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神に牙むく無双の咎人 ~時代に抗う、次代の寵児たち~  作者: 銀風 朧月
第2章 次代の雛は開闢を知らず
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Ep.2-2 いざ学校へ

 **********



 翌朝。

 まだ少し、初めての依頼の(主に精神的な)疲れを引きずりながらも、流斗は学園へ至る街並みをのんびりと歩いていた。


 ふと周りを見ると、一様に制服を着た同年代の少年少女が小走りで駆けていく。

 本来なら少し急いだほうが良いぐらいの時間だが、流斗には先日の入学式だったらしい日と同様、所用で学園内に寄る場所があった。

 この前は編入に関する説明、今日はそれに係る書類諸々の作成があるらしい。


 そのため、初の授業も一限からではなく途中参加になるようなので、こうして余裕ぶっこいているという訳である。

 今のうちに自己紹介の文言でも考えておくかなー、と、これから毎日登下校をすることになる道を適当に眺めつつ進んでいく。



 突然だが、これから彼も通うことになるイッシュヴァルト王国立高等学校に通う生徒たちの登校手段は、その多くが電車通学だ。

 彼のように王都の中心部、つまり学園の徒歩圏内に住んでいる人は余りおらず、基本的には彼の宿よりも少し遠くにある最寄り駅へ電車を乗り継いで来る。

 まあ、徒歩十分程度を最寄りと言うのはかなり諸説別れるところではあるが。


 兎にも角にも基本的には、学園の生徒のほぼ全員が登下校でこの道を通る訳である。



 従って、


「んお? やっほーい、牙頼くんじゃーん!!」


「……やっほー」


 こうして、思いがけずに関わりを持つことになった少女たちに偶然会ったとしても、何ら不思議ではない訳で。


「……うっげ。よっす、お二人さん」


 と、思わず変な声が漏れ出てしまう。

 案の定、


「……おはよ。……なんで今変な声出したの……?」


 挨拶もそこそこ、奏に早速突っ込まれてしまう。

 だが流斗からしてみれば、初対面で中々面倒な……じゃない。厄介な……でもなかった。ちょいと想定外な(これだな!)お願い事をされているので、思わず身構えてしまうのも無理はないだろう。


「いやー、この前のことを思い出してなぁ」


「……あー、あれは、正直ごめん……」


「っちょ!? また二人で結託するのは止めてー!」


 奏の相槌に、こちらも少しトラウマになっているのか、夏希が全力で止めにかかってくる。

 それをひらりと交わしつつ、流斗は気になっていたことを聞いてみる。


「にしても……やっぱしみんな制服なんさね」


 そう、道行く中で見かけた少年少女はみんな揃って同じ格好をしている。

 この道を歩いていて、正直なところめちゃくちゃ浮いてるなー、と感じていたのだ。

 いや、まあそもそも編入生という立場はそれはもう浮いていることだろうが、まさか登下校の段階で既に溶け込めないとは……。


 一応、事前に渡されていた資料には服装自由と書かれていたはずだ。

 どういうことだいこりゃあ。


「あー……。やっぱ制服って楽なんだよねぇ。これはこれで機能性高いし、毎日服装替えなくて済むし」


「……昨日まで来てた服は、汚れちゃったから洗濯中」


 そう言う少女たちもまた、白地に紺の意匠が施された制服に身を包んでいる。

 なるほどまあ、すこぶる合理的である。


 対する天邪鬼の少年は、そんなことなど一つ考えずに市販のオレンジのパーカーを羽織ってきている。

 ぶっちゃけた話、違和感がすーごい。


「ほれほれ、何か言うことはあるかい?」


 不意に悪戯じみた表情で、夏希がちょいちょい、と突ついてくる。

 昨日まではそれぞれ動きやすい恰好で来ていたので、この子たちの制服姿を拝むのは初めてである。

 隣では奏も、スカートのすそを気にするようにして自分を見上げている。


 これは何というか、あれだな、うん。


「あーっと、あれだ。すこぶる眼福でございます」


 そう、言うほかなかった。


 一人は元気いっぱいで快活な少女。もう一人はおとなしめで小動物のような少女。

 どちらとも、そんじょそこらじゃお目にかかれない程の美少女たちである。

 創作でよく見かけるような、学年一だの学校一だといったものはなんともまあ現実的にはありえないだろーと思っていたが、なるほど、この子たちを前にすればそう言いたくなるのも無理はない。


