第117話 実家に帰ろう! その8
「あ…… 起きた……? 大丈夫か?」
「ん…… んぁ……」
目の焦点が少しずつ定まっていくように見えるネピア。段々とピントがあってきたのか、目で捉えた情報を脳に伝達し言葉にする。
「……あれ? ……タロー?」
「はい。タローです」
「あ…… どうして…… 今は……」
「一緒に実家に来たんだ。今は裏山近くの広場にいる」
「あぁ…… そうだっけ…… そうだ……(ハッ!?)」
ネピアは膝枕されていた事が気恥ずかしかったのか、慌てて俺の膝から飛び上がるようにして起き上がった。
「なんだよ。そんなに勢いよく起きると身体に悪いぞ?」
「……どうして私に膝枕を?」
「ネピアがいきなり倒れたんだ。それで心配になって介抱した」
「……」
「ネピア? 勝手に膝枕したのは謝る。けど一つだけ教えて欲しい事がある」
「……なによ」
「身体は大丈夫か? それだけが心配だ」
「……大丈夫よ」
「そうか。ならいい。無理しないでくれよ」
「……うん」
これが二人きりだったら様になっていた場面かもしれない。だがネピアの後ろには二匹のエルフが存在している。そしてその二匹のエルフはネピアに声は掛けていないものの全力でボディーランゲージとハンドサインを何故か送っていた。
「(クリちゃん。ネピアをあそこから救わないと)」
「(そ、そうだね。い、今はネッピーの事を心配してるみたいだけど、いつ穴に興味を持ち始めるか分からない……)」
「(ネピア~ 気づいて~ こっちだよ~)」
「(ネッピ~ 早く~ 穴見られちゃうよ~)」
(なんだ? ネピアに何か伝えたいのか……? よく分からんが、実際聞いた方が早いだろうな)
ネピアの横を通り過ぎるようにして、エルモアとクリちゃんに向かって歩いている。最初こそネピアに色々なサインを送っていった彼女達ではあったが、いつの間にか青ざめた顔をして俺から後ずさりしている。そして何故かエルモアはおへその辺りを両手で押さえている。
「……」
「……」
「……」
「……なぁ」
「「(ビクゥ!?)」」
「何やってるの……?」
「……なにも」
「……特には」
「何でネピアを助けてくれなかったの……?」
「……近づいたら」
「……全滅です」
「全滅……? なぁエルモアどうした? ポンポン痛いのか? お腹のあたり押さえちゃって? よし、社会派紳士の俺がさすってあげるぞ。おいで」
「「 !? 」」
「(エルちゃん!?)」
「(くっ…… 目標をネピアから私に変更したか…… だがこれでネピアは守れるという事……)」
膝枕を出来る状態でエルモアを待つ社会派紳士。いつもとは逆の立場で彼女達に貢献する。こうやって相手の立場に立って行動するという事はとても大事な事。
(膝枕ってどっちの役割になってもいいものなんだなぁ…… 俺はまだまだ名にも知れていない若輩者だな……)
「どうしたんだ? クリちゃんも一緒に来るか?」
「「 !? 」」
「(喰うつもりだ……)」
「(さ、流石に、そ、そんな事はしないと思いたいけど…… さっきの言動が危なすぎて完全に信用出来ない……)」
「タロー何やってるの?」
「ネピア。エルモアがお腹の辺り抑えてるから、具合悪いのかと思って……」
「そ、それで…… 私にしていたように膝枕?」
「そうだ。ネピアも倒れちゃうし、エルモアも体調優れなさそうだし、心配なんだよ…… ここに来るまで色々あったしな」
「そうね…… 姉さ~ん大丈夫?」
「(ネ・ピ・ア!? こっち! こっち!)」
「(ネッピー危ない! 穴が! 見られちゃうよ!?)」
「さっきからあんな感じなんだけど……」
「どうしたのかしらね…… ちょっと行ってくるわ」
「あぁ」
ネピアはそのままエルモアとクリちゃんの方へ歩いて行く。しきりにハンドサインを送っていた彼女達は、安堵したかのようにネピアを迎え入れる。
「(どうしたの?)」
「(大丈夫ネピア!?)」
「(ネッピー!? いじくり回されたりしなかった!?)」
「(どうしたってのよ……)」
「(穴を狙ってる)」
「(ズーキさんが)」
「(穴?)」
「(ネピアの穴を)」
「(!?)」
「(そしてエルちゃんのお腹も狙っている)」
「(ね、ねぇ? それは本当なの……?)」
「(事実。紛う事なき事実)」
「(どうして、そ、その、穴を……?)」
「(それは分からないけど…… ネッピーがSF小説の話をズーキさんにしたから興奮したって説が有力かも)」
「(あるね。可能性あるね)」
「(SF小説……? ……ハッ!?)」
「(思い出した?)」
「(思い出したわ…… 何の理由か分からないけど、そういう流れになったわね…… そして私は気を失って……ハッ!? ねぇ!? 私どうなったの!? ねぇ!? 答えて!?)
「(……)」
「(……)」
「(答えてよっ!?)」
「(私たちは……)」
「(ズーキさんの背中を見る事しか叶わなかった……)」
「(何故なら私たちに背を向けるようにして、ネピアに膝枕したから……)」
「(え…… じゃ、じゃあ…… 完全無防備な状態の私が、あいつの膝の上にあったって事……?)」
「(……残念ながら)」
「(……そういう事になるね)」
「(いやぁーーー!?)」
様子のおかしかったエルモアとクリちゃんにプラスするようにネピアの様子もおかしくなる。何か悲しい事があったのだろうか。声にならない声を上げているような悲痛な表情になっていた。
(とりあえず心配だな…… 話さないと何も分からんしな……)
三匹に近づいていく社会派紳士。そして後ずさる三匹。
「……どうして逃げるの?」
「……」
「……」
「……」
「……俺が何かした?」
「……」
「……」
「……」
「……答えて下さい」
「……」
「……」
「……」
(一体どうしたってんだ?)
「……何故」
「どうしたエルモア?」
「そこまで穴に執着を……?」
「あぁ、気になるだろ? どんな形なのかさ」
「「「 !? 」」」
「色々な形状があるみたいなんだ。だから実際見てみないと分からないだろ?」
「……見てどうするんですか?」
「形状が合えば差し込んでみたいよな」
「「「 !? 」」」
(エルモア…… お腹必死に抑えて大丈夫かな……?)
「大切にするからさ。ネピア見せてくれよ」
「「「 !? 」」」
「い、いやよ! それに、あ、あんた…… 膝枕の時に、わ、私に何をしたの!?」
「ん? 膝枕だよ?」
「ひ、膝枕以外に何かしたんじゃないのっ!?」
「顔を見ていただけだよ。それとちょっとだけ髪をすいてただけだって」
「か、髪?」
「そう。ネピアの髪は綺麗だなって思ってつい触ったんだ。それについては嫌だったら謝るよ」
「ほ、本当にそれだけ?」
「あぁ。それだけだ」
「じゃ、じゃあ、髪の件については許すわ」
「ありがとうな。また触らせてくれ」
「「「 !? 」」」
「だ、駄目」
「そうか。残念だな」
「(ネピア。信じるの?)」
「(し、信じたい…… 私の精神の為にも……)」
「(そ、その方がよさそうだね)」
未だに微妙な三匹の対応をおかしく思いながらも、髪を勝手に触ってしまった無礼についてはお咎め無しだった事に嬉しく思うも、次回からは禁止されてしまったのが寂しく思う社会派紳士であった。