第110話 実家に帰ろう!
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
俺たち五匹はキノコの里に到着した。のどかな風景は相変わらずで、駅前にもチラホラと商店があるのみで、ターミナル駅のニューインと比べると都市部と地方との差をしっかりと感じる事が出来た。
「……流石に全部は飲めなかったな」
「……残念です」
「……流石に二日酔いでいけないでしょ」
「……」
「うぇ~い!」
キノコの里の名産物はその名の通りキノコ。もっと観光地然とした有様かと思っていたが、あくまで生産地といったようだ。一応駅前にある商店には様々なキノコが売られている。
「ごめんねクエルボちゃん。ちょっと行ってくるね」
エルモアはテキーラにお詫びと別れの挨拶をし、駅前にあるロッカーにブツをしまう。お母様は赤ワイン派なのだそうで、ここに置いていくという。
(いくら赤ワイン派と言っても、他のアルコールを持っていけないってのは相当好きなのかな)
そんな事を思いつつ、精霊の国の歴史を思い出して考えを改めた。昔の名残を大事にしているお母様なのだ。
「行くわ」
「行こう」
「あぁ」
「……」
「うぇ~い!」
(クリちゃん大丈夫かな?)
駅を背にして一本の街道を歩いて行く五匹。道自体は広く余裕があるが、周りの木々がしっかりと生い茂っている為、不思議な森や深林海岸と変わらない密度の濃い自然を感じる。
「どのあたりなんだ?」
「どんつきまで歩くよ」
「突き当たりを右にいくと私たちの実家で、左に行くとクリちゃんの実家です」
「……」
「そのクリちゃんが大変な事になってるけど……」
「そっとしておきなさい」
「……そうだな」
無言のクリちゃんは決して無視を決め込んでいる訳ではない。寝台列車ではゆっくりと飲んでいたクリちゃんだったが、途中からラヴ姉さんとテンションが上がりだしてペースを上げた結果がこれだ。
(楽しかったという結果だな)
「ネピア」
「あい」
「俺が読んでた漫画の続きはどれ位あるんだ?」
「あ~ あれの続きは単行本で出てないのよ」
「じゃあ……雑誌か?」
「うん。三冊あるよ」
「って事はあと三話か」
「雑誌自体が廃刊になったからそこで終わってるわね」
「……区切り悪いか?」
「終わってはいるわね」
「よし」
ラヴ姉さんはクリちゃんの介抱をしつつ、辺りを見回すようにキョロキョロしている。目新しいモノは見つからないのだが、彼女にとっては関係ないらしい。
「そういやさネピア?」
「ん?」
「漫画や本が好きなんだよな?」
「ん」
「趣味になったきっかけとかある?」
「ん~ そうね~ 漫画を作れるエルフに対して尊敬の念を抱いたからよ。だって凄いじゃない。そのエルフは世界そのモノを生み出しているのよ」
「まぁ……そうだな。壮大な世界観を持っている方もいるよな。それは素直に凄いと思うよ」
「ん?」
「ん?」
「世界観じゃなくて世界よ」
「世界?」
「あんたの世界ではどうだか知らないけど、この精霊の国では漫画を書けるエルフは世界そのものを生み出しているのよ」
「え……」
「もちろんこの世界ではないところだけどね。もしくは異世界の事柄の一部分を垣間見れる」
「じゃ、じゃあ漫画書いてるエルフは新しい世界を創造してるか、実際ある異世界を認識してそれを書いてるって事?」
「そう。私も良く言いすぎたけど、世界を新たに生み出している漫画家はごく少数よ。大多数は異世界の事柄を脳に入力出来るみたいね。それを絵と文として出力してるわけ」
「マジかよ……」
「だから尊敬してるの。世界を創造とまではいかなくても、異世界の情報を受信出来て皆に送信する事が出来る存在。凄いと思うわ」
