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第111話  実家に帰ろう! その2



「ここよ……」

「こちらです……」

「おぉ…… 趣のある家だな……」

「古いだけよ……」

「築年数は随一ですね……」


 ロリフターズの実家は歴史ある屋敷のような佇まいで、広い敷地の中に悠然と存在していた。平屋ではあったが、それが日本の屋敷にも通じる趣きさがあって懐かしさも感じる程だ。


「……」

「……」

「……どうした? 行かないのか?」

「……」

「……」

「……大丈夫だよ。俺もいるんだから」

「……そうね」

「……そうですね」


 言葉とは裏腹に一向に進もうとしない二匹。初めて見る戸惑いと不安をミックスさせたような絶妙な表情。


「……」

「……」

「……」


 心地よい風の筈が不意に冷たく感じる。精霊の国では珍しくない深い森から送られてくる森の濃い匂い。意識をそちらに向けていたのは事実だが、油断していた訳ではなかった。


「お帰りなさい我が娘達よ」

「「「 !? 」」」


 後ろからいきなり声がかかる。三匹とも振り向くと、お母様だろうエルフが優美に立っていた。その眼差しは透明感のあるものであったが、その奥に引きずり込まれてしまうような深さがある。


「か、母さん」

「お、お母さん」

「は、初めまして。た、タロ・ズーキです」

「初めまして。エルエール・BRです」


(エルエール…… BR…… エリエールさんか…… でもBRってのはファミリーネームか……?)


「……」

「……」

「……」

「……」


(無言は本当に止めて下さい)


「連絡……」

「「( ビクゥ!? )」」

「どうして連絡をしなかったのですか?」

「そ、それは……」

「そ、その……」

「どうして?」

「か、母さん? あのね? こ、これを探してたの。ほ、ほらエルモアも」

「う、うん」


 二匹は両手を差し出すように手のひらを上に向けて、エルエールさんへ向けた。すると光の粒が集まるようにして実体化する魔法具。ネピアは魔法杖マジカルロッドを。エルモアはタクティカル魔法グローブを。


「魔法具……」

「そ、そうなの母さん。これをね? 探してたの」

「み、見てお母さん。立派な魔法具だよ?」

「……」

「……」

「……」


 するとネピアとエルモアに近づいていくエリエールさん。二匹は石化したように動かない。


「よくやりましたね」

「か、母さん」

「お、お母さん」

「「「(ギュッ)」」」


(良かった抱きしめてる…… 魔法具の効果アリだ……)


「しかし…… 連絡をしない事とはまた別」

「「( ビクゥ!? )」」

「ですが、お客様をお待たせする訳にも行きません。タロさん?」

「は、はい!」

「ようこそいらっしゃいました。ゆっくりしていって下さいね」

「はい!」

「エルモア? ネピア?」

「「 サー!! 」」

「私は夕食の準備をします。詳しい事はその時に。それまでお客様をもてなしてあげなさい」

「「 サー!! 」」

「それではタロさん。一旦失礼させて頂きます」

「はい!」


 ここに来た時は気配すら感じさせず登場したエリエールさんは、屋敷の入り口に向かって歩き始める。その隙の無い佇まいには、非の打ち所も無い様子が見て取れた。


「……」

「……」

「……」


(と、とりあえず無事に終わったか)


「……どう思うエルモア」

「……タロさんがいてくれた事には感謝だね」

「やっぱりそう思う?」

「魔法具の効果もあったと思うけど、意識はタロさんに向けられていた」

「え!?」

「気に入られたか、気に入られなかったかは置いておいて、意識されてるわねあんた」

「……あの」

「……なに」

「大丈夫なんでしょうか? 俺?」

「……」

「……」

「ね、ネピア?」

「……祈りなさい」

「え、エルモア?」

「……女王様に」

「ちょ、ちょっとそれって!?」


 これからの展開を考えてしまう物言いだった。その場で立ち尽くす三匹。同じように風が俺たちを撫でるが、より一層冷たく感じる。


「……だけど如何様にも出来た」

「そうだね」

「どういう事だ?」

「もし本当に怒っているなら、私たちを連れて行ってしまう事も出来た」

「いきなりそういった行動に出てないから安心出来るって事か?」

「安心は出来ないですけど、怒りのレベルは低いと思いたいです」

「……思いたいか」

「あれこれ考えても仕方ないんだけど、結果としてはまずまずね」

「そうだね。タロさんも無事だし」


(無事……)


「ま、まぁいいか。それでどうするんだ? 夕食の手伝いでもするか?」

「手伝ってあげたいけど、あんたをもてなすように言われたからね」

「もてなしますよ」

「なら、もてなされますか」


『愛しの愛娘達よ!』


「「「 !? 」」」

「父さん!」

「お父さん!」

「「「(ギュッ)」」」


 大きな声と共にエルモアとネピアを抱きしめるお父様とおぼしきエルフ。その抱き合う姿は紛う事なき家族愛である。


「無事だったか…… どうしたんだ? 連絡もよこさないで」

「ごめんね父さん」

「ごめんお父さん」

「いやいいんだ。無事ならそれでいい」

「父さん……」

「お父さん……」

「「「(ギュッ)」」」


(微笑ましい)


「あのね父さん?」

「なんだ?」

「これ見て」

「おぉ…… これは魔法具じゃないか!」

「私もあるよお父さん」

「でかしたぞ! ネピア! エルモア!」

「ありがと父さん!」

「お父さん!」

「「「(ギュッ)」」」


(蚊帳の外でいいと思ったのはこれが初めてかもな……)


「さぁ疲れただろう。ゆっくり…………君は?」

「は、はい! タロ・ズーキと申します! フルオンの街でお世話になりまして……」

「……」

「……」


(おいおい。めっちゃ睨まれているよ……)


「エルモア? ネピア? 父さんはこの方と少々お話があってね。家に戻っていなさい」

「はい」

「あい」


(え!? 見捨てるの!?)


「じゃあ…… ちょっと茂みの方へ行こうか……?」


(いやぁーーー!?)


 そのまま有無を言わさずお父様に連れて行かれる社会派紳士。ロリフターズにとっての難関はお母様。そしてこの社会派紳士にとっての難関はお父様だという事だったのかもしれない。












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