⑨二百年後からの使者
「まず初めに言っておくが、余は全ての未来を正確に見通せる訳ではない。例えるのならば………対岸の者が池に石を投げるであろう、という情報を知っているという程度だ」
難しい例えに、ケリケラが首を傾げる。
だが、内容を咀嚼したシュタインが、大魔王の言葉を自分なりの言葉で解釈する。
「つまり、対岸の誰が、いつ、どの位置から、どの程度の石を投げるかまでは、予測出来ない、という意味でしょうか」
「その通りだ」
シュタインが僅かにリコルの表情を伺い、彼が視線を左右に動かしている事を確認するが、彼はそれ以上の行動に発展させなかった。
「大魔王様にそのような能力がある事は初めて聞きました………その御力は、始めから持ち合わせていらっしゃったのですか?」
事実であれば、最も質の悪い話へと化す。
大魔王はカップの中で漂う濁った液面を眺めたまま口を開く。
「いや………これは魔法の類ではない。余にそれを教えた者がいる」
「まさか、ここにきて予言者や占い師の知り合いが出来たとか言い出さないだろうな」
リコルが冗談を飛ばすが、大魔王から出た言葉それ以上の意味をもった。
「余自身だ」
「は?」
「え、どういう事?」
リコルとケリケラの眉が一気に傾く。
「正確には、二百年後から来た余自身、というべきか」
「二百年後の—――」「大魔王様」
余りにも荒唐無稽な内容に、流石のコルティとシュタインも言葉が続かなかった。
大魔王が話を続ける。
「余は、未来から来た余と一体化し、二百年分の情報と研究の成果を手にする事に成功した。それが三年前の事だ」
話についていけない周囲の反応に構わず、大魔王が話を続けていく。
大魔王が言うには、二百年後から来た大魔王が、単身で研究を続けていたものの、正確な過去に戻る呪法を編み出すまでに時間を要し過ぎた事、その為にかつての仲間達の多くを寿命や病気、戦等で失ってしまったという。
その仲間の中に、シュタイン、そしてコルティやケリケラの名前が大魔王の口から並べられる。




