⑤呪法の精度
「御主人様に………会える」
コルティの中で心臓が跳ね上がるように静かな興奮が沸き起こるが、リコルは落ち着けとすぐに右手を見せる。
「水を差すようで悪いが、この呪法はまだ成功していない。何せ、あいつが飛ばされた正確な時間どころか、場所さえ分からない上に、過去に戻ってもこの呪法は長くて一日しか維持できない。俺もその制限時間内に、呪法に乗らないと帰って来られなくなるから、動ける範囲も限られる」
逆に言えば、相田と一日以内に会って戻って来られる時間と場所に出ないと意味がないと、リコルが解説する。
「既に数百回近く試しているが、ウィンフォス王国が建国される前後の時代に行けた事は、一度もない」
大魔王は修復された場所から動かず、右手の上で展開させた魔法陣の球体を見つめながら左手で文字を書き込んでいた。そして作業の手を止めると、手のひらの球体を消失させ、コルティ達に体を向ける。
「余の魔力をもってしても、決まった時代と場所に送り届ける事は難しい。この五年の成果といえば、精々一人の人間を過去に送り込み、死体にならない状態で戻って来られる程度の呪法を開発したにすぎん」
本来ならば、それだけでも末恐ろしい魔法だが、大魔王が言うとまるで新しい料理に挑戦する程度の難しさにしか聞こえてこない。
「しかし、時間をかければもっと精度の高い呪法になるのではありませんか?」
コルティにとって、過去に飛ばされた主に会う現実味を帯びた事に高揚し、いつかは完成する希望を抱こうとする。
だが、大魔王が返した言葉は残酷であった。
「正論だが………そうだな、あと二百年もかければ、概ね完成するだろう」
「いや、それ………私達、生きていないんですけど」
ケリケラが意味がないと呆れながら目を細める。どんなに肉体的に優れていようとも、亜人の寿命は人間と同じか、やや長い程度。当然ながら、二百年の時を生きる事は不可能だった。
「しかも、会社の妨害を一切受けない事が条件です」
シュタインが、リコルの分を含め、全員分のお茶のお代わりを持って来る。




