1-1 我、記憶喪失にて
人生はカレーである。
美味しいような日々にも
適度なスパイスがなければ
飽きてしまうものだから。
{ライス or ナン}
ここでも刺激にあふれている。
水滴の落ちる音がする。
少しひんやりとした感覚と周囲の水臭さを感じた。
「う~ん・・・・?」
そんな中俺は目を覚ました。
「ここは・・・どこだ?」
上半身を起こす。
あたりを見回す。
薄暗く湿気が多い。苔のようなものが真っ暗になるはずであろうこの場所を薄く照らしている。
どうやらここは洞窟のようだ。
自分が今いる位置を中心に洞窟の淵から水が囲むように流れていて、なんとも神秘的だ。
「えーっと?何で俺はこんなところに・・・・あっ」
そうだ。思い出した。
確かあの黒い穴に飲まれて意識を失って・・・・。
「いやでもなんで洞窟にいるんだ?前後関係が合わないぞ?」
全く訳が分からん。
ただあの白い空間には戻ってないようなのが幸いか。
少なくとも脱出は成功していると願いたい。
「考えるのはいったんやめようか。ここも安全とは言い切れんし。」
そう。まだ危機は去っていない。
どうやら転移?でいいのかわからないがこの洞窟の事も調べないと。
俺は立ち上がる。
体の状態を調べるが、特に異常はないようだ。
あんな目にあったのに異常がないのが逆に怖くはあるが、それもいったん置いておこう。
「今日も俺は健康だ~アハハハ・・・・はあ・・・・ん?」
空元気でごまかそうとしても精神的ダメージまでは回復しない。
立て続けにこんな目にあっているのだから仕方ないが。
そう思いながら出口があるのに気づく。
薄暗さと出口の小ささもあって今の今まで気づかなかった。
俺は出口まで近づき中を覗き込む。
今いる場所よりも暗くはあるが行き止まりではないようで、
奥のほうに薄明かりが見える。
苔の発するものとは違うように感じるので日差しではないかと予想した。
「ちょっと狭いけど特に危険はなさそうだし、行くしかないねこりゃ。」
少し怖いが進むしかない。
俺はなけなしの勇気を振り絞り出口を目指した。
「これちょっと腰がきついな!」
洞窟の狭さは成人男性一人が中腰になってやっと一人通れるかどうかというくらい。
なんなら這って出たほうが腰には優しそうだなと思いつつやめた。
服をあまり汚したくはないからだ。
日差しが差し込んでいたあたりまで来て、その眩しさに目をくらませる。
やっと出られると思ったがどうやら外への出口は道中よりさらに狭く、
服の汚れは覚悟しなければならなかった。
「うへえ~マジか。ぎりぎりだなこれ。いけるか?いや行くしかねえけど」
無論道中に抜け穴はなかった。
つまりここから出ないと一生洞窟の中。
つまり餓死にリーチをかけている状況である。
「いで、いててててて!?頭皮が!?頭皮がァ!!」
うーん痛い。
第三者から見た俺は一体どれほど間抜けな姿なのだろうか。
だがこっちはかなり切実である。
俺はなんとか頭を狭い出口から出すことに成功し、周囲を見渡す。
鬱蒼と生い茂った森の中のようでピンポイントに木漏れ日が洞窟の出口に差し込んでいたようだ。
ありがたい。
もし差し込んでなければ、俺は出口を目指す勇気を振り絞れなかったであろう。
まあどのみち出口を目指していたであろうけど行動は早いほうがいい。
運を使い果たしていなければいいが・・・。
「ふう~何とか出れた・・・とはいえこれからどうするかなぁ」
頭から順番に出口をくぐり、なんとか脱出に成功。
これで餓死ルートの可能性は少し低くなったが。
「まずここはどこ・・・?森の中っぽいし・・・富士の樹海とか?」
自分で言ってて頭がおかしくなる。
何でそんな来た記憶のない場所に俺はいるんだ。
でも来た経緯も、そもそも昨日までの記憶がない。
「俺にいったい何があったんだよ・・・あーもう~。」
まずい。泣きそうだ。
もう家に帰って風呂と飯を済ませて布団に潜り込みたい。
なんならゲームとかしたい。人狼とかFG○とかのソシャゲがやりたい。
てかなんでこういう記憶は覚えてて肝心の昨日までの記憶がないんだ俺は!?
