⑩帰路の呪法
「何と言うか………余りにも壮大過ぎる話であります。私如きが理解するのには、残りの人生では足らぬようです」
シュタインが一度咳払いを済ませ、話をまとめようとする。
「理解できるかは別として、今の大魔王様は二百年後の知識や情報、そして研究の成果をお持ちになっているという事で、よろしいでしょうか」
大魔王が頷く。
「恐らく次の実験で、あの者のいる時代へと飛べるはずだ」
その事実だけは誰もが理解でき、周囲から声が漏れる。
「………今更言うのも何だが、既に完成した研究があったのなら、俺が毎回実験台にされていたのは何だったんだ?」
「あれは別の実験だ」
「この野郎」
リコルの拳が震えだす。
「り、リコル殿! 話を、話を最後まで聞きましょう!」
シュタインが彼の肩を掴み、まるで馬をなだめるように再び静止させる。
「分かってるよ………だから肩を揺らすな。それで? 俺を使った別の実験というのは何だったんだ?」
「単純な話だ」
大魔王は右手を天井に向けて魔力を集中させると、拳よりも二周り小さい球体を手の中から出現させた。それはガラス玉のような透き通った素材の中に黒と紫の靄が散らばり、さらに無数の文字が星々のように点在し、回転ていた。
球体が大魔王の手から離れ、テーブルの上で澄んだ黒光を、淡く放ち続ける。
周囲の視線がテーブルの上に置かれた球体に向けられた。
「この時代に帰る為の呪法を詰めた物だ。名前はまだないがな」
「これはクレーテル石………いえですが、こんな透明度の高い鉱石は見た事もありません」
コルティが息を飲む。
魔力を込める事が出来るクレーテル石は、一定の方向に割れる灰色の鉱石である。また高価であるが宝石の中にもクレーテルを貯蔵する事が可能なものもある。
だが、貯蔵できるのは魔力の源であるクレーテルが基本であり、相田の様に属性を付加できる存在は、世界の中でも限られている。
「特定の魔法や呪法を保存できる技術は聞いた事がありませんな」
シュタインは恐れ多すぎて触れる事すら叶わないと、額に集まる汗を拭い取った。




