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第66話 五人の子どもが商売を始めたら、父親より儲けてしまった

五人が自分たちで失敗を記録し始めてから、数年が過ぎた。

そしてある日。

俺のところへ、アルトがやってきた。

「お父さん!」

「何だ?」

「僕たち、商会を作った!」

俺は庭を走った小さな玩具を思い出した。

あの日、壊れた車輪を直すために五人は一晩待ち、客との約束を翌朝果たした。

あの子たちが今度は自分たちの看板を掲げたのだ。

俺は固まった。

「……商会?」

「そう!」

アルトは胸を張った。

「名前は、五人兄妹資源商会!」

俺は思わず笑った。

「……いい名前だな」

すると、エマが帳簿を持ってきた。

「お父さん!」

「何だ?」

「開業して最初の月の売上!」

俺は帳簿を見た。

金貨百二十枚。

俺は目を見開いた。

「……おお」

ルークが笑った。

「すごいでしょ!」

リリィが続けた。

「町の人から壊れた魔道具を買って、修理して売ったの!」

ノアが胸を張った。

「ぼくが、ちゃんとおかねをかぞえた!」

俺は帳簿をもう一度見て尋ねた。

「……利益は?」

子どもたちが固まった。

「……え?」

「売上は金貨百二十枚だろ?」

「うん」

「材料費は?」

「……え?」

「修理費は?」

「……え?」

「輸送費は?」

「……え?」

俺は帳簿の空欄を指さした。

「全部引いたら、いくら残る?」

五人は顔を見合わせた。

そして

「……あ」

俺は笑った。

「商売は、売上だけじゃないんだぞ」


その日の夜。

五人は一生懸命、帳簿を計算していた。

アルトが言った。

「材料費が金貨三十枚」

エマが続けた。

「修理用の部品が二十枚」

ルークが言った。

「輸送費が十枚」

リリィが続けた。

「販売にかかった費用が五枚」

ノアが叫んだ。

「ぜんぶで、ろくじゅうご!」

俺は頷いた。

「そうだな」

アルトが計算した。

「売上百二十枚から、六十五枚を引くと……」

エマが答えた。

「五十五枚!」

俺は笑った。

「正解」

五人は歓声を上げた。

「やった!」

「黒字だ!」

「儲かった!」

俺は頷いた。

「よく頑張ったな」

すると。

ミリアがやってきた。

「皆、楽しそうですね」

アルトが叫んだ。

「お母さん!」

「何ですか?」

「僕たち、金貨五十五枚も儲かった!」

ミリアは笑った。

「すごいですね」

そして

「ところで」

五人が振り返った。

「皆さん、修理に使った工房の電気代……ではなく、魔力代は計算しましたか?」

沈黙。

「……え?」

「工具の消耗費は?」

「……え?」

「工房を借りた費用は?」

「……え?」

ミリアは笑った。

「もう一度、計算しましょうね」

五人は叫んだ。

「ええええええ!?」

俺は大笑いした。

「ははは!」

すると。

ミリアが俺を見た。

「オリバさん」

「……はい?」

「あなたも、昔はよく計算を忘れていましたよね?」

俺は固まった。

「……そうでした」

子どもたちは大笑いした。


翌日。

五人は、開業初月の費用をすべて計算し直した。

追加の修理費と輸送費も含めた最終的な月間利益は、金貨四十二枚。

それでも、十分な黒字だった。

俺は頷いた。

「……立派だ」

アルトが笑った。

「お父さん!」

「何だ?」

「僕たち、世界有数の商会を作る!」

俺は笑った。

「いいな」

エマが言った。

「お父さんの商会より大きくする!」

俺は頷いた。

「頑張れ」

ルークが笑った。

「世界中のごみを集める!」

リリィが続けた。

「世界中で売る!」

ノアが叫んだ。

「ぼくは、せかいいちのおかねもちになる!」

俺は大声で笑った。

「ははは!」

そして、五人の頭を順番に撫でた。

「……楽しみにしてるぞ」

それから一年が過ぎた。

初めての年度決算の日、アルトは利益の計算より先に、外部の会計士を呼んだ。

ノアが

「自分たちでできるのに」

と言うと、エマは

「間違いを見つけてくれる人が必要なの」

と答えた。

帳簿には売上だけでなく、返品に備える引当金と、職人へ支払う賃金が記されていた。

会計士が小さな計上漏れを指摘すると、五人は互いを責めず、その場で訂正した。

父親の名前を借りずに稼ぐことと、誰の助けも借りないことは違う。

俺は口を挟まず、五人の相談が終わるのを待った。

会計士の確認を経て、五人兄妹資源商会の年間売上は金貨千四百四十枚、修理費と賃金を引いた年間利益は金貨百八十枚だった。

開業初月の利益四十二枚は、その一年の中に含まれている。

俺が金貨一枚で始めた初年度の利益は、帳簿に残る限り金貨百二十枚。

アルトは二冊を並べて言った。

「お父さんの初年度を六十枚超えた。でも、店の大きさは比べないよ」

決算の翌月、五人は利益の一部を使い、修理を断った品の保管棚と無料の点検日を設けた。

金貨百八十枚という数字より、その棚の前で客が安心して相談できることを、俺は誇りに思った。

父の商会の支援を求める書類は、最後まで一枚も届かなかった。

無料点検日を終えた夜。

俺はミリアと二人で、庭に座っていた。

夜空には、満天の星が輝いている。

ミリアが言った。

「……オリバさん」

「ん?」

「五人とも、あなたに似ましたね」

