②賭けの行方は彼女達しか知らない
「因みに、この事態は御経験がありますか?」
大魔王の横に立ったコルティが視線を上げる。
「ない。そもそも、帰路の呪法が完成した事も、奴を指定した時代に送れた事も、余にとって初めての流れだ」
何百と同じ時間を繰り返してきたが、この状況は大魔王にとって未知の領域だった。
その大魔王が静かに鼻で笑う。
「余の友は、ほとほと余の予想を超えて来る。まったく、素直に帰って来ればいいものを」
「それが御主人様というものですよ」
コルティが微笑み、時空溝の前に立つ。
「ね! 用意しておいてよかったでしょう?」
してやったりとケリケラがコルティと背中合わせになるように立つ。
「コルティ。ボクが増幅をかけたら、もう殆ど動けなくなるから………置いていったら、末代まで猫亜人族を恨むよ?」
「空から常に恨まれては、猫亜人達に勝ち目はありませんね。大丈夫です。怖いので、ちゃんと掴んででも引っ張りますよ。その代わり、痛いと言っても放しませんからね」
コルティの握る手から、聞こえてはいけない音が聞こえてくる。
「あ………お手柔らかにお願いします」
大魔王が両手を前に伸ばす。
「認めよう。この賭け、貴様達の勝ちだ」
「愛した男がいると、女の勘は鋭くなるのですよ」
コルティが言い切る。
「………覚えておこう」
時空溝を囲むように魔方陣が構築されていく。
「時空溝を発動させる」
「こっちもいくよ! 魔法増幅!」
ケリケラが大魔王に向かって翼を羽ばたかせ、その魔力を倍加させる。すると、魔方陣が刻まれていく速度が格段に上がり、瞬時に時空溝を取り込み、固定させた。
「コルティ………後はよろしくね」
ケリケラの膝が曲がるが、コルティはそれを抱きかかえて自分に寄せる。
「私の空間魔法で、私とケリケラを固定。時空溝に一人として誤認させます」
シュタインはそれを静かに見守っていた。
帰路の呪法は既にない。敬愛する王も、彼女達ももう二度と会う事は叶わなくなる。
だが、彼女達を止める事はその矜持を傷付ける事になる。故に、この光景を忘れないようにと目に焼き付ける事にした。
「おさらばでございます」
その一言だけを二人に送る。
「えぇ、またここでお会いしましょう」
コルティが優しく冗談を返す。
「余からも、友に言伝を頼みたい」
「伺いましょう」
「大魔王をこき使うのも、いい加減にしろ」
やや苦悶の表情を見せながら、大魔王が口元を緩めてみせた。
「それなら私と同じですね。承知しました」
それでは。
コルティは小さく会釈をすると渦の中へと走って行った。




