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第112話  実家へ帰ろう! その3



「……」

「……」

「あの……? お父様……?」

「貴様にお父様などと呼ばれる筋合いはないっ!?」

「(ビクゥ!?)」


 いきなり怒鳴られて萎縮する社会派紳士。だが致し方ない事なのかも知れないと思った。大事な娘達が見知らぬ男を連れて帰ってくる。しかも今まで連絡不通状態。


「……」

「……」

「……ふ」

「……」

「……ふふふ」

「……」

「ふぁーーーーはっはっはっ!!!」

「(ビクゥ!?)」

「あ~! 言ってみたかったんだ~! 娘達が男を連れてきたら絶対やってやろうとずっと思っててね~! いや~長年の夢がかなったよ~!」

「は、はぁ……」

「驚かせて済まなかったね。私はスコッティ。スコとでも気軽に呼んでくれ」

「は、はい。え、え~とスコさん?」

「タロくんはフルオンで娘達に出会ったのかい?」

「は、はい。ギャングスタにからまれているところを救ってもらいました」

「なるほど。君は人間のようだけど、どうして精霊の国へ?」

「漫画を見るためにやってきました」

「そうかいそうかい。ネピアはいっぱい持っているからゆっくり見ていくといいよ」

「ありがとうございます」


(良かった…… 話せる御方だ……)


「それでどうなんだい? えっ?」

「え……?」

「こんの~ とぼけちゃってまぁ! ニュンニュンだよ! ニュンニュン!」

「え……? ニュンニュン……?」

「またまたぁ~ え~? おじさんをからかうんじゃないよ~」

「は、はぁ」

「それにネピアがあれ程までにタロくんに心を開いているんだ…… 凄い事だよ?」

「そうなんですか?」

「ネピアは興味がなければ触れない。自分から話すような事も少ない。例えネピアを嘲笑う者がいても興味がなければ意に介さないだろう」

「意に介さないのは見た事ありますね」

「だろう? だから私は嬉しいのさ。そしてエルモアは優しい娘だろう?」

「はい。本当に救われています。何度も慰めて貰いました」

「そうか! 慰めて!? タロくんを!? あのエルモアが!? そうか~ エルモアは奥手感あったけどやっぱり女の子だな~」

「ははは」

「いや~ 娘をそこまでさせるんだ! 教えてくれ! ニュンニュンの事を!」

「は、はぁ」

「君みたいなタイプは出会って一秒でニュン! 二秒でニュンニュン!ってとこかぁ~?」


(なんだよニュンニュンって…… エルモアとネピアからも聞いた事ないし、精霊の国でも聞いた事ないぞ…… 適当に話を合わせておくか……)


「そ、そうですね」

「そうか!? やっぱりなぁ~ これでも昔はニュンニュン王子として名を轟かせていたんだよ~ ニュンニュンと言ったらスコ。スコといったらニュンニュン。スコスコ王子とも言われてたな~」

「な、なるほど」

「ニュンニュンは会話の一部さ。これをせずして何が人生か!」

「は、はい」

「ネピアは絶対好きだろ~ ニュンニュン~」

「そ、そうですね」

「エルモアも意外に好きだったろ~ ニュンニュン~」

「そ、そうですね」


(ネピアは絶対好き? エルモアは意外に好き? ニュンニュンは会話の一部。出会って一秒とか二秒とか言ってたよな…… 初めてあった時の事を考えると…… あぁ……そうか多分お酒の事だ。ネピアは自分から進んで飲んでたし、エルモアは今と違ってチビチビやっていたよな。確かに印象としてはそんな感じだった。ニュンニュンとはキノコの里の方言で酒飲みを表すのだろう)