俺は笑った。

「そうだな」

「ごみを見ると、目を輝かせるところまで」

「……悪かったな」

ミリアは笑った。

「いいえ」

そして、静かに続けた。

「……嬉しいんです」

俺はミリアを見た。

「……そうか」

ミリアは頷いた。

「はい」

しばらく、二人で星空を眺めていた。

そしてミリアが俺の肩に寄りかかった。

「……幸せですね」

俺は頷いた。

「ああ」

世界中に工房を作った日々より、今夜は五人の笑顔が心に残っていた。

俺は笑った。

「……ミリア」

「はい?」

「俺、ようやく分かったよ」

「何がですか?」

俺は静かに答えた。

「世界有数の宝物って、金貨じゃないんだな」

ミリアは微笑んだ。

「……そうですね」

俺は続けた。

「ごみ山でもない」

「はい」

「古代魔力炉でもない」

「はい」

俺はミリアの手を握った。

「……家族だ」

ミリアは目を潤ませた。

「……オリバさん」

「今まで、ありがとう」

「こちらこそ」

二人で家の窓を見た。

子どもたちの作業場には、まだ明かりがついていた。

「そろそろ片づけを手伝わせましょうか」

「そうだな。明日も早いし」

そのときだった。

家の中から、突然大きな音が響いた。

ドガァァァン!!

「……何だ!?」

俺とミリアは顔を見合わせ、すぐに家へ駆け込んだ。

家の中から、子どもたちの声が聞こえる。

「アルト兄ちゃん!」

「何だよ!」

「試験用の魔石が煙を出した!」

「緊急停止の札を引いた! もう魔力は流れてない!」

「でも、作業台が焦げちゃった!」

「……え?」

俺は固まった。

ミリアも固まった。

そしてミリアが静かに言った。

「……オリバさん」

「……はい」

「子どもたちに、何を教えました?」

俺はゆっくり答えた。

「……魔道具の修理?」

ミリアは笑顔になった。

「……そうですか」

俺は直感した。

これは、非常に危険な状態だ。

ミリアは家に向かって歩き始めた。

そして

「全員、集合ーーーっ!!」

五人の子どもたちが一斉に叫んだ。

「ごめんなさーーーい!!」

笑っている場合じゃない。

焦げたにおいが廊下まで届いていた。

俺は五人を作業場から離し、ミリアと人数とけがの有無を確かめた。

全員無事だった。

停止札が引かれ、魔力の供給が切れていることを確認してから窓を開けた。

熱い作業台には誰も近づけない。

「……大富豪になっても、気の抜けない家だな」

俺の声は少し震えていた。

「止める札を引いたのは誰だ?」

「ノアだよ」

とアルトが答えた。

俺は末っ子の肩に手を置いた。

「一番大事な仕事をしたな。利益が出ても、誰かがけがをしたら成功じゃない」

エマは作業記録を持ってきた。

ルークは道具を片づけ、リリィは近所に煙の迷惑をかけていないか確かめに行った。

アルトは焦げた机を自分たちの利益で直すと言った。

俺は一度だけ口を開きかけ、飲み込んだ。

五人が自分で責任を引き受けようとしていたからだ。


翌朝、専門の技師が魔石の冷却と残留魔力の消失を確認した。

五人は安全な距離から昨日の記録と比べた。

エマが気づいたのは、冷却用の小さな穴に削りくずが詰まっていたことだ。

ルークは穴を掃除する道具を考え、ノアは停止札を低い位置へ付け直した。

アルトは修繕費だけでなく、試験を中止した日の損失も帳簿に記した。

リリィは近所の人に、試作品の使用を見合わせるよう知らせた。

「お父さん、もう一度試すのは、みんなが確認してからにする」

俺は頷き、検査の順番を子どもたちに任せた。

数日後、安全確認を終えた作業場に近所の人が集まった。

以前なら五人は完成品を自慢しただろう。

今日は違った。

試作品には

「点検中」

の札がかかり、子どもたちは見学者を安全な場所へ案内した。

見物していた少年が

「今度は僕にも直せる?」

と尋ねる。

アルトはすぐに工具を渡さず、

「まず壊れた理由を一緒に考えよう」

と練習台を持ってきた。

少年が自分で答えを見つけるまで、エマもルークも黙って待った。

俺は少し離れた場所で、見学者が安心して作業を見られるか確かめた。

子どもたちは俺に合図を求めず、自分たちで見学の順番を決めていた。


その夜、子どもたちが眠ったあと、俺は古い木箱を開けた。

使い道のなくなった魔石の欠片が一つだけ残っている。

昔なら価値を金貨に換算しただろう。

今は違う。

明日、ノアと一緒に、まず安全に扱えるか専門技師に確かめよう。

ミリアが隣に来た。

「また仕事ですか?」

「明日の約束だよ。俺が答えを出すんじゃない。子どもたちと一緒に確かめるんだ」

「それなら、私も見届けます」

俺はミリアの手にそっと触れた。

金貨一枚で買ったごみ山から始まった商売が、今は五人の手で別の形に育っている。

台所には、五人が翌朝の当番を相談して残した紙があった。

店を開く者、材料を調べる者、休む者。

全員の名前が同じ大きさで書かれている。

俺はその紙を折らずに置いた。

誰か一人の成功ではなく、五人で続けていく商売なのだ。

「明日も、使えるものを一緒に見つけようか」

「ええ。でも、まずは朝ご飯を食べてからですよ」

俺たちは顔を見合わせて笑った。

――特別番外編・完――

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