⑧感情と理性
「………リコル殿」
シュタインの代わりに、コルティが彼の名前を呼ぶ。
「貴方の仰りたい事は痛い程に分かります………私も、御主人様が過去へと飛ばされる事も既に知っていたのではないか、知っていてなお見捨たのではないかと、そう思ってしまいます」
「だったら!」
「だからこそなのです!」
コルティの目に力が入り、リコルの言葉を遮った。
「大魔王様の話を最後まで聞きましょう。リコル殿がどう行動するかは自由ですが、それは全てを聞いてから行動しても遅くはないのではありませんか?」
コルティも必死に感情を押さえつけている。テーブルの下では両拳を握り締め続け、ついには自身の爪で掌を傷付け、白いエプロンの一部を赤く染め始めていた。
ケリケラも苦渋に満ちた表情で顔を上げる。
「ボクも………最後まで聞くべきだと思う。結果によっては、リコル、あんたに味方してやってもいいからさ」
「………くそっ」
自分だけが感情的になっていた事に、リコルは目を瞑り段々と冷静さを取り戻していく。それでも握り締めた拳は震えたまますぐには下がらず、数秒してようやくテーブルの上に置かれた。
そして大きく息を吐き、彼は肩の力を抜く。
「分かった。最後まで話を聞こう………だが、結果によっては、俺は今後一切、お前達に協力するつもりはない」
重力に任せるように椅子へと腰かける。シュタインは大きく鼻から安堵の息を漏らし、無言のままテーブルの周囲に散った食器類を片付け始めた。
テーブルの上が概ね綺麗になり、新たに珈琲を入れ直した頃には、場の空気は幾分か納まっていた。
「お待たせしました、大魔王様」
割れた食器を処分してきたシュタインが着席し、落ち着いた声で話を切り出した。
「続きを………お話しして頂けますか」
全員の視線が大魔王へと向けられる。
「………良いだろう。必要な条件は全て揃ったのだからな」
大魔王も、ようやく全員の視線を受け入れるように顔を向け、頬を僅かに緩めた。