「じゃあ昨日の夜もニュンニュンかい?」

「はい! いっぱいニュンニュンしました!」

「そうか! それはよかった! 親バカだけどエルモアもネピアもいい娘だろ~」

「はい! とてもいいニュンニュンをさせて頂いています!」

「とてもいいニュンニュン! そんなストレートな物言いで言われると嬉しくなってしまうね~」

「如何なる時もニュンニュンを忘れた事はありません。出会ってから、移動中も、魔法具を手に入れた後の温泉でも、そして……」


 俺は言い淀んでしまう。流石に大っぴらに実家でお酒を飲みますと宣言するのは行き過ぎではないかと。スコッティさんとも、出会い話し始めてまだ少しの時間。流石に馴れ馴れしくし過ぎだと反省する。


「そして…… どうしたんだいタロくん……? いいんだよ…… 分かっているから…… むしろこの父にハッキリ言ってやってくれ!」

「はい! エルモアとネピアの実家でも思いっきりニュンニュンしてみせます!」

「なんと!? 素晴らしい! こんなおとこは初めてだ! いいよ~! 気に入ったよ~! 若いって素晴らしいね~! 勢いがある!」

「ありがとうございます!」

「いや、礼を言うのはこちらの方さ。娘達をよろしく頼むタロくん」

「はい!」

「時間を取らせたね。さぁ早く娘の部屋でニュン! それとも裏山近くの広場でニュン! どっちかな?」

「両方です!」

「ははっ! むしろこの実家全ての場所でニュンニュンするぐらいの気概はありそうだ! さぁ娘達が待ってる! いってくるんだ!」

「はい! ニュンニュン王子様! 行ってきます!」

「あぁ! 夕食でワインを一緒に飲もうな!」

「はい! 頂きます!」


(やっぱりお酒の事だったな。でも通じ合えて良かった。本当にいいお父様だな)


 認められた嬉しさから駆け足でロリフターズに逢いに行く社会派紳士。彼女達は実家に戻るでもなく、俺の帰りを待っていてくれた。


「大丈夫だったでしょ?」

「大丈夫だった」

「父さんはお茶目なとこあるからね」

「最初は驚いたけど、すぐに打ち解けたよ」

「お父さんはタロさん気に入ってくれると思いました」

「そうか。慣れ慣れしくし過ぎそうになったんだけど、むしろ後押ししてくれたよ」

「父さんは勢いあるの好きだから。タロー向きね」

「一緒に夕食でワイン飲む約束が出来て嬉しいよ」

「いっぱい飲んであげて下さいね」

「あぁ!」


(いいお父様だったな。お母様だって連絡をしてなかった事を気にしたし、娘達が心配なだけなんだ)


「それと娘達をよろしくってさ」

「「 !? 」」

「親バカなんて言ってたけど、いい娘達だろって。俺も本当にそう思うよ」

「「 !? 」」

「エルモアとネピアに出会えて本当に良かったよ」

「……うん」

「……はぃ」


(照れてるな。そりゃ親の娘に対する愛情を聞かされたらそうなるよな)


「それでこれからどうする? クリちゃん達の所に行くか?」

「二日酔いが治ったとしても疲れてゆっくりしてるかもね」

「なら裏山の広場に行きたいです!」

「あぁ。俺も行ってみたい」

「じゃあ行こうかしらね」

「行きましょう!」


 無事にご両親への挨拶は済み安堵する。同じように安心したのかご機嫌なエルモアを先頭に、屋敷の横を抜けて奥に見える山の方へ歩き始めた。


「この辺り全てが実家の土地なのか?」

「うん? 違うよ?」

「家が建っているところだけですよ」

「自然はみんなのモノだから」

「そうか。そうだよな」

「はい!」


(本当にご機嫌だなエルモア)


 歩きに歩く。駅から実家へ向かう以上の距離を、散歩し続けて見えてきた大きな広場。広場に出る前にエルモアが駆けて行ってしまった。


「エルモア随分とご機嫌じゃないか?」

「そりゃそうよ。愛しの彼と会うんだから」

「え!?」

「残念だったわね。如何に父さんに気に入られようが、これは変わらない事実。ぷぷっ」


(マジかよ…… エルモアに彼氏がいただと…… そんな…… まさか……)


 俺の頭の中では今までのエルモアとの記憶が走馬燈のように駆け巡っていた。だが、それは崩れ去り虚空のようになってしまった。











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