は流斗と彼女らと三人で食べていたので、一人で先にいなくなってしまうのはあまり褒められた行動ではなかったとは思う。
「悪かったって。そういや、仲良くなったって言ってたけど、どんな話したんだ?」
王女という立場に流石に少し気後れしていたようだが、今はもうファーストネームを呼んでいるし、随分と仲良くなったものである。
「えーとねぇ、その四人が初等学校からの幼馴染らしいとか、ミーナちゃんの少し苦手な座学の話とか、色々とね。ホント楽しかったよー。アリシアちゃんもクラスとかじゃやっぱりお姫様扱いばっかりで、上級生とはいえ私たちみたいな知り合いができて嬉しいって言ってくれてたし」
気づけば夏希もそばに来ており、話に加わってくる。
「あー。まあ流石に一国の姫だからなァ。ま、ミーナみたいな子が傍にいるんだ。アリシアもいずれ、溶け込んでいくだろうさ」
「だといいね……。――そう言えば、だけどさ」
「ん?」
「キミは私たちのこと、名字で呼ぶよね」
不意に話が変わる。流斗は一体何だろうかと思いつつも、取り敢えず返事を返しておく。
「ああ、そーだな」
「んでもさ、一年生の彼女たちは名前で呼んでるよね。……それは、なんで?」
その言葉に、意図せず苦笑いが漏れ出してしまう。やはりこの少女たちはよく見ている。
いや、この場合はよく聞いている、の方が正しいのか。
「あー、そりゃあれだ。ホントはみんな名字の方で呼びたいんだが、ミーナみたいに名字を名乗らなかった奴とか、アリシアみたいにファミリーがめっちゃ長い貴族さんは、しゃーなしファーストの方で呼んだろうかと思ってな」
「えー。それなら私たちのことも名前で呼んでよー。私たちのこと名字で呼ぶもんだから何となく憚られちゃって牙頼くんって呼んでたけど、私も流斗くんって呼ぶからねん!」
すると、そんな話を聴いていたらしい大二郎とエルリアも、
「じゃあワタシたちも名前の方でいいってば。エルリアでいいって言ったのに、茨木呼ばわりされたからびっくりしちゃったわ」
「そーだぞー。これから仲間になるんだからなー!」
――仲間、か。
あんたの仲間だけは嫌だろうけどね、とか、なんだとー! とかいうやり取りを聞きつつ、流斗は暫し思考に耽っていた。
そんな言葉を向けてもらえるほど、自分はこの学校に素直に溶け込めるだろうか、と。
隠し事の山ほどある自分が、それでも心を通わせることができるのだろうか、と。
自分はこの集団で心から仲良くなることはできないだろう、と、そう思っていた。
全員を名字で呼ばんとしていたのは、そんな一定以上は決して距離が縮まないだろう、という流斗の諦観の表れに他ならなかった。
だが、優し気に向けられるその言葉に、少しだけ心が動く。
普通の年頃の子のように、という国王たちの願いに十全に従えるバックグラウンドではないけれども、それでも、できる限りは歩み寄っていくべきのかもしれない、と。
そんな荒れ狂う自らの心情に際し、
「――わーったよ。気が向いたらなー」
流斗はそう、最大の譲歩を以て返したのだった。
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