④悠久からの帰還
「成程。これは一本取られた、と言うべきか」
大魔王が肩を揺らしている。
「しかも、ここまで近付けるまで気配を殺せるようになったらしい」
そして大魔王は振り返り、右の拳を振り上げた。
そして相打ち。
大魔王の拳は背後にいた青年の右頬を確実に捉えていた。だが、頬に当たる瞬間、薄く透明な黒い障壁によって動きを止められる。
それは大魔王の側も同じであった。大魔王の左頬には同じ障壁が展開し、青年の拳を受け止めていた。
「いよぉ、大魔王。あの時は、よくも見捨ててくれたな。お陰で、随分と長い旅になったぜ」
「旅とは楽しいものだそうだ。それはそれは、貴様の何百年の旅はさぞかし楽しかったのだろう。また余に、感謝してもらってもよいくらいだ」
「はっ、言っとけ」
互いに右手を降ろし、二人は肩を叩き合い、笑い始めた。
だが、どこか感情が別の方向に存在しているようであった。
「ま、魔王様………おおぉ、また、その御姿を見られるとは」
シュタインの目が大きくなる。
「はい。皆、無事に帰ってきましたよ」
コルティが微笑む横で、相田と大魔王は左手で殴り合っていた。
互いに意表を突こうと思ったのか、黒い障壁は発生せず、逆の頬がお互いの頬にめり込む。
そして、合い反する岩壁に叩き付けられた。
階段からケリケラが降りて来るなり、壁に背中を預けている魔王と大魔王の姿を見て、全てを察する。
「本当にやってる。どうして、こんな事しか出来ないのかなぁ?」
「まぁまぁ、御主人様もずっとこうしたかったらしいですから」
会ったら、まず一発かますと宣言していた事を実行しただけにすぎないと、コルティが笑う。
壁に寄りかかっていた二人が、肩を揺らしてまだ笑っていた。
「まったく二人共似た者同士………本当に不器用なんですから」
「えぇ………二人が喧嘩したら、この辺一帯何も残らないんだけれど」
いいのかな、とケリケラがとりあえず乾いた笑みで済ませておく。
「いいんですよ。私達はこれで」
長い時を経て得て来たもの。大魔王が未だ経験していない時の流れが始まっていると、コルティは確信する。会社という未知の組織とも、これから戦わなければならない事、人間と亜人達の共存を目指していかなければならない事、そのどれもが、苦しく困難な道である事を誰もが理解していた。
だが、今はこれで良いと改めて自分に頷いてみせた。
「御主人様ならば、必ずや、やり遂げてくれる事でしょう」
大魔王が立ち上がり、遅れて相田も立ち上がる。だが、彼は膝に来ているのか、うまく立ち上がれていなかった。
「もう、しょうがない人達ですね。ほら、二人共、そろそろいい加減にして下さい!」
Lost12 —完ー
そして、歴史は次の失われた時代を刻む




