昼休み
講義が終わり、教室にざわめきが戻った瞬間だった。
「ロジーナちゃん、お昼食べに行こ〜」
コーネリアは自然に声をかける。
「……」
ロジーナは一瞬言葉を失う。
昼食を誰かと食べるなんて、考えたことはなかったからだ。
師匠や先輩のカルロスと食べることもあるが、昼食が一緒になることは滅多になく、結果、一人で黙々食べることがロジーナにとってのランチタイムなのだ。
「あ、ごめん。他の子と約束してた?」
沈黙を戸惑いと受け取ったコーネリアが少し首をかしげる。
「ううん」
ロジーナは小さく首を振った。
「私、いつも一人で食べてたから……」
そう言ってから、はっとして目を伏せる。
友達がいないのだと、わざわざ自分から白状してしまった気がしたからだ。
「ロジーナちゃん、一人で食べたいタイプ?」
コーネリアの声は変わらずやわらかかった。
ロジーナは、大きく首を横に振った。
「じゃ、一緒に食べよう」
「いいの?」
思わず、そんな言葉が口をついて出た。
一緒に、行きたい。
でもそれ以上に、「行ってもいいのか」がわからなかった。
「うん。私、ロジーナちゃんと食べたい」
「……ありがとう」
ロジーナは小さく言った。
「こちらこそ、一緒に食べてくれてありがとね」
「うん」
自然と頷いていた。
「行こっ」
コーネリアはそう言うと、ためらいなくロジーナの手を取った。
柔らかな温もりが伝わり、ロジーナの肩が小さく跳ねる。けれど、その手を振り払うことはしたくなかった。
そのまま二人は並んで歩き出す。
ロジーナの胸の奥はなんとなくあたたかかった。
********
昼食はチキンカレーだった。
「チキンもいいけど、私はやっぱりビーフが好き〜」
楽しそうにご飯にルーを絡めながらコーネリアはそう言うと、ふとロジーナを見た。
「ねぇ、ロジーナちゃんは何が好き?」
「え?」
突然ふられて、ロジーナは固まった。
固まりながらも一生懸命考える。
しかし、何も浮かばなかった。
ロジーナはそれまでカレーライスの種類に頓着したことがなかったからだ。
「……特にどれが好きっていうのは、ないかな……」
「そうなんだぁ〜」
コーネリアの返事は何か含みをもった様子はなかったが、ロジーナはなんとなくもっと何かを言った方がいいと感じ、
「でも……、先輩はよくカツカレーを作ってます」
と、絞り出すように言った。
「え〜、先輩がカツカレー作ってくれるの? やさしい〜」
コーネリアはちょっぴりうっとりする表情を浮かべた。
ロジーナは慌てて手を振った。
カルロスがカツカレーを作るのは、彼自身がカツカレーを食べたいだけなのだ。決してロジーナのためではないという確信がロジーにはあった。
「あ、でも、当番だから、私のために作ってくれるわけじゃなくて……」
「当番?」
「うん。私、内弟子だから……」
「へぇ、内弟子なんてすごいね」
コーネリアは目をキラキラさせる。
「えっと……。だから家事は当番制なの」
見つめられ、居心地が悪くなったロジーナは話題を少し逸らす。
「当番ってことはロジーナちゃんもお料理とかするの?」
「……うん」
「すご〜い。ねぇねぇ、ロジーナちゃんの得意料理は?」
「う〜ん。得意かは分からないけど……シチューとかスープとか……汁物?」
「コトコト煮込むお料理ね」
「うん……。コトコトしてるの見てるの、結構好きかもしれない……」
「え〜、なんかいいなぁ〜。ロジーナちゃんのそういうトコ、結構好きかも〜」
「好き?」
思いもかけない言葉に、ロジーナは首をかしげた。
「うん、好きっ」
にっこりと笑いかけられ、ロジーナは気恥ずかしくなってうつむいた。
「……ありがと。私……、コーネリアさんのそういうトコ……好き、かも……」
「ほんと? うれしぃ〜。私たち、仲良しだねっ」
コーネリアがとびきりの笑顔になった。
「……仲良し」
ロジーナは、言葉をかみしめるようにつぶやいた。