「あっはっはっー。どもどもであります!」


 夏希は自分から吹っ掛けておいて満足な答えが得れたようで、ニッコリしている。

 昨日までとは打って変わり、非常に快活な様子である。

 特に神域の中であんまり喋らなかったのは、人々の生活がかかった依頼だったからか、仲良くなるまでは空気を読むタイプだったからか。


 ――あるいは他に、何か気になることでもあったからか。


「それはさておき、いよいよ今日からだね! 学校!」


 話題の転換を図るように、また夏希が話しかけてくる。

 奏もあとに続き、


「……緊張、してる?」


 と。


 どうだろう、こういう経験は初めてだが、緊張とはまた何か違う気がする。

 確かに、自己紹介で何話せばいいのだろうか、という憂慮は無きにしも非ずだが。


「そーだなぁ。そうでもないと思うけど、ま、ほどほど頑張りますよ。……ああ、そういえば、俺ァ先にちょいと編入の書類作らなきゃいけないらしくてな。その後に遅れて合流すんだけど、そん時にどう自己紹介しよっかなー、ってのはちょいと心配かな」


 主に、何か余計なことを言わないか、という点で。


「……なるへそ? ……まあ、名前とか、趣味とか、適当でいいと思う、よ」


「ああそうだ、ちなみに俺ら、おんなじクラスらしいで。ま、今後とも宜しくなー」


 ここで一つ思い出したので、付け加えておく。

 昨日の夜、この編入を画策したおっさんたちに依頼について報告していた際、ついでに調べてくれたらしいが、この初めてできた友人たちは、揃って初めてのクラスメイトにもなるようだ。

 流斗からすれば、勝手知ったる友人がいて嬉しい反面、また何か厄介ごとが持ち込まれないかという不安も反面、という具合だが。


 その情報は、件の少女たちは知り得なかったようで


「まじ!? よろしくねん!」


「!? ……おおー。よろー」


 と、二人とも喜びの声を上げる。


 そうこうしているうちに、バカでかい建物が見えてくる。どうやら、あれが校舎のようだ。

 今日からここに通うのか、と、暫し妙な感慨に耽っていると、


「いやぁ、何だか面白くなってきたねぇ」


 と、恐らく誰に聞かせるつもりでもなかったであろう夏希の呟きが聞こえる。



 想像したことすらない唐突な編入のはずだった。

 のに、今思えば少しばかりの高揚感を抱いていたことに気づく。


 本当に、全く、


「ああ、そん通りだよ、こんちくしょう」



 **********



 のんびり話している場合じゃなかった! と、時間が割とギリギリなことを思い出した少女たちと校門の前で別れ、流斗は一人門の横に寄りかかる。

 すぐに向かっても良かったが、何となく人通りが落ち着いてからゆっくり向かおうと思ったのだ。


「(さて、と。この後は学園長の部屋に行って、書類書いた後にクラスに合流、か)」


 単位制と言いつつ、幾つかある必修はクラス単位で授業を受ける。

 そう言う意味で、今日の面通しはそれなりに今後の学校生活の行方を占うことになるだろう。

 夏希と奏が同クラスであったのは、正直なところ幸いであった。


「(こういうのは慣れてねーんだよなぁ。まあ、なんかあったらあいつらに頼ろーっと)」


 そんなことを考えていると、どこからか


「――て、どいてー!!」


 と、何か少女の焦ったような聞こえてくる。


 その言葉に思惟を止め、ふと頭を上げると、


「んなっ!?」


 夏希たちと同じように、白い制服に身を包んだ塊が突っ込んで……って、そんなこと考えてる暇はっ……。



 前方には白い塊。後方には固い壁。

 反射的に避けようとするも、突っ込んできた人に怪我をさせてしまわぬよう、それを思い留まり壁から少し離れて身構える。


 そして、


「あっ」


「っちょ、何してうがらっぱっ!?!?!?」


 少年の僅か手前で何かにつまずき、体勢が傾く。

 その結果、弾丸の如き勢いで頭から腹部の少し下、紳士の急所に突き刺さり、思わず奇妙な声が漏れ出る。


「いったた……ついつい急ぎ過ぎて止まれなかったです……。ん? はわわっ、何か見知らぬ男の人がぶっ倒れてるですー!!?」


 お。お前のせいだ……という呟きは音になることなく、ツッコミのために上げた手は無情にも(くずお)れるのであった。


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