①優しき青年に物申す
シュタインの足元へと落ちた人間。それは、紛れもなくリコルだった。彼は、全身砕けた鎧を纏い、金属の亀裂から大量の赤い線を引いている。
「え、いやだって………さっき、出発したばかりじゃ!」
「ケリケラ! それよりも治療を!」
コルティが即座に駆け寄り、治療を始めた。
まるで巨人に握りつぶされたかのような怪我だが、彼の眉はまだ動いており、その心臓が止まっていない事を示している。
淡い緑の粒子がコルティの両手から放たれ、特に怪我の酷い上半身へと集めていく。
「まさか、失敗!?」
ケリケラが残り僅かな魔力で増幅をかけ、コルティを支援し始める。
「いや、そうではない」
大魔王が時空溝とリコルを交互に見て、失敗ではない事を否定する。
「コルティ殿、恐らく彼は我々と別れてから、かなりの時間が経っているかと」
シュタインが、彼の髪の長さが変わっている事や、装備していた物が異なる事からそう結論付けた。
大魔王もそれに頷き、状況の把握に努める。
「この呪法が発動出来るのは、余の友のみ。そして一人しか帰れない。そして帰って来た者が、瀕死の元勇者………さて、この状況から何を導くか」
間違いなくリコルは目的の人物と接触し、送られるまで目の前にいた。そして彼が瀕死になる程の戦いが起きた。この時、大魔王達が知る者がとる行動とは何か。
「御主人様は、相変わらずという事ですな」
シュタインが肩を小刻みに揺らし、目じりに涙を浮かべていた。
「大魔王様」
治療しながら、コルティがこの場で最強の人物の名を呼ぶ。
「今発動している時空溝にさらに時空溝を重ねる事は出来ますか?」
「………可能だ。だが、残りの魔力ではあと一度が限界だ」
大魔王も先が読め、呆れ始めた。
「じゃぁ、ボクが増幅すればさらに安定するよね!」
「………理論上はそうだ」
さらに大魔王が呆れる。
「シュタイン殿、後の治療をお願いします」
コルティが魔法を解き、立ち上がった。
シュタインが肩をすくめ、仕方がないと引き継ぐ。
「やれやれ………お願いですから、魔王様には手加減をお願いします」
「さぁ、それはお約束できないかもしれません」
彼女は笑って振り返るが、その表情は引きつっていた。
「いくらお優しいとはいえ、私達の心配を無に帰すような振る舞いには、直接お話ししないと分かってくれなさそうなので」
「本当、それ! もう怒ったんだから!」
ケリケラも自身の感情を表情に乗せている。