「・・・・・泣き言言ってても仕方がない。よし、行くか!」
自分に活を入れる。
体を叩きながら鼓舞し、前を見据える。
視界は森林。鬱蒼とはしているが切り開いていけばいつかは道路なりに出るはず。
最高なのは人に会うことだが、まあ今は進むしかない。
草木かき分けまっすぐ進む。
道中見たこともない虫なり鳥なり見たが、考えている余裕はない。
俺は歩を速めた。
今は情報を集めなければ、今いる現在地の情報を。
かれこれ1時間はあるいたか。
太陽の位置を確認できるところまではこれた。時刻は真昼時・・12時あたりだろうか。
木々も視界がよく確保できるくらいには開けてきて、状況はマシになった。
マシには、だが。
「一向に人に会えん。なんなら道路にも出ない。どこまで深いところにいるんだ俺は!?」
所々に見覚えのない植物もあったりしたのでまさか海外か!?とまで考えたが、
そもそも海外にもあんな動植物なんてあるのか?という結論にたどり着いた。
テレビとかで海外の動植物は見たことがあるが、あんな奇怪な形をしたものは見たことなかった。
言葉で表すなら親子が合体した鳥、果物のような虫、マツタケのようなハエトリグサ?のような植物。
もうファンタジーのお話である。
「方角を知りたくても真昼時じゃなぁ・・・よし、休もう。」
もう軽く現実逃避である。
俺はあたりを見回し、腰かけられそうな倒木を見つけた。
歩き続けた肉体的疲労と意味不明で記憶喪失な状況による精神的疲労。
もうどうにでもなれ。限界だこのやろー。
「感覚と直感で進んできたけど失敗だったかなぁ?いやでもなんも持ってないし、しょーがn」
ドカアアアアアアアアアアアアアン!!!
轟音が俺の言葉を遮った。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?え?は?」
何が起きたのかわからずじまいである。
当然のことでIQが2まで落ちた気さえする。
轟音の方角は自分が据わっている倒木を基準に西側。
距離にして大体500mは離れているはず・・・たぶん。
あれだけの轟音が出るほどの爆発?が近くで起きたのなら俺も無事では済まないはずだからだ。
「自然災害・・・なわけないよな・・・前兆すらなしでこんな森の中に起こる災害なんてなさそうだし」
ただこれは好機でもあると俺は考えた。
自然災害の可能性を無視するのであれば、人為的に起きたものと考えられる。
人為的に。つまり人がいるーー!!
「行くしかねえか・・・まともに話が通じればいいんだけどなあ」
そう。それも考慮しなくてはならない。
協力してもらえる人柄か。
もしくは、敵、か。
最悪外国人でも構わないが暴力沙汰は勘弁してほしいものだ。
そうかんがえ、音のしたほうへ恐る恐る進む。
警戒は最大限に。危険がある場合すぐ逃げられるように。
逆に話が通じそうならば交渉を、救援を求めて。
様々な可能性を考慮し、どんな状況にも対処できるように披露しきった頭を無理させてフル回転。
そんなことを考えながら音の発生地点にたどり着いた俺が見たものは。
「はああああああああ!!」といいながら手から炎を出し、
対面している緑の化け物を攻撃するドレス姿の女の子だった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・???????」
思考不能。キャパオーバー。
ナニコレ?という言葉が頭の中を埋め尽くしている。
今まで無理させてきた脳が、悲鳴を上げてついにノックダウンした。
「エット?コレハイッタイ?エ?ホノオ?ゴブリン?・・・・・????」
なんか舞台の撮影中かなんかなのか?
なんか童話に出てきそうな女の子が手から炎、つまり魔法を駆使して、敵対するゴブリンに対して攻撃してるってことでおけ?
てかあれゴブリンでええのか?
え?あんな生物見たことない。いやある。あるけどそれは二次元の話!!
少なくとも現実に存在していいものではない。だってあれこん棒だよね!?
普通に使いこなしてるよ!?しかも集団で!?
「俺ってばもしかして夢でも見てるんじゃ・・・いやでも痛みはあるし疲れてるし・・・???」
そんな感じでただボーっと眺めていたら、視界の端に入り込んだ。
ゴブリンだ。しかも集団。
今戦ってる奴らとは別・・・つまり別動隊!?
少女からじゃ左斜め後ろなのと、目の前の敵に集中してる関係上完全な奇襲になるーー!!