「そ、そりゃ……凄いよ……俺も尊敬の念を抱いたよ。完全に」
「そ、そう?」
歩きながら他愛ない会話が続くと思っていたが、いきなり驚きの内容が脳に突き刺さる。突き刺さった内容がアンテナの代わりになって、俺も異世界の情報を受信出来ないかと考えてしまう。
(でも既に異世界なのか。ならもっとこの世界を楽しまないとな)
「エルモア?」
「はいタロさん」
「ここが故郷なんだよな」
「そうです。ここで生まれました」
「いいところだな」
「田舎ですけど住みやすいですよ。争いもありませんし」
「フルオンに比べたら争いは無さそうだな」
「はい」
「何かエルモアの好きな場所とかある?」
「そうですね…… 裏山近くの広場が好きです」
「ほぅ」
「そこは森が開けていているので、芝生の上で寝っ転がると気持ちいいですよ」
「ほぉ~ 酒飲んで寝っ転がりたいな」
「広くて遊びやすい場所ですから、ネピアと一緒に遊んでましたよ」
「そうなのかネピア?」
「うん。魔法の練習もそこでしてたしね」
「そうか。広い所の方がやりやすそうだな」
「狭い場所で使う魔法もあるから一概には言えないけど、広い方が気持ちいいわ」
「挨拶が済んだらそこに行けるのか?」
「行けますし行きたいです」
「私も久しぶりに行きたいわね」
「じゃあ挨拶が済んだら行こう」
「はい」
「そうね」
その挨拶が上手くいくのか、それともお母様にお叱りを受けるのかは分からない。だが後の事を考えていられる内は余裕があるという事。エルモアもネピアも覚悟を決めたのか落ち着いていた。
「……」
「うぇ~い!」
「クリちゃんが心配なんだけど……」
「大丈夫よ。クリちゃんの両親が最強の豆持ってるから」
「豆?」
「それ飲めばすぐに治るわ」
「正論丸より効く胃腸薬なのか?」
「効くわね」
「効きますね」
「むしろステータスアップよ」
「アップですね」
「二日酔いからでも酒飲める程に?」
「いけるわ」
「いけます」
「なんて言う豆なんだ?」
「ポン豆よ」
「ポン豆?」
「二日酔いがポンっと治るのが名前の由来ね」
「クリちゃんもフルオンに来た初めの頃は、結構持っていたんだけどね」
「エルモアとネピアで酒を飲ませすぎたんだろ……」
「……」
「……」
(欲しいけどクリちゃんの身体を守る為にも止めておこう)
二日酔いから迎え酒気分では無く、通常よりステータスアップした状態で飲み始める事が出来る、ポン豆に心揺れ動いていた。どんな豆なんだろう頭の中で思い描いていると、ネピアが言っていた突き当たりに辿り着く。多少狭くなった道幅が左右に展開していた。
「クリちゃん?」
「……」
「クリちゃん?」
「……」
「ラヴ姉?」
「はいさ~」
「ここを左に行って真っ直ぐいくと、右手に家があるから。そこがクリちゃん家よ」
「はいよ~ いてくる!」
「こっちも用事済んだら行くから」
「うん!」
嬉しそうにクリちゃんと一緒に歩いて行くラヴ姉さん。むしろお姫様抱っこしてクリちゃんを実家へ運んでもらいたかった。
「……なに考えてんの?」
「……なにも考えていません」
「実家の近くで不埒な事を考えるなんて、あんたは大物ね」
「さ、さぁ! 行こう! ちゃんと挨拶するから心配するな!」
「はい」
「勢いで誤魔化しても無駄ね」
「くっ」
「じゃあ…… 行くわよ…… はぁ……」
「行こうか…… はぁ……」
「え……? なんでちょっとテンション下がってるの……? 凄く不安になってきたんだけど…… ねぇ? ちょっと? エルモア? ネピア?」
明らかに先ほどとは違うテンションで実家の方へ動き出す二匹がロリフターズ。その後ろをビクビクと怯えながら付き従うのは屋根裏純愛組が社会派紳士であった。




