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③約束

 まずリコルが口を開く。

「………俺は向こうに着いたら、何をすればいい」

 既に彼は決断を終えていた。

 次に大魔王が答える。

「余の友を探し、この時代に帰してこい」

「その後は? それだけなら他の奴等を説得できる理由にならないだろう」

 他にもあるのではないかと尋ねた。

「一つある。それが終われば、後は好きにするがいい」

 大魔王の即答に、リコルが鼻で笑う。

「初めからそのつもりか………まぁ、いい。その一つとやらを伺わせてもらおうか」

 彼は大魔王の要求に耳を傾けると、長椅子の背もたれに体を預け、空の見えない空を見上げた。


―――そしてその『一つ』を耳に入れる。


「………そいつは重要な役目だ。俺が行かないと、教科書の文面が変わってしまう」

 単純な依頼だが、予想以上の内容に、リコルは軽口で返す事が精一杯だった。

 彼は長椅子の背もたれの上に腕を乗せたまま、高い空の代わりに映る大木の天井を見上げ続ける。様々な思いを脳裏に巡らせながら、人差し指で背もたれの木材を規則正しく叩く。


「一つ、いや二つ条件がある」

「………聞こう」

 大魔王は振り返らず、腕を組んだままリコルの言葉に耳を傾ける。

「妹の仇を………会社(奴等)を潰してくれ」

 かつての敵だった大魔王達と合流した最大の理由。その想いを託そうとした。

「頼まれる程の事でもない。余にとっても、あの者達の存在は好かぬ」

 人生を賭けたリコルの望みを、大魔王が一言で片付ける。


「残りの一つは?」

フォースィ(あの子)の行方を………彼女が困っている時に、あんたの力で助けてやってくれ」

 社会から隔離されたこの里で彼女の行方を捜す事は、不可能に近い状態だった。それでも彼は、妹が大切に育て、その命を賭けてまで守ろうとした彼女がまだ生きている事を信じ、無限の刻を生きる事が出来る男に、全てを託そうとした。

「貴様がこれから成そうとする決断と行動から比べれば、それも容易い願いだ。良かろう、その二つ、余の名において果たすと約そう」

 大魔王は彼の願いを受け入れる。

 だが、この願いは既に何度も受けて来た。そして、二百年後にその願いを果たしたが、大魔王はリコルに何も伝えなかった。


 再び二人の間に沈黙が訪れる。


「………こういう時は『ありがとう』と言うもんだ。覚えておけ」

 未だに目を合わせようとしないリコルの独り言に、大魔王は小さく鼻で笑い、肩を静かに揺らした。

「貴様の方から範を示すものだと待っていたが………まぁ、覚えておこう。二百年後の知識を持ってしても、まだまだ機微な感情を理解するには遠い様だ」

「はっ、いつもそれを言えば許されると思うなよ?」

 リコルの鼻笑いに、大魔王が肩を揺らし、ゆっくりと立ち上がる。

 そして、ベンチに沿うように歩き始めた。

「大魔王が、元とはいえ勇者に感謝を述べる時が来るとはな」

「はっ、俺だって大魔王に感謝される日が来るとは、思ってもいなかったさ」

 そう言って、リコルは大魔王を背中で見送る。

 そして一人残された広場で、長椅子に座り続ける。張り詰めた緊張が途切れ、子ども達の声や生活の音が彼の耳に入って来るようになった。


「下手くそめ」

 リコルの頬にうっすらと一筋の雫が流れていく。

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