「後ろだ!!!躱せ!!!!」
瞬間、すでに口に出ていた。
自身の存在の隠ぺいを無くし、危険にさらす可能性もあったにもかかわらず。
「!!??」
少女はノールックでなにか言葉を短く呟きながら、
炎を手から振り返りざまに出した。
奇襲を仕掛けようとして至近距離まで近づいてたゴブリンたちは避けられるはずもなく、
ギャアああああああ!!!!???という奇声を上げながら燃えて、
次第に動かなくなった。
「かはっ!はあ、はあ、はあ・・・!」
息切れを起こしている。
よく見れば血が滴っているし、服もボロボロだ。
ゴブリンたちに襲われてこうなったのか?
「gya!!gya!!」
ゴブリンたちが俺のほうを見て何かを叫んでいる。
まずい。直感が逃げろと叫んでいる。
すぐにここを離れなければーーー!!
「速く逃げて!!」
息を切らしながらも俺に声をかけてくれた。
自分だって余裕ないだろうに。
「さあ!こっちよ!私が相手になるわ!!」
血だって出てる。傷だらけでボロボロのくせに。
それでも俺を助けようとしてる。
「gyaaaaaaaa!!!」
連戦だったのだろう。
弱り切ったものに対して、ゴブリンたちはいっせいに襲い掛かる。
食物連鎖、弱肉強食。
そう言ってしまえば仕方ないのかもしれない。
だがーーーー!!
「・・・・あーくそ。無理に決まってるじゃんよぉ~」
無理だ。
ただでさえこっちも余裕がないというのに。
昨日までの記憶はないし、訳の分からない展開に振り回されているというのに。
こんな化け物の相手なんて。
それでもーーー!!
「見捨てて逃げる選択肢なんてあるわけねえじゃんかよお!!!」
余裕がないのはお互い一緒のようだし、
そもそも少女一人置いて逃げるとか、人間として終わりたくはない!
どれだけ余裕がなくても、張らなきゃいけない命はあるーー!!!
「おいこら不細工ども!!俺が相手だかかってこい!!」
そう言ってゴブリンたちのヘイトを全部かっさらう。
少女ですら俺の行動に驚愕している。
そして、ゴブリンたちが一斉に俺のほうに流れてきた。
「だめ!逃げてええええええ!!!」
「gyaaaaaoooooooooo!!!!」
来る。殺意がくる。
先頭を走っていたゴブリンの一匹が俺に襲い掛かる。
こん棒の大振り。上から下へと振り下ろされる。
「野郎っ!!!」
それを寸での所で左に躱して右フックを顔面へー!
「gyab!?」
「ええっ!?」
そのまま後続を走っていたゴブリンたちのほうへぶっ飛ばす。
どうやら俺が反撃してくるとは思ってなかったらしい。
少女からも驚きの声をいただいた。
「なんだなんだ??意外とノロいな!やってみるもんだぜ!!」
オラオラどうしたと言わんばかりに、手の平を仰向けにし、指を曲げる。
ゴブリンに通じるかはわからんけど、
人間世界での挑発だこのやろー!
「gyaaaaaaaaaaaa!!??」
どうやら通じたみたいだ。
なりふり構わす突っ込んでくる。
さっき殴り飛ばした奴は伸びている。カウンターの形で入ったしな。
少女が倒したのも除けばあと5体!!
「さあ!!お前ら全員!!サンドバックだコラああああああ!!!!」
1VS5。
ハンデの大きい大乱闘が開幕した。
どれくらい時間がたっただろう?
