②強敵に挑む
「何か聞きたい事が、あるのではないか?」
大魔王の声に、コルティの手が止まる。
「………尋ねれば、答えて頂けるのですか?」
汗を拭き終わったタオルをベンチに戻し、柔らかい表情のまま、彼女は笑って見せた。
大魔王も、右手で自らの顎に触れながら小さく微笑み返す。
「尋ねれば、か。答えても良いが、余からも条件がある」
大魔王の微笑みに影が入り、ついには冷徹な表情へと移り変わる。
「余も久々に体を動かしたくなった。少し相手をしてもらおうか」
「………っ!?」
大魔王の右手が上がり、左手が下がっていく。
単純で、誰にでも真似できるだけの動作でしかなかったが、コルティはまるで四肢を鎖で繋がれた動物のように動けなくなった。空気があるにもかかわらず呼吸ができず、風もないのに体感温度が下がっていく、体の熱は外へと逃げ、下半身の感覚と共に上下左右の方向感覚すらも失われていく。
「これが………大魔王様の」
幻術か魔法の類か。だがどれも違う。コルティは、自らの内から沸き上がる生存本能によって、動くべきではないと全身が警報を発していた結論に辿り着く。
それ程の存在が、目の前に立っていた。
「………ふぅ」
コルティは腹部の下に力を込め、大きくゆっくりと縦に細めた口から息を吐き出しながら集中力を高めていき、本能に制された精神を取り返す。そして体の一点を強く意識し、自分の存在と決意を全身の細胞に認識させる。
「ほぉ………動けたか。それだけで貴様は、一人前だ」
大魔王の両足が開き、動きが止まる。
恐らくその姿が完成した構えなのだろう、コルティはまるで空気の塊が正面からぶつかってくるかのような衝撃に襲われた。
「構わぬ」
大魔王が姿勢を崩す事無く、言葉を紡ぐ。
「殺す気で来るがいい。もし、余を満足させる事が叶えば、貴様の疑問に答えよう」
「本当ですね?」
「余に、二言はない」
以降、二人は口を閉じた。
「………行きます」
コルティの目の奥で深みが増す。そして腰を低くさせていくと、白銀の斧を後ろへと構え直し、強く握り締める。
いつの間にか虫の声も、風の音も止み、斧の柄を握り締めていく音のみが流れていく。
コルティが地面を蹴り、正面から大魔王に挑んだ。




