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第114話  実家に帰ろう! その5



「そういやネピアは?」

「森にいますよ」

「森?」

「ネピアは広場近くの森が好きなんです」

「木に背を預けて漫画を読んでそうなイメージがあるな」

「はい。それと日差しが少ないから好きなんですよ」

「あいつ暑がりだもんな~」

「そうなんですよね~」

「でもここは風が気持ちいいし、今は暑くないだろう?」

「そうですね。ネピアでもそう思っていると思います」

「でも森が好きだからいるんだよな」

「はい。魔法式を考えたり実践するのに集中出来るようなんです」

「なるほど」


 ゆっくりとした時間が流れていく。雲も同じように緩やかに流れていく。焦りや急ぎを全く感じる事の無い場所である。


(こういった場所に生まれていたら俺はどうなっていたんだろうな……)


「エルモア?」

「はい」

「ネピアのいる場所はどの辺り?」

「来た道より山側の森の中ですね。広場から近い所にいつもいますよ。目印は小道ですね」

「分かった。ここでゆっくりしてもいいんだけど、せっかくエルモアとネピアの故郷に来たから森にも行ってみるよ」

「はい。私はもう少しここにいますね」

「分かった」


 エルモアはそのまま寝てしまうんじゃないかと思うような、気持ちの良いアクビをしてボンヤリと空を見続けていた。まだ寝ている訳じゃないのだが、なるべく静かに森へと向かって行く。


(森の中も気持ちがいいな)


 森の中に入って少し歩くとエルモアの言った通り小道があった。その小道を奥へと歩いて行く。


(なんだかテンション上がってきた……)


 そこから俺は小走りしながら妄想し続けていた。設定は逃げた敵の魔法士を追い掛ける社会派紳士。相手は手練れだが、この社会派紳士に恐れをなして逃げ続けている。そして卑怯にも不意打ちを食らわそうと、身を忍ばせていた悪の魔法士に先手と言わんばかり声を掛ける。


「出てこいよ魔法士…… そこにいるんだろ……?」


 俺は悪の魔法士が隠れてるであろう場所を指さしながら宣誓する。もちろん反応はないが俺の脳内では反応がある。そしてそれは脳内だけでは済まなかった。


「え…… タロー……?」

「あ……」


 振り向くと後ろの方にネピアが存在していた。


「え……? 誰もいないわよね……?」

「……」

「……なにやってんの?」

「貴様見ていたのか……これを見られたからには……」

「……見られたからには?」

「……見なかった事にしてくれ」

「……エルモアぁ~ ちょっと~」

「てめぇ! 見なかった事にしろってんだろっ! オラぁ!」


 金色の髪をウサギの耳ように揺らして駆けてゆくネピア。俺はそれを捕まえるようにするが、あと一歩の所で逃す。そして再度ふん捕まえようとネピアがすり抜けた木と木の間に入った瞬間それは起こった。



「あ゛ばばばばばばぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ーーーーーっ!!!!」



 まるで電撃のようなものを受けてそこから逃れられなさそうになるも、木の上から落ちてきた何かに後頭部を叩かれて前のめりに倒れる。


「んべぇっ!」


 顔面を合わせた身体ごと地面に打ち付ける。いきなり何が起こったのが全く理解が出来なかった。木と木の間に入った瞬間に気がつくと感電したように電気が身体を縦横無尽に走り回り俺の行動を不能とした。


「あ……あ……あ……」

「ちょっと後頭部にぶつけるタイミングが早いかしらね…… あまり早いとすぐに行動出来ちゃうし…… う~ん」

「ね……ぴ……あ……」

「なに?」

「こ……れ……お……ま……え……の……わ……な……(ガクッ)」

「あ…… ちょうど良かったか……」





(あたたかい…… 頭があたたかい…… はっ!?)


 気がつくと俺は森の中にいた。うつ伏せだったので息が苦しくて起きてしまったのだろうか。近くにはネピア。どうやら何かしらの状況で頭を打ったようだ。それを魔法で癒やしてくれた彼女。


「大丈夫?」

「あ、あぁ…… ありがとう……」

「い、いいのよ。き、気にしないで」

「そうか? あたたかくて気持ちよかった」

「そ、そう?」


(お礼を言われて照れてるのか? なんだか気まずそうにしているな)


「ネピアを探しに森に来た所までは覚えているんだが……」

「そ、そう…… 私はここにいるから……」

「森の中は涼しいな」

「日差しもまばらだからね」

「あぁ」

「……」

「……」

「……ねぇ」

「なんだ?」

「どうしてここに来たの?」

「ネピアを探しに」

「そ、それは分かったけど……」

「?」


(どうしたネピア? それに俺もなんでここに来たのか忘れてるよ…… え~と…… エルモアと…… 一緒にいて…… いい所だって…… そうだ…… 故郷にしたんだ…… ここを……)


「そのなネピア?」

「う、うん」

「ここを故郷にしたんだ」

「故郷?」

「あぁ。俺の新しい故郷だ」

「あ……」

「どうした?」

「……ううん。なんでもない」


(なんでもないって顔してないんだよな…… 口には出さなくても姉妹一緒だよな……)


「ここをさ、故郷にするって決めたらなんだかスッキリしたんだ……」

「うん」

「ネピアにはハッキリ言っちまうけど、未練みたいのあったと思う。元の世界のな」

「……うん」

「でももう俺はここで生きて行くんだって決めてるからさ。でも故郷に帰れないのは寂しいだろ?」

「……うん」

「だから故郷を作ったんだ新しく。ここにな」

「うん。ここでいいの?」

「おうとも。むしろここしかないだろ」

「そう…… その……」

「ん?」

「あ、りがと……」

「こっちのセリフだな。いい所だよ…… 本当に……」

「うん……」


 互いの身体に木漏れ日が当たりまだら模様になっている二匹。なんとなくそれを見つめながら、次第に互いの視線が交差する。


「……」

「……」


(なんだか気恥ずかしいな……)


「……」

「……」


(それに大人しいネピアは正直魅力的なんだよな……)


「……」

「……」


(でもやっぱり元気なネピアの方がいいのかな……)


「ね、ねぇ……」

「ん……?」

「そ、そんなに見つめないで……」

「す、すまん……」


 気恥ずかしいと考えていた間ずっと見つめ続けていた社会派紳士。ネピアに声を掛けられるまで彼女をジッと見続けてしまった。この心地よい場所がそうさせるのかのように、自分の心に素直になっていく。それは新たな故郷が生まれた安心感なのかもしれない。









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