気が付いたらもう夜になっていた。
パチパチと音を立てて、焚火が火の粉を空に上げる。
「気が付きましたか?」
そんな風に声をかけてくるのは先ほど奮闘していた少女。
衣類の汚れはあるものの、怪我の治療は自分で行ったらしく出血も止まっているようだった。
「へえ。おかげさま、っいででっ!?」
「ああもう!まだ動いてはだめですよ!」
体勢が仰向けになっていたので体を起こそうとしたら痛みが走った。
あーうん。思い出してきた。
確かゴブリンたちと乱戦になって、勝ったはいいけど気を失ったのか。
体の要所要所に包帯が巻かれていた。
どうやら介抱してもらったらしい。
「悪いねぇ面倒かけちゃって。・・・いやあ圧勝するつもりだったのになあ。」
「面倒ではないですよ。命の恩人に対してそんな感情は抱きません。」
「??恩人?誰が?」
「あなた以外にいないではないですか!もし声を掛けてくださらなければ私はここにいませんよ?」
「いやあれは口が勝手に動いたというか反射というか・・・てかそれを言うなら見ず知らずの俺の傷の手当までしてもらって介抱まで・・・俺が勝手に忠告無視して戦闘に参加した自業自得だってのに、なんてお礼を言えばいいか・・・ううっ」
「い、いえそんな!な、泣くほどなのですか・・・?」
「いや冗談抜きで今の君はマジで女神よほんま(´;ω;`)」
「女神!?なんて恐れ多い・・・!!」
「いやちゃうのよ聞いて!ほんとにいろいろあったのよ俺!!!」
「わ、わかりましたから落ち着いてください!!あ、そうだパンとスープありますけど食べれそうですか?」
「あっはいいただきます」
「うわっ!急に落ち着かないでください!?」
そんなコントのようなやり取りをしながら俺の事情を話した。
少女は半信半疑のようだったが俺の必死さが伝わったのかひとまず信じてくれるようだ。
「大変な目に合われたのですね・・・そんな目にあいながらも私を助けてくださるとは・・!」
目が輝いている。
この子俺より年下っぽいし素直なんだなあ。
「改めてお礼を言わせてください。危機に瀕しているところを助けてくださり、ありがとうございました・・・!!」
礼儀正しく、なおかつ迷いのない感謝。
誠意と真心がひしひしと伝わってくる。
ええ子なんだなぁ~ほんと。
「無事帰還出来たら再度お礼させて頂きたく。都合がよろしければ是非ご一緒していただきたいのですが・・・」
「いいよ!むしろ助かる!話した通りここがどこかもわからんし、行く当てもなかったんだ。こちらから頼むよ!是非お供させてほしい!」
「ほんとですか!!ではパーティーの結成ですね!ふふふっ!」
とても嬉しそうに笑っている。
改めてみると金髪の長い髪をポニーテールのように編み込んだ、まるで中世のお嬢様のような恰好をしている。
白い肌に藍色の瞳孔が輝き、とても凛々しい。
スタイルも少女のような反応とは裏腹にとても整っている。
なにより笑顔が可愛い。
「そういえば自己紹介がまだでしたね!恩人に対して失礼なことを・・・」
「いいよ全然。そういうのあんま気にしないし。まあゆるーくいこ。」
「はい!それでは改めまして・・・」
そう言いつつ少女は立ち上がる。
姿勢や振る舞いからも上品さが伺える。
「あっ怪我とかは大丈夫?血が出てたよね?」
「問題ありません。自分で治癒の「魔法」を掛けたのち、持ち歩いていた包帯や薬品で応急処置は済ませていますから。」
魔法とかいうワードが出てきてはいるが後で聞こう。
とにかく命に別状がなくてよかった。
生きてることに感謝だ。
「改めまして、私はリリィ=シアフ=アザールと申します。リリィとお呼びくださいませ。」
リリィはそう言うと、深くお辞儀をした。
「じゃあ俺の番だね。今更だけど。」
そういって俺も立ち上がる。
話しているうちに体も少し良くなった。
相手の礼儀に対してはこちらも礼儀で返したい。
「俺も改めて、名前は・・・」
そう。言おうとした。
前置きもいいところに。
自然に、丁寧に。
だが出なかった。
あれ?俺って誰だ?
「・・・ごめんリリィ。」
「はい?」
「わからん」
「え」
リリィも困惑している。
俺の反応と言葉で察したのか、言葉を続けてくれる。
「わからないって、自身の名前も忘れてしまったのですか・・・!」
「あーうん。どうやら、そうらしいわ・・・」
本当に今更だ。なんで気づかなかった。
否、そもそも思考すらしてなかった。
自分の名前を毎日確認なんてしない。考慮にすら値しない。
だってそれが当たり前で。
今に至るまで疑問にも思わなかったのだから。
夜の星々がひときわ輝く。
はたして希望への道しるべか
それとも破滅の予兆か
どちらであったとしても
進むしかないーーー。
皆様お久しぶりです。Jです。
第2話です。切よく書けたと思います。
新キャラクターも出しましたし、話の展開としても満足しています。
戦闘描写はとくにこれからも拘りたいと考えていて、
それぞれの必殺技も考えてあるのでぜひお楽しみに。
それではまた次のエピソードで。




